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大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会2019とディズニー「ファンタジア」

2月17日(日)フェスティバルホールへ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部定期演奏会を聴く。指揮は総監督の梅田隆司先生。

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つい先日亡くなった屋比久勲先生が指揮する「エルザ」も5年前に大阪桐蔭の定演で聴いた。

また2018年度の吹部の躍進(メディアへの露出)については詳細に下記事に書いたので、ここでは繰り返さない。

さて、昨年の定演のレビューで大阪桐蔭吹部が全日本吹奏楽コンクール(全国大会)で金賞を受賞するときの法則を分析した。

今年は新たに発見した【法則3】について述べてみたい。

2018年の全国大会で大阪桐蔭が取り組んだ課題曲IV コンサートマーチ「虹色の未来へ」〈郷間幹男〉を聴きながら、「梅田先生らしからぬ、精彩を欠いた演奏だなぁ。何でだろう?2016年の課題曲III「ある英雄の記憶」〈西村友〉はあんなに生き生きとした素晴らしい演奏だったのに」と思った。何しろ関西は〈マーチの丸谷〉が君臨しているだけに分が悪い。聴き手(審査員を含む)は無意識のうちに淀工の演奏と比較してしまうだろう。そこでハタと気がついたのである。調べてみると、案の定だった。

大阪桐蔭が全国に輝いた2009年、10年、11年、16年は全て非マーチ作品を課題曲に選んでいる。そしてマーチを選んだ07年、15年、18年はいずれも銀賞に終わっている。これが【法則3】だ。ところで2019年度吹コンの課題曲は5曲中3曲がマーチだ。さあ、どうする?

今年度、大阪桐蔭が自由曲に選んだのはデュカス「魔法使いの弟子」。梅田先生は同曲で1995年大阪市立生野中学校、2000年大阪市立城陽中学校を全国大会に導いている(いずれも銀賞)。また2005年の城陽中でも「魔法使いの弟子」を選んだが、関西大会止まりだった。

ここで、こちらのインタビュー記事(2007年)をお読み頂きたい。以下原文のまま梅田先生の発言を引用する。

僕はどちらかというとフランスの曲が好きなんですよ。中学を指導していた時に交響詩「魔法使いの弟子」(デュカス)という曲で全国大会に2回出場したことがあって、あの曲もやってみたいと思うんですけど...高校の部では全国に行けないかな(笑)。

つまり当時、梅田先生は「魔法使いの弟子」で全日本吹奏楽コンクール金賞を獲れないと考えておられたのだろう。だから18年度のターゲットは他にあったのではないだろうか?それはズバリ、選抜メンバー(上限55人)ではなく、生徒全員で出場出来る日本管楽合奏コンテストである。そして2度目の最優秀グランプリ/文部科学大臣賞(1位)受賞という成果を得た。

今回定演のプログラムは、

第1部 マーチング

〈魔法の「夢」の世界〉

  • デュカス(梅田隆司編):交響詩「魔法使いの弟子」

〈歴史の「夢」を訪ねて〉

  • レスピーギ(杉本幸一編):「リュートのための古風な舞曲とアリア」第3組曲
  • ハンス・ジマー:アニメ映画「プリンス・オブ・エジプト」より
  • レスピーギ:交響詩「ローマの祭」より
  • グノー:アヴェ・マリア
  • フォーレ:付随音楽「ペリアスとメリザンド」よりシチリアーナ
  • レスピーギ:交響詩「ローマの松」より

第2部 座奏中心(クィーン・メドレーはマーチング)

  • 甲子園リクエスト・コーナー〈サーカス・ビー〜夏疾風〜アフリカン・シンフォニー〜アゲアゲホイホイ〜かっせー!パワプロ〜ダイナミック琉球〜サウスポー〜You are スラッガー〜We Will Rock You〜ウィリアム・テル序曲〉
  • 吹奏楽部の歩み〈LOSER〜Lemon〜メトロノーム〜アイネクライネ〜ピースサイン(以上 米津玄師)〜青春の輝き(カーペンターズ)〉
  • スペシャル・コラボ・コーナー〈嵐メドレー・ドリカムメドレー・U.S.A.(DA PUMP)〉
  • 卒業生を送る歌〈ダイヤモンド(コブクロ)〉
  • クイーン(Queen)メドレー〈I Was Born To Love You〜Don't Stop Me Now〜We Will Rock You〜Bohemian Rhapsody〜We Are the Champions〉
  • 中島みゆき:時代(アンコール)
  • 銀河鉄道999(アンコール)
  • 星に願いを(アンコール)

「魔法使いの弟子」は柔らかい音色で軽やかな演奏。とってもフランス的だった。水が溢れる場面はマーチングで巧みに波や渦を表現する。

この交響詩で誰しも連想するのはディズニー不朽の名作「ファンタジア」(1940)だろう。日本軍による真珠湾攻撃の1年前に北米公開されており、こんな豊かな国に勝てるはずもない(日本公開はGHQ占領終結後の55年)。ミッキーマウスが魔法使いの弟子を演じている。

現在小学校1年生の息子に「ファンタジア」のDVDを繰り返し観せてきたが、その過程で僕はこの作品の偉大さがより深く理解出来るようになってきた。冒頭J.S.バッハの「トッカータとフーガ ニ短調」では抽象画の線が教会の尖塔や、ステンドグラスから差し込む光を描写する。つまりキリスト教を意識した作りになっている。ストラヴィンスキー「春の祭典」(ニーチェの言う”デュオニュソス的”芸術)では地球創世記〜生命の誕生〜恐竜時代の終焉までを描く。ベートーヴェン「田園交響楽」(”アポロン的”)ではギリシャ神話の神々が総出演する。またムソルグスキー「はげ山の一夜」に登場する魑魅魍魎たちは、ヨーロッパにキリスト教が浸透する前の土着信仰を象徴している。ハロウィン的だが、ハロウィンの起源は古代ケルト人による(キリスト教にとっては異教徒の)祭りである。だから夜明けを告げる教会の鐘の音と共に彼らは消え去り、シューベルト「アベ・マリア」でキリスト教に戻り幕が降ろされるのだ。そして3曲目に登場する「魔法使いの弟子」で描かれるのは旧約聖書の世界である。弟子による魔法の失敗で洪水になる場面は〈ノアの箱舟〉であり、最後に魔法使いが登場し、水を二つに割り、鎮める。これは映画「十戎」や「プリンス・オブ・エジプト」で描かれた〈出エジプト記〉に基づいている。つまりモーゼによる紅海の〈海割り〉だ。またミッキーの夢の中で無数の流星が落ちてくる情景は天からの硫黄と火によって滅ぼされたとされる都市〈ソドムとゴモラ〉(創世記)を想起させる仕掛けになっている。非常に巨視的な作品だ。余談だが、ディズニーに私淑していた漫画の神様・手塚治虫の未完に終わったアニメ「森の伝説」は「ファンタジア」への熱烈なオマージュで、チャイコフスキーの交響曲第4番が全編に流れる。

何故こんなことをくどくどと書くかといえば、「ファンタジア」は梅田先生が台本を執筆された定演の第1部〈歴史の「夢」を訪ねて〉と密接に結びついているからである。物語はクレオパトラとシーザーの出会いとシーザーの暗殺に始まり、皇帝ネロによるキリスト教徒弾圧(「ローマの祭」〜チルチェンス)から一転、キリスト教の国教化、中世ヨーロッパの暗黒時代を経てルネッサンス期の到来、そして魔女狩りや一神教(キリスト教)に対する批判があって現代に至るという、ローマ史を俯瞰する巨視的な作品である。ディズニーの「ファンタジア2000」にレスピーギ「ローマの松」が採用されていることも見逃してはならないだろう。

そして最後〈アッピア街道の松〉が演奏されている時に背後のスクリーンに【すべての道はローマに通ず】ルート地図が示され、それがいつしか飛行機の空路に変わり、東方に向かって2025年に開催される大阪万博に到達するという演出の離れ業・飛躍があり、僕は「成る程、これは正に共時的作品だな」と甚く感銘を受けた。

元々、通時的/共時的とはスイスの言語学者ソシュール(1857-1913)が提唱した概念である。通時的とは、時間は〈過去→現在→未来〉という不可逆的・一方通行の流れであり、それと共に人類は進歩の歴史を歩んでいるとする考え方。一方、共時的とは、〈過去・現在・未来は同時にここにある〉とする考え方。時間は循環する。「ツァラトゥストラはかく語りき」でニーチェが提唱した〈永劫回帰〉とほぼ同じことを言っていると見做して良いだろう。この概念をフランスの構造人類学者レヴィ=ストロース(1908-2009)は神話論理に応用した。レヴィ=ストロースによると、神話とは通時的であると同時に共時的物語でもあるという。彼は共時的という概念を説明するためにオーケストラの総譜を例に挙げるのだが、詳しいことは下記事をお読みください。

共時的とは何か、を体感するために参考となる代表的映画をいくつか挙げておこう。イングマール・ベルイマン「野いちご」、フェデリコ・フェリーニ「8 1/2」、アラン・レネ「去年マリエンバートで」、大林宣彦「さびしんぼう」「はるか、ノスタルジィ」、そして細田守「未来のミライ」である。

さて、レスピーギ「リュートのための古風な舞曲とアリア」第3組曲の原曲は弦楽合奏であり、杉本幸一による吹奏楽編曲は、より古楽風になっておりとても良かった。なお桐蔭の甲子園オリジナル応援曲「You are スラッガー」は杉本幸一作曲である。

甲子園リクエスト・コーナーは例年通りバットで客席に向けて打ったボールをキャッチした客が曲を指名する仕組み。今までは野球部の選手がステージに呼ばれて打つことがしばしばあったが、空振りしたり飛距離が出ないという散々の体たらくだった。今回は会場からバッター志望を募り、小学生が1階席後方に飛ばしたり、ボールが2階席に届いた人もいて大いに盛り上がった。

また梅田先生から、今年は春の選抜高校野球大会に大阪桐蔭野球部は出場しないが、名古屋代表の東邦高校の校長から直々の依頼があって、友情応援で甲子園に吹部が行くことになったと発表があった。

吹奏楽部の歩みでは米津玄師の作品が5曲演奏されたのだが、どうせなら僕が一番好きな「打上花火」も聴きたかったなぁ……。

大阪桐蔭は昨年、DA PUMPとテレビで2度共演したが、中継会場となった大阪城ホールの収容人数は1万人。12月に出演したドリカムのライヴではオールスタンディングなので1万5千人規模だったという。ドリカムメドレーは〈未来予想図 II〜LOVE LOVE LOVE〜大阪LOVER〜連続テレビ小説『まんぷく』主題歌「あなたとトゥラッタッタ」〉。「大阪LOVER」って初めて聴いたけれど、歌詞がすごく面白かった。

「U.S.A.」は昨年12月のサンタコンサートよりも、7人の男子生徒の踊りが格段に上手くなっていたので目を瞠った。相当練習を積んだんだね。ブラボー!

「ボヘミアン・ラプソディ」は昨年日本で公開された映画の中で、邦画・洋画併せてNo.1の興行成績をあげた。現在も絶賛公開中でバケモノ的大ヒットとなっている。なんでも「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の記録を抜いたとか。世界的に見ても日本は米国に次ぐ第2位の興行成績だそう。何とQueenのお膝元、イギリスよりも当たっているのだ。「レ・ミゼラブル」といい、「グレイテスト・ショーマン」といい、日本人ってミュージカル映画や歌ものが心底好きなんだねぇ。で大阪桐蔭吹部は20世紀フォックスからオファーを受けて公式ミュージック・ヴィデオ(MV)を撮ったわけだが、これ多分、DVD/Blu-ray発売時には特典映像として収録されるのではないだろうか?生徒さんたちにとっては掛け替えのない一生の宝物になるだろう。

今回演奏されたのは、公式MVよりもロング・バージョン。"I Was Born To Love You"は1985年に発売されたフレディ・マーキュリーのソロアルバムに収録された楽曲で、「ボヘミアン・ラプソディ」には登場しない。映画を観て初めて知ったのだが、フレディが最後の恋人ジム・ハットンと交際を始めたのが84年。つまりシングル盤が発売された当時、リスナーの多くは女性に宛てたラブソングだと考えたわけだが、実はYou=ジム・ハットンだったんだね。そして歌詞をよくよく見ると、

Yes, I was born to take care of you, ha

とある。日本人だと「お前の面倒は俺が見るよ」とか、「君の世話は僕に任せて」とかないとは言えないけれど(でも前世代の感覚だ)、欧米人の男性が女性に言う口説き文句としては考えにくいんじゃないかな。「はぁ、何様のつもり?」とか大喧嘩になりそう。

クイーン・メドレーはポップで切れがあり、この日最高のパフォーマンスだった!因みに僕が今まで聴いててきた中で、大阪桐蔭の史上ベスト・パフォーマンスを5つ挙げたい(アンコール「銀河鉄道999」は別格チャンピオンとする)。

  • ポーギーとベス
  • ミュージカル「銀河鉄道の夜」(西村友)
  • キャラバンの到着(映画「ロシュフォールの恋人たち」より)
  • ラ・ラ・ランド
  • クイーン・メドレー

梅田先生、桐蔭が吹コン自由曲でクラシック音楽ではなく、ミュージカル作品を取り上げる日を僕は首を長くして待っています。

アンコールの定番「銀河鉄道999」ではステージ上のミラーボールに、四方からスポットライトを当てて、とっても綺麗だった。演出が年々進化している!

最後に、僭越ながら今後の定期演奏会で聴きたい曲をリクエストさせていただきます。今年4月に梅芸で再演されるフレンチ・ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」とか如何でしょう?例えば〈エメ♪(Aimer=愛)〉は是非、桐蔭生徒さんたちのコーラスで聴いてみたい究極の名曲です(ミュージカル界のプリンス・山崎育三郎と乃木坂46の生田絵梨花の歌唱をこちらからどうぞ)。あと〈世界の王♪〉は凄く吹奏楽向きだと思います(育三郎と城田優のパフォーマンスでどうぞ)。年齢的にも高校生にぴったりの題材ですしね。

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コメント

大阪桐蔭高校の定期演奏会の鑑賞記録、全て読ませていただきました!大阪桐蔭の演奏はもちろん、記事の内容も圧巻です!
大阪桐蔭の今年度の課題曲、個人的には「ワルツ」のほうが合っているのでは…とも思いましたが、演奏時間も考慮した選曲なのかもしれませんね。10年以上前の演奏ですが、大阪桐蔭の2007年の課題曲マーチは非常に完成度の高い演奏だと思います。むしろ今年度の課題曲よりも光る物があるように感じました。https://youtu.be/4lEbju8Drvc
記事にもあるように大阪桐蔭は55人制限のある吹奏楽コンクールよりもフルキャストの演奏会が素晴らしいですね。言葉に語弊はありますが、この際審査基準が不透明なコンクールに出なくても…という気もします。

投稿: サックス吹きの三十路 | 2019年2月21日 (木) 00時08分

サックス吹きの三十路さま

温かいコメントをありがごうございます。この際ここではっきり言っておきたいと思います。僕は丸谷明夫先生のことを指導者として、そして指揮者として大変尊敬しています。特にマーチを振らせたら世界一でしょう。しかし、丸ちゃんが吹奏楽連盟の理事長を続ける限り、全日本吹奏楽コンクールに未来はないと考えています。

丸ちゃんが理事長になって以降、改悪ばかり行われています。①どうして3出休み制度を廃止するのか?(淀工にとっては有利ですが)②全日本マーチングコンテストに人数制限を新たに設けることは本当に必要だったのか?(以降、大阪桐蔭は出場をやめてしまいました)自由曲の2曲ローテーションもいい加減やめてもらいたいですし(例えば同一団体が自由曲で同じ曲を選択するのは5年間禁止にすべきです)。丸ちゃんにNo.と言えない他の役員も情けないです(まぁ、気持ちは分かりますが)。

でも対外的なことを考えると、大阪桐蔭が吹コンもボイコットすることは許されないでしょうね。そもそも関西代表団体の質が落ちてしまいますから。

投稿: 雅哉 | 2019年2月21日 (木) 08時30分

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