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2018年6月25日 (月)

《増補改訂版》「コードギアス 反逆のルルーシュ」の魅力とその構造を徹底分析する。

TBSラジオで65年間続いた野球中継(午後6時からのナイター)が2018年3月末で終了し、代わって4月から月〜金曜日にヒップホップ・グループRHYMESTER(ライムスター)宇多丸(49)がパーソナリティを務めるカルチャー・キュレーション番組「アフター6ジャンクション」 #utamaru #アトロク が開始された。そして1ヶ月経ち、蓋を開けてみるとTBSラジオは聴取率1位を独走する結果となった。これがめっちゃ面白いので、僕も毎日通勤時にラジオクラウドで愛聴している。

5月22日(火)に【宇垣美里アナ&藤津亮太が語る「今からでも間に合うコードギアス一夜漬け入門」】という特集が組まれた。神戸市出身で同志社大学在学中にミスキャンパス同志社のグランプリを獲得、つい先日は「週刊プレイボーイ」のグラビアを飾ったTBSの宇垣アナ(27)が、助っ人・藤津亮太(アニメーション評論家)の力を借りて「コードギアス」を一度も見たことのないライムスター宇多丸に対してその魅力をとことん語り、「全力で」推しまくるという企画であった。宇垣アナは「ルルーシュと結婚したい!」と公言するくらいの熱狂的ファンである(その一方でルルーシュの親友・枢木スザクのことを「ウザク」と呼ぶ)。

僕はCLAMPによる耽美な、そして癖のあるキャラクターデザイン(絵柄)が苦手で今まで敬遠していたのだが、ラジオを聴きその内容にすこぶる興味を惹かれた。調べてみたところNetflixで配信されているのを発見、放送終了後19日間で全50話を一気に見通した。最終回が終了した直後からRe; turnし、2回目の鑑賞に突入。

「コードギアス」シリーズは2006年10月より第1期、2008年4月より第2期がテレビ放送された。現在はその総集編である劇場版3部作が公開中。

Code

本作最大の魅力は物語の反転にある。敵と味方が目まぐるしく入れ替わる。息もつかせぬ展開とは正にこのこと。そして戦争に《正義の側》と《悪の側》という絶対的な価値は存在せず、あくまで相対的なものだと教えてくれる。宇垣アナも激賞していたが、とにかく大河内一楼の脚本が圧倒的に素晴らしい!

藤津亮太は《全部のせ》と評したが、確かにその通りだった。

ユーフェミア(神聖ブリタニア帝国・第三皇女)は上空から落ちてきて枢木スザクに抱きとめられる。これは宮崎駿「天空の城ラピュタ」冒頭の引用であり、スザクが猫に指を噛まれるのは「風の谷のナウシカ」(ナウシカ↔キツネリス”テト”)。そして日本が神聖ブリタニア帝国に占領され、名前を奪われて「エリア11」と呼ばれる設定には「千と千尋の神隠し」が木霊する。ルルーシュがスザクにかけるギアス「生きろ。」は勿論、「もののけ姫」だ。中華連邦における花嫁略奪は「ルパン三世 カリオストロの城」。天子(てんし)≒クラリスであり、彼女がまだ幼いときに黎 星刻(リー・シンクー)≒ルパンの命を救ったという設定も同じ。

またルルーシュがギアスの力を用いてある登場人物の記憶を消去するのだが、これは筒井康隆のSF小説(ジュブナイル)「時をかける少女」にそっくり。他にも、ピカレスクロマン、軍師もの(頭脳戦)、くノ一(女忍者)、メイドアニメ、学園ラブコメ、ボーイズ・ラブ、「機動戦士ガンダム」をはじめとするロボットアニメ等の要素がてんこ盛り

本作はシェイクスピア「ハムレット」の構造を踏襲している(第1話、サイドカーでルルーシュは「ハムレット」を読んでいる)。ハムレットは殺された父の仇を取るために王に即位した叔父と、その妻になった母を暗殺しようと計略をめぐらせる。一方、ルルーシュは暗殺された母を守らなかった父、ブリタニア皇帝シャルルを討つために着々と準備を整える(父↔母が変換されている)。ハムレットは気が触れたふりをする。(Hamlet pretends to be mad.)「コードギアス」第2期で監視されているルルーシュも記憶を取り戻していないという見せかけの演技をする。

さらに「父殺し」というギリシャ神話「オイディプス王」のテーマが重ねられる(フロイトはこれに基づきエディプス・コンプレックスという概念を提示した)。フランスの人類学者レヴィ=ストロースは彼の著書「構造人類学」の中で「オイディプス王」の構造を分析している。この神話には《オイディプスは父を殺す》《オイディプスの息子エテオクレスはその兄弟ポリュネイケスを殺す》という【親族関係の過小評価/価値を切り下げられた親族関係】と、《オイディプスは母と結婚する》《オイディプスの娘アンティゴネは、反逆者として死んだ兄ポリュネイケスを、禁を破って埋葬する》という【親族関係の過大評価】の二項対立があると述べている。では「コードギアス」はどうか?《父殺し》だけではなく《ルルーシュは兄である第3皇子クロヴィスを暗殺する》という【親族関係の過小評価】があり、一方で《ルルーシュは妹ナナリーを溺愛する(彼が反逆する目的は全てナナリーの安全を守り、彼女を幸せにするためだけにある)》《第2皇女コーネリアは妹(第3皇女)ユーフェミアを溺愛する》という【親族関係の過大評価】が対立する。

またルルーシュとスザクは幼馴染の親友→敵対関係に移行し、以後も揺れ動く。これは永井豪の漫画「デビルマン」に於ける不動明(=デビルマン)と飛鳥了の関係を彷彿とさせる。「デビルマン」におけるデーモン≒ギアスと考えてほぼ間違いないだろう。2018年にNetflixから配信が開始された湯浅政明監督によるアニメ「DEVILMAN crybaby」(全10話 傑作!)の脚本を「コードギアス」の大河内一楼が執筆しているのは決して偶然ではない。さらに「デビルマン」の源流を辿ると、ダンテの「神曲」とミルトンの「失楽園」にたどり着く(永井豪の自作「魔王ダンテ」が原型)。「コードギアス」R2(第2期)TURN1「魔神が目覚める日」のサイドカーでルルーシュが読んでいるのは"La Divina Commedia"つまり「神曲」である。

ルルーシュと魔女C.C.(シーツー)が結ぶ契約は、ゲーテの小説「ファウスト」における主人公とメフィストフェレスの関係の変換である。これは後に「魔法少女まどか☆マギカ」の魔法少女↔キュゥべえに踏襲される。さらに「コードギアス」第2期(R2)冒頭の記憶を失った登場人物たちが、違和感を覚える日常を送っている姿は「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語」冒頭部に重なる。

ルルーシュが持つギアス=《絶対遵守》の力が、原作 - 大場つぐみ・作画 - 小畑健による漫画「DEATH NOTE(デスノート)」(2003年12月から2006年5月まで連載)の効力に類似していることも指摘しておこう。

----- 以下ネタバレあります。未見の方はご注意ください。 -----



ルルーシュは仮面で素顔を隠して「ゼロ」と名乗るのだが、これはゼロ記号ゼロ象徴価値の記号)を示している。

ソシュール(1857-1913)の言語学では「意味しているもの」「表しているもの」のことをシニフィアン、「意味されているもの」「表されているもの」のことをシニフィエと呼ぶ。「海」という文字や「うみ」という音声がシニフィアン、頭に思い浮かぶ海のイメージや海という概念がシニフィエである。ゼロ記号ゼロ象徴価値の記号)とはシニフィアンが具体的な姿を持っていないこと自体が、一つのシニフィアンとして機能する記号である。メラネシアの原始的宗教において、神秘的な力の源とされる概念「マナ」や、日本語で「ツキがある」「ツキに見放された」などと使用される「ツキ」が該当する。ゼロ記号ゼロ象徴価値の記号)は浮遊する過剰シニフィアンであり、その多義性に特徴がある。「ゼロ」の仮面もルルーシュだけではなく、C.C.(シーツー)、篠崎咲世子(くノ一/女忍者)、スザクらがかぶる。物語の中を漂い、循環するのである。

ゼロ」の仮面同様、本作でゼロ記号として働いているのが言うまでもなくギアスだ。ワーグナー「ニーベルングの指環」やトールキン「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」における指輪、「スター・ウォーズ」のフォース、「ハリー・ポッター」シリーズの魔法同様、ギアスという得体の知れない力は二項対立を結び、両極間を循環する第三項である。

ルルーシュ(ゼロ)が純血派の将校ジェレミアに対してハッタリで言う「オレンジ」という言葉もまた、ゼロ記号としてシニフィエ(意味されている対象)が定まることなく浮遊する。

皇帝の騎士としてナイトオブラウンズ(Knights of the Round)が登場するが、これは日本語に訳すと「円卓(roundtable)の騎士」となる。スザクが乗る人型兵器(ロボット)「ランスロット」もまたアーサー王物語に登場する円卓の騎士のひとり。彼はアーサー王と決裂し、円卓の騎士は王の軍勢に加わる者とランスロット派に二分され、戦うことになる。この構造が「コードギアス」に引き継がれている。アーサー王の狙いはブリタニア(現在のイギリス)の平定であったが、「コードギアス」には神聖ブリタニア帝国が登場する。ロイド、セシルらが所属しランスロットを開発した技術部・特派は後に「キャメロット」という組織へと発展解消した。キャメロットはアーサー王の王国であり、キャメロット城が築かれた。また生徒会で飼われている猫の名はずばり、アーサーである。

ナイトオブラウンズのNo.3(ナイト・オブ・スリー)が乗る人型兵器の名は「トリスタン」。これはワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」の主人公。元々はケルトの説話であり、後にアーサー王物語に取り込まれた。円卓の騎士のひとりとしてランスロットに次ぐ強さの持ち主だったという。

また機動兵器「ジークフリート」が登場するが、これはワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」に登場する英雄。元は北欧神話である。

生死に関係なく、人の心と記憶が集まる「Cの世界(集合無意識/Collective unconscious)」という概念はユング心理学に由来する。それはシャルルやV.V.(ヴイツー)から「神」と呼ばれている。

Jungsmodel

シャルルが読んでいる本に登場する、ユングによる「心」の構造である。中心に自己(SELF)があり、それを取り巻く円の内側(深層)が集合的無意識(Collective unconscious=Cの世界)。A元型(Archetype)で、アニマ(男性の思い描く理想的女性像)、アニムス(女性が思い描く理想的男性像)、太母(the Great Mother)、老賢人(the Wise Old Man)等が該当する。その外側に個人的無意識(Personal unconscious)が存在し、心的複合体=感情複合(Complex)を内包する。その代表例がフロイトが提唱したエディプス・コンプレックス。さらに「心」の表層に意識(Consciousness)があり、自我(EGO)が配置されている。

シャルルがいる神殿のような仮想空間は「アーカーシャの剣」。アーカーシャとは古代インド・サンスクリット語で「虚空」を意味し、存在の一切を統括する法則を指す。「剣」と命名されているのはアーサー王が持つ剣「エクスカリバー」を意識してのことだろう。これには魔法の力が宿るとされ、ブリテン島の正当な統治者の象徴である。石に刺さったエクスカリバーを引く抜くことがアーサーの血筋を証明することになる。一方、ジークフリートは「ノートゥング」という剣を鍛え直すのだが、そちらは神々の長ヴォータンが人間の女に産ませた息子ジークムントに与えたもので、木に刺さって誰も抜けなかったノートゥングを彼が引き抜く。2つの剣は見事に対称を成している。

シャルルとV.V.(ヴィツー)の悲願は《嘘のない世界》を創生する計画=「ラグナレクの接続」である。Cの世界に干渉し、不老不死のコードの力を使って全人類を集合無意識へと回帰させるというもの。つまり、個々人の意識間にある壁(新世紀エヴァンゲリオンでいうところのATフィールド)を取り払い、全人類の意識を強制的に共有状態にすること。ラグナレク(ラグナロク)とは北欧神話の世界において神々と巨人族が争う世界終末戦争のことであり「神々の黄昏」ともいう。ここでも「ニーベルングの指環」に接続している。

シャルルとV.V.は《嘘のない世界》を志向するが、その一方でルルーシュとスザクは《秘密と嘘に塗(まみ)れた世界》に生きている。この二項対立の根底には【個々人の思考に差異がなく、コミュニケーションが必要ない世界が仮に実現したとして、それは本当に「生きている」と言えるのだろうか?】【競争や対立、諍いのない暮らしは果たして人に幸福をもたらすか?】【人が本心を隠し仮面(ペルソナ)を被るのは善きことか、否か?】という哲学的問いがある。そして更に《限りある生命↔永遠の命》の相克に思いを馳せることになる。

またラグナレクの接続の場面で"Lasciate ogni speranza, voi ch'entrate."(この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ)というダンテ「神曲」の一節が登場することも付け加えておく。

最後に、最終話 TURN 25「Re;」について考察する。果たしてルルーシュは本当に死んだのだろうか?ここでまず、ナナリーが血まみれのルルーシュの手を触れた時に、ルルーシュの記憶が彼女に流れ込む場面に注目したい。これはルルーシュがC.C.と出会い、彼女からギアスを授けられた第1話 = STAGE 1「魔神が生まれた日」の再現になっている。そしてラストシーン、C.C.が荷馬車に積まれた藁の上から語りかけている相手は誰なのか?彼女の額には未だコードが浮かんでいるか?御者の顔はどうして見えない?これらを考えれば、答えは自ずから解るだろう。こうして物語は振り出しに戻り(Re;turn)、循環する。STAGE 1「魔神が生まれた日」の冒頭。暗闇の中でドックンドックンと心臓の鼓動が聞こえ、やがて瞳が開かれて最初に視界に浮かぶのがC.C.の姿である。さて、この瞳は誰のもの?

大河内一楼、恐るべし!!「コードギアス 復活のルルーシュ」を待て。

Next

TO BE CONTINUED...

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コメント

雅哉さんもアトロク聞いてるですね!
私も「ゼロ・グラビティ」の映画評をきっかけに、アトロクの前身のウィークエンドシャッフルから聞いてました。
雅哉さんと宇多丸さん(それから町山さん)を通して、やっぱり人生には教養や哲学が必要だな、ということを学んだので、雅哉さんもアトロクを楽しんでいると聞いて嬉しいです。
ただ、宇多丸さんや町山さんはバリバリのリベラル(アメリカの民主党みたいな)なとこがたまに鼻につきますが。

叛逆のルルーシュは2011年ごろに見てみようと思ったのですが、私もあのキャラデザと中二病くささに一話で断念してしまったんです。
今思えば、そのときは脱中二病を意識しすぎてたのかなと思うので、この機会に一気に見たいと思います!

投稿: ものぴ | 2018年6月25日 (月) 09時10分

ものぴさん、コメントありがとうございます!一生懸命書いた記事に対して、反応があるととても嬉しいです。

もしTBS宇垣美里アナの情熱溢れるプレゼンテーションを聴いていなかったら、僕も間違いなく「コードギアス」は第1話で脱落していたでしょう。「魔法少女まどか☆マギカ 」も見始めた時は蒼樹うめのロリっぽい絵(キャラデザ)に辟易しました。しかし第3話(巴マミの首チョッキン)で全身に冷水を浴びせられたような衝撃を受け、一気にのめり込みました。「コードギアス」の場合はスロースターターで、「これは傑作だ!」と確信を持てたのは第14話「ギアス対ギアス」あたりでしょうか。だからしばらくは辛抱強くお付き合いくださいね。

宇多丸さんに感心したのは大林宣彦監督「時をかける少女」評です。深町くん(高柳良一)の昏倒レイプ説に卒倒するくらいびっくりし、吾郎(尾美としのり)がヒッチコック「めまい」のミッジだという解釈にも目から鱗が落ちました。

現役の映画評論家の中で町山智浩さんは文句なしに実力No.1だと確信しています。「万引き家族」のベースに落語があるという分析も流石でした。ただし彼はtwitter等で政治的発言をしたがるのが困りものです。しかもレベルが低すぎる。米国では反トランプ、民主党のシンパ、日本では反安倍で立憲民主党をあからさまに応援しているのがミエミエ。こういう偏った人が公共の電波や雑誌で政治を語るのはいかがなものでしょう?素人は黙っておれ。「リベラルという病」を感じ、げんなりします。町山さんが敬愛する淀川長治さんはこういう政治的発言をしなかった。また父は韓国人で彼が幼い頃、日本人の母から「朝鮮人の子」となじられ、折檻されたという強烈なトラウマを抱えていて(町山智浩著「トラウマ映画館」より)、人種差別問題になると過剰な反応を示すのも「やれやれ、困ったものだ」と思います。恐らくニーチェが言うところのルサンチマン、あるは「恨(ハン)」なのでしょう。

投稿: 雅哉 | 2018年6月25日 (月) 19時39分

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