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チャイコフスキー革命!〜クルレンツィス/ムジカエテルナ@フェスティバルホール

2月14日(木)フェスティバルホールへ。クルレンツィス/ムジカエテルナを聴く。

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テオドール・クルレンツィスはギリシャ・アテネ生まれの46歳。サンクトペテルブルク音楽院で学び、ロシアのウラル山脈の麓に位置するペルミを本拠とするアンサンブル、ムジカエテルナを創設した。

クルレンツィスを一躍時代の寵児へと押し上げたのは、チャイコフスキー「悲愴」とマーラーの交響曲第6番のCDで2年連続レコード・アカデミー大賞に輝いたことである。これは前例のない快挙であった。

わかりやすく言えば、彼はカルロス・クライバー級のカリスマ/スーパースター/風雲児なのである。

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ヴァイオリン独奏はモルドヴァ出身のパトリシア・コパチンスカヤ。彼女のリサイタルは以前、ザ・フェニックスホールで聴いている。出自についても下記事で詳しく解説した。

曲目は、

  • チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
  • 藤倉大:kusmetche(クズメッチェ) 
    ソリストアンコール 日本初演
  • チャイコフスキー:交響曲 第6番「悲愴」

弦は古典的対向配置。コンチェルトは座奏だったが、後半のシンフォニーではチェロとチューバ以外、全員立奏で度肝を抜かれた。チャイコフスキーでこんなのは前代未聞である。前半は指揮台なし、後半ありで、クルレンツィスは指揮棒を使用せず。

コパチンスカヤは赤いスリッパを履いて登場。本番では裸足で演奏した。

囁くような弱音で始まり、次第に前のめりになり野性の本能を剥き出しにする。獲物を狙うの姿勢。彼女は〈歌う〉というよりは〈呪術的〉な音色を奏でる。

クルレンツィスの足は鹿のようにスリムで、踊るように動く。時にふたりは向かい合い、互いに煽りオデコがぶつかりそうなくらい接近する。

第2楽章は「ジプシーの夜」。野営地で焚き火を囲んだロマたちの姿が幻視される。

第3楽章のテンポは変幻自在。自由度が高く、破天荒規格外の演奏だった。

このコンチェルトがロマの音楽に聴こえたのは初めての体験だった。コパチンの父親がツィンバロン(ハンガリーを中心に中欧・東欧地域で演奏されている打弦楽器)奏者であることと、決して無関係ではないだろう。

アンコールで披露された作曲家・藤倉大は1977年大阪生まれ、現在はイギリス在中。だからフェスティバルホール@大阪で演奏されたのには大きな意味がある。ブルガリアのダンス・リズムがベースになった楽曲だという(藤倉夫人はブルガリア人)。ちなみに直木賞・本屋大賞をダブル受賞した恩田陸の小説「蜜蜂と遠雷」が映画化され10月4日に公開されることが決まったが、劇中に演奏されるピアノコンクール2次予選の課題曲「春と修羅」を藤倉が作曲するとつい先日発表された。

立奏の「悲愴」はオーケストラ全体が一つの有機体となり、大きなうねり/ グルーヴ(groove)を感じた。立奏は吹奏楽のマーチングに繋がるし、ドゥダメル指揮シモン・ボリバル・ユース・オケによるバーンスタイン「ウエストサイド物語〜マンボ」のパフォーマンスを想起させた(熱狂の映像はこちら!)。

第2楽章は儚く、息も絶え絶え。中間部のティンパニの連打はまるで心音のよう。

第3楽章は抜群の機動力を発揮しグイグイ引っ張り、最終楽章の悲痛な叫びに至る。我々はズルズルと底なし沼に引きずり込まれ、虚空に呑まれる。ニーチェの言葉〈お前が深淵を覗く時、深淵もまたお前を見返しているのだ〉(「善悪の彼岸」)が脳裏に浮かんだ。

最終音が消え、クルレンツィスが手を下ろすまでの約1分間。長い沈黙に聴衆もよく堪えた。未曾有の体験だった。

これはチャイコフスキー・レヴォリューションだ。アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスが衝撃的なヴィヴァルディ「四季」のLPレコードで、世間に殴り込みをかけてきた日のことを想い出す。ピリオド・アプローチ革命の夜明けであった。

賛否両論も当然あろう。クルレンツィスについて来れない守旧派、哀れな者たちはとっとと、惨めに消え去れ!残ることを選びし我々は新しい風を全身に浴び、見たこともない景色を目の当りにするのだ。

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