ビール・ストリートの恋人たち
評価:A+
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監督は「ムーンライト」でアカデミー作品賞を受賞したバリー・ジェンキンス。本作でヒロイン・ティシュの母親を演じたレジーナ・キングがアカデミー助演女優賞を受賞した。
原作は黒人作家ジェイムズ・ボールドウィンが書いた"If Beale Street Could Talk"(ビール・ストリートに口あらば)。“ビール・ストリート”は、テネシー州・メンフィスにある通りの名前。この場所はアフリカ系アメリカ人によって作られた音楽〈ブルース〉発祥の地であり、ブルースからジャズが派生した。ルイ・アームストロングや、B.B.キングなど伝説的なミュージシャンたちがここで演奏した。
映画の舞台となるのはニューヨークのハーレム地区なので、実際のビール・ストリートは一切出てこない。つまり“ビール・ストリート”とはアフリカ系アメリカ人にとって、〈強さ〉とか〈心の拠り所〉〈未来への希望〉の象徴なのだ。だから邦題は些か紛らわしい。
静謐で力強い映画である。カメラが登場人物の顔を正面から捉えたショットとか、小津安二郎監督からの影響が色濃い。「ムーンライト」もそうだったがバリー・ジェンキンスの作品に登場する男たちは寡黙である。本作を観ている途中で気がついた。「そうか、『東京物語』の笠智衆だ!」主人公は多くを語らないので、観客は能動的に、台詞の行間や表情から彼らの想いを探っていかなければならない。凄く知的で文学的作品である。なおジェンキンスは元々、小説家を志していたそうだ。
誇張された色彩の映像が美しい。冒頭の俯瞰ショットなんか、まるでジャック・ドゥミの「シェルブールの雨傘」みたいで魅了された。黄色〜橙色が重要な役割を果たし、〈救い〉とか〈仄かな希望〉を象徴している。
またアカデミー作曲賞にノミネートされた、ニコラス・ブリテルによる音楽がしみじみ素晴らしい。Jazzを基調とし、本来ホーンセクション(金管)が演奏するところを弦楽器に委ねているのがユニーク。特にサウンドトラックでは〈アガペー〉と題された曲(トラック3)は、ソプラノサックスなど木管楽器に海鳥の鳴き声を託しており、鮮烈な印象を覚えた。必聴。
また〈チョップド&スクリュード〉が用いられていることも特筆すべきだろう。90年代にヒューストンを中心とするアメリカ南部のヒップホップ・シーンで生まれたリミックスの手法で、「極端に曲のピッチを落とした上で、さらに半拍ずらしてミックスする」というもの。
とにかく最高!必見だ。
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