タランティーノの「野生の思考」
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」もそうなのだが、クエンティン・タランティーノ監督(以下、タラちゃんと呼ぶ)の作品は映画的記憶に満ちている。その愛はどちらかというとB級映画・TVに傾いている。例えばセルジオ・レオーネが監督しエンニオ・モリコーネの音楽が鳴り響くマカロニ・ウエスタン(英語ではSpaghetti Western)であるとか、「キル・ビル」でオマージュを捧げた梶芽衣子主演 「修羅雪姫」 や、千葉真一主演「服部半蔵 影の軍団」といったようなものたちである。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション(アトロク)」でパーソナリティを務めるラップグループRHYMESTER宇多丸がタラちゃんにインタビューした際、「貴方の作品にヒップホップ・アーチストが用いる手法に近いものを感じる」と話すと、彼は素直にそれを認めた。では宇多丸が指摘した、ヒップホップにおける〈サンプリング〉とは何か?Wikipediaから引用しよう。
既存(過去)の音源から音(ベース音等)や歌詞の一部分を抜粋し、同じパートをループさせたり継ぎ接ぎするなど曲の構成を再構築することで名目上別の曲を作り出す手法のこと。あくまで曲の一部分を引用するだけなので、基本的な歌詞やメロディーラインをそのままなぞるカバーやアレンジとは別物である。
そうか、タランティーノ映画の本質は〈ブリコラージュ〉なんだ!とそこで、はたと気づいた。フランスの文化人類学者レヴィ=ストロース(1908-2009)が著書「野生の思考」で提唱した概念で、神話的思索の方法である。
ブリコラージュは「器用仕事」とか「寄せ集め細工」「日曜大工」と訳される。手元にある材料を掻き集めて新しい配列でものを作ることを言う。ブリコルール(器用人)は手持ちのものを調べ直し、道具材料と一種の対話を交わし、いま与えられている問題に対してこれらの資材が出しうる可能な解答をすべて出してみる。しかるのちその中から採用すべきものを選び、組み立てる。夜遅く帰宅し、冷蔵庫にあるありあわせのものでちょちょいと料理するイメージだ。
つまり音楽のサンプリング=ブリコラージュに他ならず、タラちゃんも同様な「野生の思考」をしている。敵を火炎放射器で焼き殺すなんて発想もその賜物だろう。既成の映画音楽を再使用するやり方もブリコラージュそのものだ。
タラちゃんの映画に感じる野性味はその残酷描写にだけではなく、ブリコラージュという他の映画作家には余り見られない手法にもあったということがよく分かった。
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