ジャンヌ・ダルクに魅せられた女優〜イングリッド・バーグマンとマリオン・コティヤール
アカデミー監督賞・主演女優賞を受賞したミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」のヒロイン、ミア(エマ・ストーン)の部屋には巨大なイングリッド・バーグマン(Ingrid Bergman)のポスターが張ってあった。ミアは映画「カサブランカ」(1942)の彼女に憧れているという設定である。
- 【考察】「ラ・ラ・ランド」〜セブとミアが見た夢は、何時から始まったのか? 2017.03.01
スウェーデンからハリウッドに渡った大女優イングリッド・バーグマン(「ガス燈」「追想」でアカデミー主演女優賞を2度受賞、「オリエント急行殺人事件」で助演女優賞を受賞)はジャンヌ・ダルクに囚われていた。「白い恐怖」「汚名」「山羊座のもとに」と3本のヒッチコック映画に出演した時も、撮影の合間にヒッチにジャンヌを演りたいと熱心に語っていたという。そして彼女はブロードウェイで「ロレーヌとジャンヌ」という戯曲に出演し、その映画化「ジャンヌ・ダーク」(1948)でも主演の座を射止めた(アカデミー主演女優賞にノミネート)。監督は「風と共に去りぬ」「オズの魔法使い」のヴィクター・フレミング。彼は映画公開直後に心筋梗塞で亡くなったのでこれが遺作となった。
映画は興行的に大失敗で、製作費を回収することすら出来なかった。しかしジャンヌに取り憑かれているイングリッドがこれで満足する筈もなかった。
1949年、イングリッドはネオレアリズモ(イタリアン・リアリズム)の「無防備都市」をハリウッドで観て感激した。彼女は自分がいかにこの映画を賞賛しているか、いかにロッセリーニ監督作品への出演を望んでいるという内容の手紙をロッセリーニに送った。この縁で彼女はイタリアに飛び、1950年「ストロンボリ/神の土地」に出演した。二人はたちまち恋に落ち、彼女はロッセリーニの子を身籠った。実はイングリットは既に37年に歯科医と結婚しており、娘もいた。つまり不倫の関係だったのである。これは大スキャンダルとなり、アメリカ上院議会でも取り上げられた。そして彼女はハリウッドから完全に追放された。
イタリアでイングリットはさらにジャンヌ・ダルクに挑む。前夫と離婚が成立しロッセリーニと再婚を果たした彼女は、夫の演出でフランスの作曲家オネゲルの劇的オラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」をヨーロッパ各地で演じた後、1954年に映画化・主演している。凄まじい執念だ。正にジャンヌ・ダルクになろうとした女と言えるだろう。
なおこの後、イングリッドはロッセリーニと破局し、「追想」(56)で劇的なハリウッド復帰を遂げることになる。アカデミー賞授賞式では彼女の友人であるケーリー・グラントが代理でオスカー像を受け取った。また娘のイザベラ・ロッセリーニも女優となり、映画「ブルーベルベット」「複製された男」等に出演している。
さて、現代のジャンヌ・ダルクといえば、「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」でアカデミー主演女優賞を受賞したフランスの女優マリオン・コティヤールにとどめを刺す。彼女は2015年3月4日、5日にフィルハーモニー・ド・パリで山田和樹/パリ管弦楽団とオネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」を演じ、続く6月10日〜13日の4日間、ニューヨークのエイブリー・フィッシャー劇場でアラン・ギルバート/ニューヨーク・フィルと共に同オラトリオに出演した。また2012年スペインのバルセロナにおける彼女のパフォーマンスはDVDになっている。
美しく、入魂の演技で、完璧に彼女はジャンヌ・ダルクになり切っている。Bravissimo !!!
なお、このDVDを購入されたい方はこちらからどうぞ。
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