我々は何者か?〜映画「アメリカン・アニマルズ」
評価:A+
暫定、今年上半期のベスト・ワン!!公式サイトはこちら。
観に行こうと思った切っ掛けはTBSラジオ「アフター6ジャンクション」でパーソナリティのRHYMESTER 宇多丸と、スクリプトドクターの三宅隆太が絶賛していたからである。
バート・レイトン監督は元々ドキュメンタリー畑の人で、本作が劇場用映画第一作となる。
2004年にアメリカ合衆国ケンタッキー州トランシルヴァニア大学の図書館で起こった窃盗事件を描く実話である。大変ユニークなのは、主人公たちがチームを組んで強盗・強奪を行うケイパーもの(Caper Film)であると同時に、現在の当事者たち(本人)がインタビューに答えるドキュメンタリー・パートがバランスよく織り込まれる構成になっていること。
犯人の大学生たちが参考にしているのがスタンリー・キューブリック監督の映画「現金に体を張れ」(1956)でスターリング・ヘイドンが仲間たちに犯罪計画のプレゼンテーションをしている場面だったり、そのテレビを鑑賞している部屋に「オーシャンズ11」(2001)のDVDケースがあったり、タランティーノの「レザボア・ドッグス」(1992)を真似たりといった具合。あと、計画を実行に移す場面でスプリットスクリーン(分割画面)になるのは、スティーブ・マックィーン主演ノーマン・ジェイソン監督「華麗なる賭け」(1968)へのオマージュね。
映画の冒頭、大学入学のための面接試験で面接官は絵描き志望の主人公にこう問う。“Tell us about yourself as an artist.”=「芸術家としての君自身のことを教えてほしい」。言い換えるなら「君の魂について語ってくれ」「お前は誰だ?」ということになろう。
主人公は口ごもる。これは非常に哲学的問いであり、我々観客の心にも突き刺さる。
つまり本作のプロットを端的に表するならば、【「何者」でもない青年が「何者」かになろうとして、結局自分は「何者」でもなかったと知る】物語であると言えるだろう。この場合「何者」とはSomethingを持った人であり、「ひとかどの人物」と言い換えることも出来る。そういう意味で、本作のテーマは映画化もされた朝井リョウの小説「何者」(直木賞受賞)に通底するものがある。我々は一体、何者か?
主人公は自己愛性パーソナリティ障害と思われる。その特徴は、「自分は特別で重要な存在である」と誇大な感覚を持っていること。常に自分の能力を過大評価し、自慢げで見栄を張っているように見える。幼児の持つ誇大感や全能感という正常な錯覚を、青年期まで持ち続けた状態。映画「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」に登場した、元謀報員を自称する(トーニャ・ハーディングの)ボディガード・ショーンも同様。しかしそういう気持ちは、多かれ少なかれ、誰もが心に抱いているのではないだろうか?結局人間は「他人とは違う何か(Something)を自分は持っている」という錯覚・イリュージョン(=自尊心)なしには生きられない動物(Animals)なのだろう。
それを象徴するのが北米版ポスターに掲げられたキャッチコピー【誰も自分が「普通の人」だと思いたくない】である。
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