ビヨンセからレディー・ガガへ〜映画「アリー/スター誕生」
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上の記事に書いたとおり、「スター誕生」4回目の映画化である。
僕が今回のリメイクの話を聴いたのは2011年だった。その頃はクリント・イーストウッド監督ビヨンセ主演で企画が動いていた。
ところが!撮影直前になってビヨンセの妊娠が発覚、完全に白紙撤回になってしまった。つまりビヨンセは自分の女優としてのキャリアよりも、「女の幸せ」を選択したのだ。プロ意識が欠けた、大馬鹿者である。同時期にビヨンセ主演でディズニー・ミュージカル「アイーダ」映画化という構想もあったが、こちらもポシャってしまった。彼女の罪は重い。
不意打ちを食らった気の毒なイーストウッドは完全にこのプロジェクトに興味を失い、彼が監督した映画「アメリカン・スナイパー」で主演を務めたブラッドリー・クーパーに譲ってしまう。しかし以前からミュージカル映画を撮りたいと考えていたイーストウッドは代わりにブロードウェイ・ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」を映画化し(2014年)、キネマ旬報ベスト・テンでその年の外国映画ベスト・ワンに選出された。
ブラッドリー・クーパーは主演と監督を兼任することになり、ヒロインにレディ・ガガを決めたとき、イーストウッドに報告に行ったそうである。その時、言われたのは「やめとけ」。後に完成した映画を観て、イーストウッドは自分が間違っていたことを素直に認めた。
僕は2度目の映画化、ジョージ・キューカー監督ジュディ・ガーランド主演のバージョンがとても好きである。特にジュディがバンドの仲間たちと"The Man That Got Away"を歌っているときに、ジェームズ・メイソンが店に入ってくる場面は何度観ても痺れる(動画はこちら)。そしてデイミアン・チャゼル監督はこの名シーンを映画「ラ・ラ・ランド」で再現している(男女入れ替わりバージョン→こちら)。「アリー/スター誕生」ではガガがゲイ・クラブでシャンソン「バラ色の人生」を歌う場面に相当する。
ガガは若い頃、ストリップクラブで働いていたことがあり、劇中で彼女は音楽プロデューサーから「君は鼻が高すぎるからスターになれない」と言われたと語るが、これも彼女の実体験である。また「私が書いた曲」と歌い出す"Shallow"(浅瀬)も実際にガガの作詞/作曲である(アカデミー歌曲賞受賞、間違いなし)。つまり本作は虚実の皮膜を縦横無尽に行き来するスリリングな構造になっており、そこがガガの強み。アカデミー主演女優賞、本当にいけるんじゃないかな!
ブラッドリー・クーパーは本作に取り組む前に全く歌ったことがなかったそうなのだが、どうしてどうしてじっくり聴かせるし、プロの歌手そのものだった。役者って凄い!
またクーパーの腹違いの兄を演じたサム・エリオットがいい味出しているんだ。
キャメラは常に主人公たちを半径1m以内から捉えており、殆どがクローズ・アップからバスト・ショットまで。その近接性が独特の個性を醸し出していた。
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