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藤岡幸夫×神尾真由子/ウォルトンの協奏曲とハチャトゥリアンの交響曲第2番

10月16日(水)ザ・シンフォニーホールへ。藤岡幸夫/関西フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会を聴く。ヴァイオリン独奏は神尾真由子。

  • ウォルトン:ヴァイオリン協奏曲
  • ハチャトゥリアン:交響曲第2番「鐘」

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名曲ライブラリーを網羅するかのように大量のレコーディングを残したカラヤン/ベルリン・フィルはエルガー、ヴォーン=ウィリアムズ、ブリテン、ディーリアス、アーノルド、ウォルトンらイギリスの作曲家の音楽を一切取り上げていない(ついでに言えば「剣の舞」を含めハチャトゥリアンも皆無)。またウィーン・フィル、パリ管弦楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ(オランダ)がこれらを演奏することも滅多にない(またコープランド、ガーシュウィンも)。つまりヨーロッパ大陸の人々はイギリス音楽(+アメリカ音楽)を完全に見くびっている。何故か?

ひとつには上に挙げた人々は全員20世紀の作曲家だということが挙げられる。ヘンリー・パーセル(1659-1695)亡き後、イギリス音楽は18−19世紀の約200年間、暗黒時代が延々と続いた。その間にヨーロッパ大陸で古典派ーロマン派の音楽が目覚ましい発展を遂げた。だから大陸側から見れば、ブリテン諸島は完全に〈後進国〉なわけだ。バカにもされる。ただ芸術全般が〈後進国〉だったわけではなく、演劇に於いてシェイクスピアは昔から高く評価されており、大陸の劇場でもしばしば上演され、大作曲家たちも彼の戯曲に纏わる多数のオペラ・オーケストラ曲を残している。その一覧は下記事にまとめた。

さらに言えば、イギリスの作曲家の評価が低いのは調性音楽を守ろうとした点にもある。20世紀は十二音技法・セリー・無調音楽が席巻した時代だった。だからエルガーとかヴォーン=ウィリアムズは〈時代錯誤〉の烙印を押された。これはハリウッドに渡り、映画ごときに〈魂を売った〉〈裏切り者〉であるウィーンの作曲家、エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトが長きに渡りヨーロッパで黙殺されてきたことと無縁ではない。21世紀に入り調性音楽の復権が始まったことで、漸く彼らの名誉も回復されつつある。

僕が初めてウォルトンを聴いたのは中学生の時。ジョン・ウィリアムズ/ボストン・ポップス・オーケストラのLPレコード「ポップス・オン・ザ・マーチ」を買ったら、戴冠式行進曲「宝玉と王の杖 」が収録されていたのだ。気高い(noble/decent)素敵な曲だった。次にスタンリー・ブラック/ロンドン・フェスティバル管弦楽団のアルバム(フィルム・スペクタキュラー・シリーズ)で、映画音楽「スピットファイア」に出会った。前奏曲とフーガがめちゃくちゃ格好良かった(cool)!

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ウォルトンのヴァイオリン協奏曲はヤッシャ・ハイフェッツの委嘱により作曲された。他にハイフェッツの為に書かれた名曲として、フランツ・ワックスマン(ドイツ出身。映画「サンセット大通り」「陽のあたる場所」でアカデミー作曲賞受賞)の「カルメン幻想曲」(神尾真由子のCDあり)や、ミクロス・ローザ(出身国のハンガリー読みはロージャ・ミクローシュ。映画「白い恐怖」「ベン・ハー」でアカデミー作曲賞受賞)のヴァイオリン協奏曲第2番がある(ビリー・ワイルダー監督「シャーロック・ホームズの冒険」に転用された)。また(委嘱は別人だが)コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲もハイフェッツが初演した。

滅多に聴く機会のないウォルトンのコンチェルトだが、とっても美しい。神尾が弾くのは今回初めてだという。第1楽章 第1主題は極めて静謐に歌い出し、咽び泣くような音色を奏でる。ジョージ・ハリスンが作詞・作曲したビートルズの名曲"While My Guitar Gently Weeps"を想い出した。憂いを帯びた旋律がネットリと絡みつく。展開部に至ると神尾はそれまで抑制してきた感情を一気に開放、燃え上がるパッションで聴衆を圧倒した。「ナポリ風の気まぐれなプレスト」と記された第2楽章は野太い音で妖艶。映画「にがい米」(1949)に登場するシルヴァーナ・マンガーノら 、逞しく豊満なイタリア女たちを想起させた。なお、ウォルトンは1948年にイタリア・ナポリ湾に臨むイスキア島に移住した。

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兎に角、神尾の演奏は途轍もなく、藤岡/関西フィルも好サポート。是非この曲はレコーディングしてもらいたい。また真由子さん、東京で弾いたコルンゴルトのコンチェルトを関西でも披露してくださいね。首を長くして待ってます。それといつか、ロージャのヴァイオリン協奏曲 第2番も聴かせて欲しいな。

さて、ハチャトゥリアンはアルメニア人だが現在のアルメニア共和国は1991年に独立するまでソビエト連邦に属していた。彼はショスタコーヴィチ、プロコフィエフと共にソビエト3巨匠のひとりと称されたが、どうもソ連ーロシアの指揮者からの評価は高くないようで、例えばエフゲニー・ムラヴィンスキー(交響曲第3番の初演者)とキリル・コンドラシンは交響曲第3番をレコーディングしているが、交響曲第1番と第2番は取り上げておらず、エフゲニー・スヴェトラーノフやゲンナジー・ロジェストヴェンスキー、ヴァレリー・ゲルギエフに至っては交響曲を完全無視である。

だから交響曲第2番「鐘」のまともな録音としては作曲者自身のものと、チェクナヴォリアン、ヤブロンスキー、ストコフスキー、(パパ)ヤルヴィくらいしかないというのが現状で、はっきり言って珍品中の珍品だ。アメリカで初演したのはレナード・バーンスタインだが、レニーも音源を残していない。気に入らなかったのだろう。

阿鼻叫喚の大爆音で開始され、野蛮で土着的な音楽が展開される。ハチャトゥリアンの音楽って、どこか伊福部昭と共通点がある気がする。オスティナート(ある一定の音型が執拗に繰り返されること)へのこだわりとか。伊福部のルーツはアイヌの民族音楽であり、アイヌとアルメニアが似ているのかも知れない(集合的無意識)。キングコングが出てきそうだと思った(伊福部は「キングコング対ゴジラ」を作曲している)。

高カロリーでハイテンションな音楽に50分晒されていると最後は胃が爛れ、胸焼けがしてきた。"Too Much (お腹いっぱい)!!"と思ったが、極めて得難い体験をさせて貰ったので、藤岡にはただただ感謝である。

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