ミュージカル映画「ロケットマン」とハグ問題について。
評価:A 公式サイトはこちら。
映画「ボヘミアン・ラプソディ」のレビューで僕は次のように書いた。
主演のラミ・マレックと衝突していたブライアン・シンガー監督が感謝祭の休暇後に現場に戻らなかったことで、撮影終了2週間前にシンガーは解雇された。後任のデクスター・フレッチャーが監督を引き継ぐまでの間、撮影監督ニュートン・トーマス・サイジェルが監督代行を務めたという。(中略)しかし出来上がった作品はそんな混迷を微塵も感じさせない、極めて高い完成度に到達しており、心底驚いた。奇跡と言ってもいい。
エルトン・ジョンの半生を描く「ロケットマン」を観て、漸く「ボヘミアン・ラプソディ」が傑作に仕上がった理由が了解出来た。あとを継いだデクスター・フレッチャーが極めて優秀だったのである。
「ボヘミアン」でクイーンの曲が流れるのは主にコンサートとレコーディング・シーンである。しかしフレッチャーは「ロケットマン」でやり方をごろっと変えた。エルトン・ジョンだけではなく彼を取り巻く人々も歌い、踊る。本格的ミュージカル映画仕立てとなっている。エルトンは(その内面はともかく、見かけ上)ド派手な人なので、イリュージョンに満ちた演出法がピタッとはまった。タロン・エガートンの歌唱もパーフェクト!
上記事で映画のクライマックスで歌われる「黄昏のレンガ道」(Goodbye Yellow Brick Road,1973) について極めて重要なことを書いた。併せてお読み頂きたい。
劇中、繰り返し少年期のエルトンが登場する。「ハグして」と父親に求めてもそれに応えてくれなかったという悲しみが、癒やされることのない心の傷としてずっと尾を引く。本作を観ながら真っ先に想い出したのがエリア・カザン監督ジェームズ・ディーン主演「エデンの東」(原作者はノーベル文学賞を受賞したジョン・スタインベック)である。主人公キャルは「父に愛されていないのではないか」と苦悩する。一方、兄アロンは父から期待され祝福されており、アロンに対するキャルの嫉妬心が物語を転がす原動力となる。これは旧約聖書の「創世記」に書かれたカインとアベルという兄弟の確執がベースになっている。神ヤハウェに愛されたアベルを恨んだカインは弟を殺してしまう。人類最初の殺人である。ヤハウェはカインをエデンの東に追放する。
あと映画「フィールド・オブ・ドリームス」と、山田太一原作・大林宣彦監督の「異人たちとの夏」を観て、父親というものは息子と絶対にキャッチボールをしておくべきだということを学んだ。確かあれは「パンダコパンダ」DVDの特典映像だったと記憶しているが、宮崎駿の息子・吾朗がインタビューに答えて、少年時代に父の仕事が忙しくて彼が起きている間に帰宅することが全くなく、「キャッチボールも一度もしてもらえなかった」と恨みつらみを滔々と並び立てていたのがとても可笑しかった。いやいや吾朗くん、父親があの偉大な宮崎駿じゃなかったら、君がアニメーション映画を監督するチャンスを与えられるなんて一生なかったろうよ。感謝なさい。
というわけで全国のお父さんたち。息子が幼いうちにしっかりハグして、キャッチボールをしてあげておこう。そうじゃないと30年経っても恨まれ続けるハメになるから。
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