河村尚子の弾くベートーヴェンからロシアのピアニズムを聴き取る。
4月29日(祝)関西フィル定期のあと、兵庫県立芸術文化センターへ。河村尚子のオール・ベートーヴェン・プログラムを聴く。使用されたピアノはベーゼンドルファー 280VC。最高額のA席が3,000円なのだけれど、全く同じプログラムで東京の紀尾井ホールは4.500円なので、大変お得。河村は兵庫県西宮市出身であり、地元での平成最後のコンサートとなった。
- ピアノ・ソナタ 第26番「告別」
- ピアノ・ソナタ 第27番
- ピアノ・ソナタ 第29番「ハンマークラヴィア」
河村の演奏は左手の打鍵が力強く、たいへん歯切れがよい。言い換えるなら、不必要に足ペダルを多用しない。ギレリス、リヒテル、ラザール・ベルマンらに繋がるロシアのピアニズムを感じさせる。調べてみると案の定、彼女がハノーファの音楽大学で師事したウラジミール・クライネフはロシア出身のピアニストであった。それでいてちゃんと、女性らしい丸みを持った音を奏でる。
ウクライナ生まれでキエフ音楽院で学んだピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツは嘗てこう言い放った。
「東洋人と女にはピアノは弾けない」
しかし河村は逆にそれを、しっかりとした武器として活用している。ホロヴィッツが思いもしなかった形で。つまり、
ロシア人の父性原理+日本人の母性原理(女性性)=河村のピアニズム
という式が成り立つ。同じことは6歳でモスクワに渡った松田華音の演奏にも言えるだろう。
大作「ハンマークラヴィア」は隙(すき)がなく完璧で、聴いていると肩がこり、息苦しくなる。感情移入を拒む楽曲であり、そういう意味ではJ.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集とかオルガン曲を彷彿とさせる。第4楽章にフーガが登場するしね。
河村は張り詰めた音を紡ぎ、緊迫感があった。改めて超人的というか、デモーニッシュな音楽だと思った。
心理学者カール・ユスタフ・ユングは次のような言葉を残している。
創造的な人は、自分自身の生活に対して、ほとんど力をもっていない。彼は自由ではない。彼はデーモンによって把えられ、動かされているのだ。
河村が語ったところによると、彼女は先日、山田和樹/NHK交響楽団と定期演奏会で共演し、矢代秋雄のピアノ協奏曲を弾いたそう。その模様は、7月7日にEテレで放送される予定。
アンコールの矢代秋雄:夢の船(四手用に書かれた楽譜を二手で演奏)は愛らしい小品。そして「告別」の終楽章が再び演奏された。
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