映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の基礎知識(または、ポランスキーという男)
評価:A 公式サイトはこちら。
1969年のハリウッドを舞台にした本作を愉しむ上で、知っておくべき基礎知識を挙げておく(特に最初の2項目は最重要)。
マンソン・ファミリー、シャロン・テート事件、ヒッピー、反戦運動(ベトナム戦争)、いちご白書(大学闘争)、トリュフォーやゴダールによるカンヌ国際映画祭粉砕事件(五月革命)、アメリカン・ニューシネマ(俺たちに明日はない/イージー・ライダー)、マカロニ・ウエスタン(英語ではSpaghetti Western)
ウォーレン・ベイティ、フェイ・ダナウェイ主演「俺たちに明日はない」(1967)の監督として当初、フランソワ・トリュフォーに白羽の矢が当たったが断られ、次にジャン・リュック・ゴダールに依頼されたがやはり合意に至らなかった。つまり、〈フランス・ヌーヴェルヴァーグ→アメリカン・ニューシネマ〉という流れは抑えておきたい。共通項は〈既存の価値観・システムの破壊〉であり、ヒッピーなどのカウンターカルチャー、学生運動に繋がっている。マンソン・ファミリーはその文脈の中にある。
本作のタイトルそのものが、マカロニ・ウエスタンで名を揚げたセルジオ・レオーネ監督の映画"Once Upon a Time in the West(ウエスタン)" および、"Once Upon a Time in America" へのオマージュである。
劇中、車を運転しているブラッド・ピットが、道路脇でヒッチハイクをしようとしているヒッピー娘と目が合い、その時に流れ出す曲がサイモン&ガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」。そうか、マイク・ニコルズ監督の「卒業」が公開されたのはこの頃だ、と嬉しくなった。
あと映画のエンディングで流れる曲が、僕の偏愛するモーリス・ジャールが作曲した映画「ロイ・ビーン」の音楽だったので感激した。ポール・ニューマン主演、ジョン・ヒューストン監督による西部劇。ちゃんとサントラCD持ってるよ!
クエンティン・タランティーノ監督はセルジオ・レオーネと長年組んでいたエンニオ・モリコーネが大好きで、「ヘイトフル・エイト」の音楽をモリコーネに依頼してそれがアカデミー作曲賞初受賞に結実したのだけれど、まさか今回モーリス・ジャールで来るとは。憎いねぇ〜。
シャロン・テートが夫ロマン・ポランスキー(ポーランド出身の映画監督)へのプレゼントとして本屋で購入するのがトマス・ハーディの「テス」。1977年にポランスキーはジャック・ニコルソン邸での少女淫行の罪で逮捕され、一時釈放中に国外脱出して79年にイギリスでこの小説を映画化することになる(主演したナスターシャ・キンスキーとも、彼女が15歳の頃から性的関係を結んでいたという)。以後、彼はアメリカへ一度も入国していない。 #MeToo 運動を受けて、ポランスキーは2018年5月に映画芸術科学アカデミーから除名されるのだけれど、おせぇよ!!事件から41年も経っているんだぜ。しかもその間に「戦場のピアニスト」(2002)で彼にアカデミー監督賞を与えてるし。勿論、逮捕・収監の可能性があるためポランスキーは授賞式に参加していない。
シャロン・テートを演じたマーゴット・ロビーが素晴らしい。特にミニ・スカート姿が超キュート。彼女が映画館で自分の主演作を観る場面があるのだけれど、スクリーンに映し出されているのはシャロン・テート本人。これが正に至福の時間であり、彼女を〈事件の被害者〉ではなく、〈映画女優〉として現代に蘇らせようとしているタランティーノの優しさ・愛に心打たれた。
実は予感があった。「イングロリアス・バスターズ」でタランティーノはアドルフ・ヒトラーとナチスの高官たちを、パリの映画館で焼き殺している。つまり彼は歴史を修正することを厭わない。ならばシャロンが死なない道(選択肢)もあり得るのではないか?……そして実際どうだったかは映画を観てのお楽しみ。ネタバレ無し。
あとレオナルド・ディカプリオ演じる役者のモデルはマカロニ・ウエスタン(荒野の用心棒/夕陽のガンマン/続・夕陽のガンマン)で大スターとなったクリント・イーストウッドと思われる。
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