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2019年1月 9日 (水)

米アカデミー外国語映画賞&監督賞最有力!「ROMA/ローマ」とフェデリコ・フェリーニ

アルフォンソ・キュアロンが監督したメキシコ映画「ROMA/ローマ」はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、米アカデミー賞でも外国語映画賞及び監督賞受賞をほぼ確実にしている(既にゴールデングローブ賞を同部門で受賞)。焦点は最早、外国語映画として史上初の作品賞(大トリ)を勝ち取るのか!?に移っている。因みに過去、フランス映画「アーティスト」(2011)が作品賞を受賞しているが、ダイアログは英語だった。日本では12月にNetflixから配信されており、本作がアカデミー作品賞や監督賞、外国語映画賞を受賞すれば、配信作品として史上初の快挙となる。

スティーヴン・スピルバーグ監督は動画配信サービスが手掛けた映画に対して、「私は(映画賞の選考対象になるために)数か所の劇場で1週間上映されたくらいの作品を、アカデミー賞候補の選考対象にするべきではないと思っている」「実際にはテレビのフォーマットで製作したならば、それはテレビ映画だと思う」と述べているが、最早時代の流れを押し止めることは出来ないだろう。スピルバーグのように、自由に映画が撮れるような潤沢な資金を持つフィルムメーカーなど稀有の存在なのである。

評価:AA  公式サイトはこちら

Roma

視聴したのは我が家の55型 4Kスマートテレビである。白黒映画。撮影には6Kの65mmデジタル・シネマカメラ ARRI ALEXA 65(詳しくはこちら)が使用された。つまりフィルム撮影ではないので、映画館で観るメリットは皆無である

ROMAというタイトルだがイタリアが舞台ではない。メキシコシティのコロニア・ローマ地区を指す。

キュアロンはここで中流階級の白人家庭に生まれた。本作は彼の幼少期を、住み込みで働く先住民のお手伝いさんクレオを主人公として描いている。映画の最後に「リボへ」という献辞が登場するが、キュアロンの乳母のこと。1970年末から71年にかけての物語である。当時彼は9歳だった。

本作を一言で評すなら、キュアロン版「フェリーニのアマルコルド」。これに尽きるだろう。

Amarcord

「アマルコルド」もアカデミー外国語映画賞を受賞したが、フェデリコ・フェリーニ監督の故郷である北部イタリアのリミニ地方の、今はもう死語になっている言葉"a m'arcord "(私は覚えている)が語源である。「ROMA/ローマ」は幼少期の想い出を描く「アマルコルド」を基調としつつ、やはりフェリーニの自伝的映画「青春群像」の要素も散りばめられている。また身勝手な男を優しく許してしまうヒロイン・クレオのイメージは、間違いなくジュリエッタ・マシーナがフェリーニの「道」で演じたジェルソミーナや、「カビリアの夜」の娼婦カビリアに繋がっている。

La_strada

つまり【クレオ ≒ ジェルソミーナ/カビリア ≒ マグダラのマリア(新約聖書に登場する罪深い女)】という等式が成立する。

1971年を迎えた新年パーティの場面で、ターンテーブルのレコードから流れるのはアンドリュー・ロイド・ウェバーが作曲したロック・オペラ「ジーザス・クライスト・スーパースター」である。じつはこれ、1970年にまず先行で2枚組LPレコードが発売され、ブロードウェイで初演されたのは71年なのだ。で、かかっている曲は"I Don't Know How To Love Him"(私はイエスがわからない)で、マグダラのマリアが歌うナンバーなのである!ね、一目瞭然でしょ?

こうして考察していくと、なぜタイトルが(紛らわしい)ROMAなのか、得心が行くだろう。「道」「アマルコルド」など、フェリーニ映画の多くはローマのチネチッタ撮影所で生み出されており、そのものズバリ"ROMA"(フェリーニのローマ)という作品もある。つまり本作は和歌で言うところの〈本歌取り〉なのである。

Roma

またキュアロンの「ROMA/ローマ」では大型車〈フォードのギャラクシー〉が父親の威圧的存在感を象徴するのだが、最初にこの車が登場した時に父親がカーステレオで聴いているのがベルリオーズ:幻想交響曲の第2楽章(演奏はコリン・デイヴィス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)。このシンフォニーは〈幻の女〉に囚われたひとりの男の狂気を扱っているのだが、それがしっかり映画の内容にリンクしている。

アメリカ映画「宇宙からの脱出」を家族で劇場に観に行く場面がある。これでピンときたのが、「うゎ!『ゼロ・グラビティ』(アカデミー監督賞受賞)の原点はこの体験にあったんだ」ということ。

キュアロンと言えば撮影監督エマニュエル・ルベツキ(「ゼロ・グラビティ」「バードマン」「レヴェナント」で3年連続アカデミー撮影賞受賞)とのコンビが有名である。しかし今回ルベツキは参加出来ず、キュアロン自らがカメラを回した。で「トゥモロー・ワールド」同様に、ここぞという時の長回しが効いている。まず映画冒頭の俯瞰ショットはジャック・ドゥミ監督「シェルブールの雨傘」(1964)以来と言っていいくらいの鮮烈な印象を受けた。またクライマックス、海辺での移動撮影(ドリーショット)が「どうやって撮ったの!?」というくらい凄い。

本作には女性に対する敬意・感謝と、メキシコ先住民に対する贖罪の気持ちがいっぱい詰まっている。掛け値なしの傑作である。

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コメント

英映画館の暗闇で観たかったですけどね... 私は。

アカデミー一体どうなるのでしょう?

投稿: onscreen | 2019年1月12日 (土) 07時15分

申し訳ないけれどonscreenさん、それはなんの根拠もない感傷、ノスタルジィという気がします、僕は(個人の感想です)。

アカデミー作品賞の可能性があるのは現在、「アリー/スター誕生」「グリーンブック」そして「ROMA/ローマ」に絞られました。ROMAがこのまま行っちゃいそうな予感がします。

投稿: 雅哉 | 2019年1月12日 (土) 23時23分

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» ROMA/ローマ・・・・・評価額1750円(暫定) [ノラネコの呑んで観るシネマ]
ああ、郷愁のローマよ。 メキシコ黄金世代の鬼才、アルフォンソ・キュアロン監督の最新作は、1970年から71年のメキシコを舞台に、ある裕福な医師の家に住み込みで働く、先住民系の家政婦クレオの物語。
 タイトルの「ROMA/ローマ」はイタリアの首都ではなく、メキシコシティの地名だそう。 エリートの両親に一姫三太郎の子供たち、中庭のある家には二人の家政婦とペットの犬もいる。 キュアロン...... [続きを読む]

受信: 2019年1月13日 (日) 22時59分

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