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2019年8月 2日 (金)

ミュージカル「オン・ザ・タウン」宝塚月組版 vs. 兵庫芸文版 対決!

7月29日(月)梅田芸術劇場へ。宝塚月組でレナード・バーンスタインが作曲したミュージカル「ON THE TOWN (オン・ザ・タウン)」を観劇した(ソワレ)。

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僕は1階席3列目中央ブロックで観たのだが、何とこの日、花組トップスター・明日海りお様がご観劇で、トップ娘役と一緒に僕のすぐ3席横にお座りになられたのである!超緊張した……。そういえば宝塚大劇場で雪組「ファントム」を観たのも、みりお様ご観劇日だった。みりお様は着席前に周囲の人々に会釈された。なんて感じが良い人なんだ!

実は宝塚版上演前の7月20日(土)に兵庫県立芸術文化センターで〈佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2019〉の「オン・ザ・タウン」も鑑賞していた。

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演出はイギリスのアントニー・マクドナルド。上品で洗練されており、兵庫芸文でのブリテン「夏の夜の夢」も素晴らしかった。

歌や踊りのキャストはロンドンでオーディションが行われ、ウエストエンドの精鋭たちが集められた。特にダンサーのレベルは圧巻。

「オン・ザ・タウン」は1944年にブロードウェイで初演された。何とアメリカと日本が戦争の最中である。その後2度リバイバル上演されている。

1949年にはMGMで映画化され、日本では「踊る大紐育」という邦題で知られている。ジーン・ケリー、フランク・シナトラ、アン・ミラーらが出演した。監督は「雨に唄えば」のスタンリー・ドーネン。ただし、レナード・バーンスタインの音楽はばっさりカットされ、多くは他人が書いた楽曲に差し替えられてしまった("New York,New York"は残ったが、名曲"Lonely Town"は排除された)。はっきり言って原曲の方が断然魅力的なので、プロデューサー;アーサー・フリードの判断は未だに納得出来ない。結局、レニーの音楽が最先端(modern)過ぎたということなのだろう。

現代の視点で見るとクレアの婚約者ピットキン判事ってゲイ(LGBT)なんじゃないかな?と思った。レナード・バーンスタイン自身がバイセクシャルであり、偽装結婚だったと言われている。

そういえば「アリー/スター誕生」のブラッドリー・クーパーが現在、映画"Bernstein"を監督/主演する予定で準備中とのこと。バイセクシャルという性癖について描かれるのかどうか、興味津々だ(遺族の意向でお蔵入りになる可能性もある。三島由紀夫最後の日を描くポール・シュレイダー監督、緒形拳主演"Mishima"みたいに)。余談だが作曲家レニーの代表作ミュージカル「ウエスト・サイド物語」の再映画化は現在、スティーヴン・スピルバーグ監督により撮影中である。指揮はなんとあのグスターボ・ドゥダメルが務める。これは愉しみ!

「オン・ザ・タウン」も「踊る大紐育」も、以前からどうも物語に魅力がないなと思っていたのだが、今回漸くその正体が見えて来た。

ニューヨークに24時間だけ上陸許可を得た3人の水兵が、それぞれ恋人を見つけるお話である。「そんなん、どうでもええわ!!」という気がしませんか?結局3人とも一目惚れだし、そんな状況で生涯の伴侶が得られる筈もない。何でアメリカ人はこれを面白いと感じるのだろう??

そもそも、水兵を主人公にした小説はヨーロッパでは皆無と言っても過言ではない。小説家は大抵、貴族とか牧師の家に生まれたとか(ブロンテ姉妹)教養の高い人達であり、水兵の実態なんか興味もなければ何にも知らないのである。

ポパイもそうだけれど、水兵は肉体労働者であり筋肉隆々としている。つまりアメリカ人がこういうものを好むのは、そこに彼ら特有のマッチョ礼賛・筋肉信仰があるのではないだろうか?これはほとんど宗教である。根底にはアメリカの歴史(西部開拓史)が深く関わっている。詳しくは下記事で論じた。

ハリウッド映画で言えば、20世紀半ばには西部劇が量産されジョン・ウェインがヒーローになった。現在のマーベルを中心としたアメコミ・ブームも結局はマッチョマンの話だ。シルベスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガー、スティーヴン・セガールらがスターになれたのも、アメリカならでは。シュワちゃんはオーストリア出身だが(オーストリアではありません) 、ヨーロッパ映画で主役を張れるとは到底思えない。

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さて、宝塚月組版だ。

主な配役は海軍水兵三人組(ゲイビー/オジー/チップ)を珠城りょう/鳳月杏 /暁千星 。(ミス地下鉄)アイヴィ・スミス:美園さくら 、(タクシー運転手)ヒルディ:白雪さち花、(人類学者)クレア:夢奈瑠音(男役)、(ヒルディのルームメイト)ルーシー:海乃美月、(クレアの婚約者)ピットキン:英真なおき 。なおヒルディ/クレア/ルーシーは役替りである。

演出は野口幸作、音楽監督・指揮は「エリザベート」のアレンジなどで知られる甲斐正人。舞台前面にオーケストラ・ピットが設置され、生演奏だったのが嬉しかった。宝塚歌劇が梅芸やドラマシティで上演する時はカラオケのことも多いのだ。

演奏については宝塚歌劇に軍配を上げる。どうも佐渡裕の指揮ってリズムが鈍重でモッサリしているんだよね。甲斐正人の方がJazzyでSwingy,そしてGroovyなんだ。イイ感じ。

ダンス力ではウエストエンド(ロンドン)のパフォーマーに到底敵わないが、演技力としては宝塚の方が上かな。特にヒルディ役の白雪さち花はがさつな感じがよく出ていてコメディエンヌとして秀逸、歌も上手い。クレア役の夢奈瑠音は気品があって、シュッとした立ち姿が美しい。オジー役の鳳月杏は野性味があり、チップ役の暁千星は愛嬌がある。トップスター・珠城りょうを「エリザベート」で観た時はおばさん顔だし歌も上手くなく、「一体どこに魅力があるんだ??」と頭の中が疑問符でいっぱいになったのだが、本公演を観て「ああ、この人はダンサーなんだな」と得心が行った。

宝塚版は最後にショーもついており、レニーの名曲の数々をメドレーで堪能出来、兵庫芸文版より一層感動した。これ、DVD/Blu-rayで発売されないかな?因みに「ウエスト・サイド・ストーリー」は版権問題が非常に難しく、宝塚版がテレビで放送されたり、ビデオ・DVDなど映像が市場に出たことは一度もない。

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コメント

僕は兵庫芸文版しかみていませんが、このブログを読んで両方みておいたらよかった、と思いました。演奏は塚版の方が良いなんて意外です。佐渡裕はバーンスタインの弟子なんで兵庫芸文版の方が断然いいと思っていたのですけど。
僕はこの「オン・ザ・タウン」に戦争の影を感じました。女のタクシー運転手をはじめ、どことなく刹那的で、最後は物悲しいのはそのせいだと思います。

投稿: 最後のダンス | 2019年8月15日 (木) 15時44分

最後のダンスさん、コメントありがとうございます。

申し訳ないのですが、佐渡さんはプロデューサーとしては素晴らしいけれど、指揮者としては才能の欠片もない人だと僕は思っています。とにかく鈍くさいんですよ。どうして彼がベルリン・フィル定期演奏会の指揮台に立てたのか?未だに謎です。ただ、やはり楽員からの評価は低かったようで、二度と招かれないのはそのためだと推定します。バイロイトへの再登板がなかった大植英次さんと同様ですね。結局、二回目があるかないかが本当の勝負なのです。

「オン・ザ・タウン」が刹那的というのは、仰るとおりですね。ところでこの話、面白いですか??

投稿: 雅哉 | 2019年8月15日 (木) 16時49分

この話が面白いか、・・・難しいですね。
ひとつひとつのシーンは結構面白いのですよ。例えば、チップの行こうとする観光地が全部ひと昔のものだったとか。でも、全体としてさほど面白くない、それよりも、最後に虚しさ、ああ戦争中なんだ、と感じさせるとこがどこか物悲しいと感じました。

投稿: 最後のダンス | 2019年8月15日 (木) 23時25分

僕には「オン・ザ・タウン」がどうしてブロードウェイで三回も上演されたのか、さっぱり理解出来ません。たぶんそこにはアメリカ人特有の〈マッチョ信仰〉があるのだと思います。音楽的には大傑作ですけれどね。

日本でも「ウエスト・サイド物語」は大人気ですが、こちらはほとんど知られていませんよね。いやーしかし、スピルバーグ監督による「ウエスト・サイド」のリメイク、本当に楽しみですね。なんたって指揮がドゥダメルですよ!悪かろう筈がありません。スピルバーグ初のミュージカル映画です。「E.T.」の直後にマイケル・ジャクソン主演でミュージカル映画「ピーター・パン」を撮るという話があったのですが、実現しませんでした。レスリー・ブリッカス作詞、ジョン・ウィリアムズ作曲でいくつか歌も作られていたのですが。

投稿: 雅哉 | 2019年8月15日 (木) 23時58分

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