【考察】映画「カメラを止めるな!」の構造分析と三谷幸喜
評価:A+ 公式サイトはこちら。
この映画を一言で評すなら、(三谷幸喜&東京サンシャインボーイズ「ショウ・マスト・ゴー・オン 幕を降ろすな」+フランソワ・トリュフォー「映画に愛をこめて アメリカの夜」+「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」)÷3である。
これ以上何を書いてもネタバレになるので、以下ネタバレ全開で語ります。未見の方はご注意ください。
用意はよろしいか?
Ready,go !
映画の冒頭はB級ホラー仕立てであり、その低予算ぶり、素人臭さから言って「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の雰囲気に近い。ストーリー的にはジョージ・A・ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」とか「ゾンビ」なのだけれど、意図的にそのクオリティーに達していない。
すると途中から《ホラー映画を撮影中のクルーを本物のゾンビが襲う、というプロットの映画を撮っているクルーの舞台裏(back stage)を描く》という構造が立ち現れてくる。つまり三重の入れ子構造になっているのだ。
二重構造なら古くはシェイクスピア「ハムレット」から、映画「Wの悲劇」とか「リズと青い鳥」などの前例があるが、三重というところが本作のユニークなところである。そして彼らが撮っているホラー映画が①生放送で、②全編ワンカットの長回しという条件がつくことにより、ドタバタ(シチュエーション)コメディに転化するという仕掛けだ。それは上演中の芝居(三谷幸喜&東京サンシャインボーイズ「ショウ・マスト・ゴー・オン 幕を降ろすな」)とか、radioの生放送(三谷幸喜&東京サンシャインボーイズ「ラヂオの時間」)における舞台裏のてんやわんやと同じ構造を持つことになる。タイトルの「カメラを止めるな!」は、演劇における(どんなトラブルが起ころうと途中で)「幕を降ろすな」と同義である。
三谷幸喜が小劇団「東京サンシャインボーイズ」時代に指針にしていたのは「がんばれベアーズ」などのバディ・ムービーである。つまり《仲間が一番》ということ。何かの困難に直面し、チームワークで一丸となってそれを切り抜ける。その精神が「カメラを止めるな!」にも受け継がれている。特に最後の組体操=人間ピラミッドで、そのスピリットをしっかり「絵」として見せた技には唸った。こうして綻びかけていた家族の絆もしっかりと修復された。脚本・監督の上田慎一郎、大した才能である。
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