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2019年10月15日 (火)

【考察】「天気の子」は米アカデミー賞の日本代表に相応しいか?/MX4D & 4DX体験記

まず大前提として読者の皆さんに知っておいて頂きたいことは、僕は新海誠監督「天気の子」が大好きだということだ。

今までに8回観た。内訳は、通常上映3回、IMAX上映(109シネマズ大阪エキスポシティ)3回、MX4D(TOHOシネマズ)1回、4DX(109シネマズ)1回。僕が過去映画館で観た最高回数は1982年に公開された「E.T.」の7回だったので、実に37年ぶりの記録更新である。

邦画・洋画併せて今年のマイ・ベストワンになることは100%間違いないし(第2位は今のところ「蜜蜂と遠雷」)、米アカデミー賞の長編アニメーション部門は絶対に「天気の子」に与えられるべきだと思っている。最有力と言われる「トイ・ストーリ4」なんか目じゃない。

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9月27日、公開11週目を迎えた「天気の子」は4DXMX4Dでの上映を開始した。4Dとはアトラクション型の上映システムで、体感型機能として“水” “風” “フラッシュ” “モーションシート” などが加わった。

4DX韓国のCJ 4DPLEX社が開発し、2009年から提供が開始されたもので、もう一方のMX4DロサンゼルスのMediaMation社が開発し2012年ごろから使われ始め、日本では2015年4月10日にオープンしたTOHOシネマズ ららぽーと富士見で初披露となった。

公式サイトには“雪”の効果もあると書いてあるので、これは体験してみなきゃ!と思い立ち、東宝の映画なのだからTOHOシネマズなら間違いなかろうと信じて、まずMX4D版を観た。

ところが、である。天空の場面ではアームレスト(ドリンクホールダーの先)にある穴から風が顔に吹き付けて来て気持ちいいのだが、頭上から“雨”が降ったりとか“濡れる”機能が全くなく、肝心の場面で“雪”も降らないし、がっかりした。看板に偽りありだ。

一体どうなっているのだと帰宅して色々調べてみると、どうやら4DXMX4D版は全く演出デザインが異なるらしいということが判明した。そこで4DX 版も試してみることにした。

4DXではしっかりと“雨”が降ってきて濡れるし、“雪”も降った!また陽菜が巫女として雲の上に召された場面では“シャボン玉”が劇場を舞い、これもMX4D版にはなかったので、びっくりした。さらにMX4D版で風はアームレストの穴から局所的に吹くだけだが、4DXでは劇場全体に風が渦巻き、とてもダイナミック。しっかり自然に包まれている感じがした。4DXの圧勝である。あと“濡れる”といっても霧吹き・ミストを浴びる程度なので、劇場を出るときにはすっかり乾いており何の問題もなかった。レインコートが必要になるレベルではない。水を浴びるのが嫌な人は、手元にOn/Offボタンも付いている(MX4Dにはない)。

さて、2020年のアカデミー賞では、これまで〈外国語映画賞〉とされてきた部門が、〈国際長編映画賞〉に名称が変更される。この部門に日本代表として「天気の子」の出品が決まった。

過去に日本映画は〈名誉賞〉と呼ばれていた時代に「羅生門」「地獄門」「宮本武蔵」が、〈外国語映画賞〉になってからは2008年に「おくりびと」が受賞している。また1980年以降にノミネートされた作品として「影武者」「泥の河」「たそがれ清兵衛」「万引き家族」がある。

しかし、アニメーション映画「天気の子」が今年選ばれたことには違和感を覚えた。ハードルが高すぎるのである。

〈外国語映画賞〉時代、1997年に「もののけ姫」が日本代表に選ばれたが、ノミネート5作品には入れなかった。あの宮崎駿でも無理だったのに、「天気の子」に予選通過の可能性が果たして本当にあるのだろうか??

〈外国語映画賞〉にアニメーション映画がノミネートされ、最有力候補と噂されたことが過去一度だけあった。2008年イスラエル代表の「戦場でワルツを」である。ところがこの年、大方の予想を覆して受賞したのは日本代表「おくりびと」だった。A big surpriseだった。この一件ではっきりしたのはアカデミー会員の多くはアニメーションをまともな映画として認めておらず、実写作品と並べるとアニメは圧倒的に不利だということ。だからわざわざ2001年から〈長編アニメ映画賞〉が新設されたのだ。契機となったのは1991年にディズニーの「美女と野獣」がアニメーション映画としてアカデミー作品賞に史上初ノミネートされるも、受賞には至らなかったことに端を発する。

そもそも以前から日本代表選びには首を傾げざるを得ないことが多々あった。特に不可解だった選考が2009年の君塚良一監督「誰も守ってくれない」(東宝)。キネマ旬報ベストテンでは第9位だった。それがなぜこの年のOnly Oneに?さらに山田洋次監督(松竹)の作品が5回も選ばれているのに、大林宣彦監督や北野武監督の作品は1回もない。山田洋次は果たしてそんなに偉大な監督か??

しかしつい先日、ようやくそのからくりが判明した。日本代表となる作品は、松竹・東宝・東映・KADOKAWA(旧・大映)の映画製作配給大手4社で構成する日本映画製作者連盟が選考していたのである。つまり悪名高き日本アカデミー賞の会員と似たような構成なのだ。日本アカデミー賞も理不尽な受賞結果が多く(メジャー会社優位)、独立プロダクションの映画は圧倒的に不利だ。故・黒澤明監督が「権威がない」と受賞を辞退したこともあった。

だから米アカデミー賞の代表選びも持ち回りで「今年は松竹さんに花を持たせよう」と忖度された年は、山田監督に集中的にお鉢が回ってくるという仕組みだったのである。

とは言え、僕が「天気の子」を真摯に応援する気持ちに変わりはない。ジャパニメーションに対する世界的評価も年々高まる一方であるから、22年前の「もののけ姫」の時代に比べれば、アカデミー会員の意識も変化しているかも知れない。〈長編アニメ賞〉でも〈国際長編映画賞〉でもどちらでも良いから必ずノミネートを果たし、出来うることなら授賞式当日に名前を読み上げられ、爪痕を残してほしい。Good Luck !!!

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