森見登美彦@むこじょ
10月19日(土)武庫川女子大学(むこじょ)へ。
「作家と語る:森見登美彦さんをお迎えして」を聴講した。
今回は第6回目。過去登壇した作家は、
- あさのあつこ
- 髙田郁
- 小川洋子
- 桐野夏生
- 森絵都
武庫川女子大学・短期大学部の学生1万人を対象にした「読書に関わるアンケート調査」の結果を受けて招聘する作家を決めているそう。
公江記念講堂には1,800人の聴衆が集った。森絵都の時は500人程度だったらしい。
来場者への観覧申込時のアンケート「私が一番好きな森見作品とその理由」の集計結果は以下の通り。
1.夜は短し歩けよ乙女 128票
2.四畳半神話大系 66
3.有頂天家族 62
4.恋文の技術 51
5.ペンギン・ハイウェイ 33
6.宵山万華鏡 19
6.(同点)太陽の塔 19
8.新釈 走れメロス 18
9.きつねのはなし 15
9.(同点)熱帯 15
21世紀に出版された小説のうち(全世界の、すべての作家を対象とする)「夜は短し歩けよ乙女」よりも面白い作品を僕は知らない。今回のアンケートでもダントツの1位だった。
トークセッションには武庫女の現役生・OGの計8名が登壇した。
基調講演とかはなく、参加者が一人ずつ自分が好きな森見作品を語り、著者に質問をぶつけるという形式で進行された。約1時間半。
「太陽の塔」日本ファンタジーノベル大賞を受賞した処女作。森見が得意とする腐れ(大学生)具合が詰まっているから大好きと。〈質問〉「うごうご」「ふはふは」などの珍しいオノマトペが多用されているのはなぜですか?〈回答〉文章がゴツゴツ濃いので、こわばりを抜くために入れている。そのギャップを楽しんでもらいたい。表現は意外とテキトーです。
「四畳半神話大系」四畳半に拘るのは時代錯誤で古めかしいから。京都大学に入学したとき、父親が勝手に下宿を決めてきた(森見は奈良県出身)。自分の原点。大学時代はライフル射撃部で、男友達の明石君と四畳半でくすぶっているだけだった。全然モテなかったのに、ネットで(作家になった今の自分を投影して)「森見は大学生の時モテた」とか書かれると激しい怒りを覚え、「ちがうんだ」とブログ〈この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ〉で全否定した。小説のことだったらどんな悪口を書かれても腹を立てたりはしないのだけれど。ある意味、自分の弱点をさらけ出している感じかな。
明石 夕方になって日が傾いた頃に、突然森見君が「押井守を知ってるか」って言い出して(笑)「短篇集のレーザーディスクとか一式持ってるから、今から俺の下宿に観に来るか」って。
森見 それはね、高校の時には、誰とも押井守の話とかできなかったんですよ、まったくまわりに通じなくて。そしたら明石君が押井守の名前を知ってたから、「この人なら!」と思ったんでしょうね(笑)。
明石 たまたま『攻殻機動隊』が好きだっただけなんですけどね。後日森見君の家に泊まったら、押井守のレーザーディスクをかたっぱしから見せられた(笑)
文藝 2011年05月号【森見登美彦】特集より
「きつねのはなし」僕自身に怖い経験はない。幽霊とかは信じていない。こういった怪談話で心がけていることは文章のテンションを上げないこと。小説が読者に与える印象は主人公のエネルギーで決まる。元気ならば楽しい話になる。この小説は登場人物たちがやられていく。答えがない、解決しない話が好き。真相は読者が決めればいい。
「夜は短し歩けよ乙女」山本周五郎賞受賞。一番儲かった、親孝行な娘。この小説で食っているようなもの。語り手のキャラクター、語り口で〈京都をどう見るか〉が決まる。先に〈京都をどう描きたいか〉があるわけではない。ヒロインである黒髪の乙女のパーツにはモデルがいるが、トータルでは自分の内なる〈乙女的なもの〉が投影されている。彼女の創作により、灰色だった大学生活が虹色に変わった。
「新釈 走れメロス」最初に「山月記」を現代京都を舞台に転生させたいという動機があった。他の四篇(藪の中、走れメロス、桜の森の満開の下、百物語)は編集者と相談しながら決めた。
「有頂天家族」阿呆の話が書きたかった。〈面白きことは良きことなり!〉が許される世界。普段言い切れないことを語って開放されたかった。
「恋文の技術」〈質問〉おっぱいという言葉がいっぱい出てくるのはどうしてですか?〈回答〉ピカソに「青の時代」があるように、「おっぱいの時代」だったのです。理由はよく判らないな。「ペンギン・ハイウェイ」もそうでしょう?
「ペンギン・ハイウェイ」日本SF大賞受賞。少年はヒーローである。アオヤマくんは将来、腐れ大学生にならないと思う。むしろウチダくんの方が危ないかな。アオヤマくんは僕がモデルではなく、こうしたかったという心のヒーロー。彼の父親はアオヤマくんをモデルに発想した。だからスマートで人間味がない。僕の親父が「これって私のことだろ?」と訊いてきたが、全然違う。ウチダくんの方が少年時代の僕に近いかな。アオヤマくんは賢いけれど、時に幼い面ものぞかせて、その落差で読者をガクンとさせようと考えた。
現在は新刊「シャーロック・ホームズの凱旋」を準備している。語り部はワトソン。
浪人して京都大学に入学、留年して4回生の頃に1年休学し、大学院にも行ったので京大で足掛け7年間過ごし、しゃぶり尽くした。その間にやっていたこと=伏線は全て小説で回収した。決して無駄にはならなかった。でも今はもっと勉強しておけばよかったと、少し後悔している。
〈質問〉女子大についてどういうイメージをお持ちですか?〈回答〉大学生の時に、寿司屋の配達のアルバイトをしていた。京都ノートルダム女子大学に行ったときは、捕まるんじゃないかとドキドキした。
好きな食べ物について。今は王将の餃子にはまっている。天理スタミナラーメンばかり食べていた時期もあった。食にこだわりがある方ではなく、たまたま好きになった。
〈質問〉森見さんが幸せだと感じるのは何時ですか?〈回答〉日課の繰り返し。朝起きてベーコンエッグを食べる。9時くらいから原稿用紙に向かって書く。お昼になったら歩いて王将に向かう。ああ、いい天気だな。金木犀の匂いがする。そんなとき。毎日のコツコツが大切。
後で自分の小説を読み返してみて、「よくこんなの書けたな」と文才に惚れ惚れすることがある。神がかっていたというか、自分が書いたものじゃない気がする。
編集者について。いつも自分が書き上げるのを楽しみにしてくれる、喜んでくれると嬉しいな、と思う。
〈質問〉語彙を増やすにはどうすればいいですか?〈回答〉辞書を読んだりすることは無駄なことだ。語彙があればいいというものではない。自分でも腐れ大学生のうんちくを書いていて「ウザ」と思うことがある。
「じつに心安まる眺めじゃないか」
— 『熱帯』(森見登美彦・著)公式 (@morimi_nettai) October 22, 2019
「ここが君の帰るべき場所だったのかもしれないな」#10月19日武庫川女子大#熱帯375ページ #森見登美彦 pic.twitter.com/IivWXjwOkm
大変意義深い催しだった。来年は「蜜蜂と遠雷」で話題沸騰の恩田陸を希望する!!
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