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2019年9月13日 (金)

映画「アス Us」とドッペルゲンガー

評価:A

Us

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いわゆるドッペルゲンガー(二重身)ものである。簡単に言えば可視化された〈もう一人の自分〉。まずユング心理学に於ける影(シャドウ) の概念を知っておく必要がある。人の深層心理に存在する元型(archetype)のひとつで、ユングは「そうなりたいという願望を抱くことのないもの」と定義した。人格の否定的側面、隠したいと思う不愉快な性質、人間本性に備わる劣等で無価値な原始的側面、自分の中の〈他者〉、自分自身の暗い側面などである。影(シャドウ) はしばしば他者に投影される。ナチス・ドイツによるユダヤ人の迫害、いけにえの羊(scapegoat)が代表例。影(シャドウ)が(他者への投影ではなく)独立して実体化した姿がドッペルゲンガーだ。一つの肉体の中で影(シャドウ)が主体と入れ替われば多重人格(解離性同一性障害)となる。「ジキルとハイド」が有名。

さらに本作では、ポスターでも分かる通り社会的元型ペルソナ(仮面)も加味されている。詳しくは下記事をお読み頂きたい。

ドッペルゲンガーものの最初がイングマール・ベルイマン監督の映画「仮面/ペルソナ」(1966)であり、デヴィッド・フィンチャー監督「ファイト・クラブ」(1999)、ダーレン・アロノフスキー監督「ブラック・スワン」(2010)ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督 「複製された男」(2013)などが後に続いた。舞台作品ではミヒャエル・クンツェが台本を書いたウィーン・ミュージカル「モーツァルト!」がドッペルゲンガーものだ。

デヴィッド・リンチ監督「マルホランド・ドライブ」(2001)もこのジャンルに含めて良いかも知れない。いわば親戚筋にあたる。

「ゲット・アウト」でアカデミー脚本賞を受賞したジョーダン・ピール監督が「アス Us」で成し遂げた新基軸は、ゾンビ映画の構造をそのまま用いてドッペルゲンガーものに変換したことにある。アイディアが実に秀逸。〈自分自身が襲ってくる〉これは怖い。さらに貧富の格差が広がる一方の、アメリカ合衆国の社会問題にも切り込んでいる。地下トンネルに蠢く人々=Usは貧困層のメタファーでもある。

あとヒッチコック映画へのオマージュを強烈に感じた。ハサミで襲ってくる場面は「サイコ」(多重人格もの)だし、Usに押し倒され格闘するルピタ・ニョンゴが画面手前(観客側)にある凶器に手を伸ばす場面は明らかに「ダイヤルMを廻せ!」のグレース・ケリーそっくり。そしてUs に占拠された町から車で家族が脱出しようとするのは「鳥」のラストシーンといった具合。

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