【考察】グルーヴ(groove)って、一体何?
最近、ジャズ・ミュージシャンやヒップホップのアーティストたちの口から〈グルーヴ(groove)〉という言葉を聞く機会が増えてきた(クラシックの音楽家たちは使わない)。2000年頃から広く使われ始めたようだ。しかしどうもその正体が見えてこない。そこでじっくりとこの言葉について考えてみた。
まずウィキペディアの定義を見てみよう。
音楽用語のひとつ。形容詞はグルーヴィー(groovy)。ある種の高揚感を指す言葉であるが、具体的な定義は決まっていない。
デジタル大辞泉では次のようになっている。
ジャズやロックなどの音楽で、「乗り」のことをいう。調子やリズムにうまく合うこと。
何だかわかったようなわからないような……。狐に化かされたような、モヤモヤした気持ちになるのは僕だけではあるまい。では次に語源からアプローチしてみよう。
grooveとは、そもそもアナログレコード盤の音楽を記録した「溝」を意味する言葉である。
ターンテーブル上で回転するLPレコードに針を落とした状態で、真横から見た光景を想像して頂きたい。針は溝に沿って上がったり下がったりする。それはまるで波乗り=サーフィンの様に見える。この〈サーファー気分=グルーヴィ〉と見做せば、なんとなくイメージが湧くのではないだろうか?
つまり僕は次のような定義を提唱したい。
音楽を聴いたり演奏した時に得られる、サーファーが波に乗れた時の快感、心地よさに相当する感情。(音の)波動・律動・うねり。それは多幸感をもたらすと同時に、時として畏怖の念を抱かせる存在でもある。
〈グルーヴ(groove)〉はいわば、ゼロ記号(ゼロ象徴価値の記号)と言えるだろう。
ソシュール(1857-1913)の言語学では「意味しているもの」「表しているもの」のことをシニフィアン、「意味されているもの」「表されているもの」のことをシニフィエと呼ぶ。「海」という文字や「うみ」という音声がシニフィアン、頭に思い浮かぶ海のイメージや海という概念がシニフィエである。そしてゼロ記号(ゼロ象徴価値の記号)とはシニフィアンが具体的な姿を持っていないこと自体が、一つのシニフィアンとして機能する記号である。メラネシア(オセアニア)の原始的宗教において、神秘的な力の源とされる概念「マナ」や、日本語で「ツキがある」「ツキに見放された」などと使用される「ツキ」が該当する。映画「スター・ウォーズ」のフォースもそう。ジェダイの騎士がフォースの力で敵を吹き飛ばしたりするが、あれこそ正に空気の波動であろう。つまり〈フォース=グルーヴ(groove)〉だ。ユング心理学においてはヌミノース体験に相当する。
神は細部に宿る。
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