ジョン・ヒューズ新発見!〜「フェリスはある朝突然に」「ブレックファスト・クラブ」
正直ジョン・ヒューズ監督のことは今までよく知らなかった。「ブレックファスト・クラブ」(1985)、や「フェリスはある朝突然に」(1986)などは端からティーンエージャー(Teen-ager)向けの取るに足らない学園ものだろうとなめてかかり、ずーっと無視していた。そもそもヒューズが脚本を書いた「ホーム・アローン」(1990)も初めて観たのは息子が生まれてからだった。
ところが最近、ジョン・ヒューズが多くのフィルムメーカーたちから崇拝され、こよなく愛されていることが次第に分かってきた。
まずは映画「スパイダーマン:ホームカミング」(2017)と、「ブレックファスト・クラブ」のポスター比較をご覧あれ。
そして「スパイダーマン:ホームカミング」ポスターの別バージョンと、「フェリスはある朝突然に」。
劇中、住宅地でスパイダーマンが敵の一味を追いかけるシーンは完全に「フェリスはある朝突然に」を再現している。徹底的なオマージュである。
また「デッドプール」(2016)で主人公がカメラに向かい観客に話しかける手法とか、エンドロール後のオマケ映像でデップーがガウン姿でスクリーンに登場し、喋る内容とかが「フェリスはある朝突然に」のパロディになっているのである(全く同じガウンを着ている)。
アナ・ケンドリック主演「ピッチ・パーフェクト」(2012)では主人公が「ブレックファスト・クラブ」を観る場面があり、これが重要なキーとなる。
さらにスティーヴン・スピルバーグ監督の「レディ・プレイヤー1」でも登場人物がジョン・ヒューズについて熱く語る場面があるといった具合。
つまり村上春樹の表現を借りるなら、ジョン・ヒューズの映画は〈時の洗礼を受けて〉生き残ったのだ。というわけで、遅ればせながら両作品を観たというわけ。
「ブレックファスト・クラブ」(現在Amazon プライムで配信中)で驚いたのは、恐らく実質的に本作は〈スクールカースト〉を初めて描いた映画なのではないか?ということ。「クルーレス」(1995)、「キューティ・ブロンド」(2001)、「ミーン・ガールズ」(2004)や、アメリカのTVドラマ「glee/グリー」(2009)の先駆けとなった、正にエポックメイキング epoch-makingな作品であった。上映時間の約9割が図書室での会話劇として展開されるという手法も斬新である。ジョン・ヒューズのミューズ、モリー・リングウォルドが素晴らしい。彼女が演じる〈お嬢様〉が食べる、お昼の弁当には爆笑した。
一方、「フェリスはある朝突然に」(現在Netflixで配信中)でマシュー・ブロデリックが演じる主人公フェリス・ビューラーは、ユング心理学でいうところのトリックスターだと思った。
トリックスター(集合的無意識に存在する元型 Archetypeのひとつ)とは神話や伝説の中で活躍するいたずら者で、その狡猾さと行動力において比類ない。善であり悪であり、壊すものであり作り出すものであり(scrap and build)、変幻自在で神出鬼没、全くとらえどころがない。単なるいたずら好きの破壊者で終始することもあれば、時として英雄にも成り得る(例えば人類に火をもたらしたギリシャ神話のプロメテウス)。境界を超えて出没するところにトリックスターの特徴がある。
面白いことにフェリスは物語の最初と最後で変容しない。なにか大切なことに気が付いて(教訓を学んで)成長したりしない。いたずら者に終止し、一切反省しない。これは〈青春映画〉として極めて異例である。むしろ変わるのは妹のジーニーであり、親友のキャメロンだ。つまりフェリスは(学校のルールや社会秩序、キャメロンの車を)破壊することによって他者に変容をもたらす者=トリックスターなのだ。
そしてフェリスが仮病を使ってサボったハイスクールの教室では黒板にユング心理学の用語、〈夢 Dream〉〈アニマ Anima・アニムス Animus〉〈自我 Ego〉〈元型 Archetype〉などがチョークで書かれている。ジョン・ヒューズがトリックスターを念頭にシナリオを執筆したのは絶対に間違いない。
妹ジーニーが警察署で出会う、ドラッグ使用で逮捕された青年役でチャーリー・シーンがちょいと登場する。未だ彼が「プラトゥーン」に出演し大ブレイクする前である。もの凄く存在感があり、彼の台詞が哲学的で示唆に富む。神の啓示といっても過言ではないだろう。
映画序盤、フェリスはこう言う。
Life moves pretty fast. If you don't stop and look around once in a while, you could miss it.
(人生は光陰矢の如し。もし君が、時折立ち止まって周囲を見渡さなかったら、「それ」を見逃しちゃうぞ)
これってつまり、ラテン語の警句カルペ・ディエムCarpe Diemと同義なんじゃないかなと思った。「その日を摘め」「一日の花を摘め」という意味で、英語ではseize the day(その日をつかめ)と訳される。詳しくは下記事に述べた。
- いまを生きる (2014)
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