スピルバーグの大傑作「レディ・プレイヤー1」を観る前に知っておくべき2,3の事項
評価:A+
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1980年に公開された「1941」と「未知との遭遇 特別編」以降、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画は全作品を映画館で封切り時に観ている。駄作「オールウェイズ」や「フック」も含めてだ。
本作を観ながら僕は今から25年前の1993年のことを想い出した。その年の6月11日に全米で「ジュラシック・パーク」が公開され、わずか半年後の12月15日に「シンドラーのリスト」が立て続けに公開された。前者はスピルバーグが心底撮りたい映画、そして後者はアカデミー賞を獲るための必殺剣。結局アカデミー賞で「ジュラシック・パーク」は視覚効果・音響編集・録音の3部門、「シンドラーのリスト」は作品・監督・脚色・作曲・撮影・編集・美術の7部門で受賞、合せ技で10部門を制したのである。これこそがスピルバーグ一流のバランス感覚だ。
そして今回はがっつり社会派でシリアスな「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」が2017年12月22日に公開され、超娯楽大作でめっぽう愉しい「レディ・プレイヤー1」が翌18年3月29日に続いた。他者の追随を許さぬ見事なバランス感覚の再現。因みに「レディ・プレイヤー1」の撮影監督ヤヌス・カミンスキーとスピルバーグが初めて組んだ作品が「シンドラーのリスト」で、カミンスキーにオスカーをもたらした(「プライベート・ライアン」が2回目の受賞)。
「レディ・プレイヤー1」は1980年代のポップカルチャーに標準が合わされ、「ジュラシック・パーク」のT-レックス、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンとか大友克洋「AKIRA」の主人公・金田のバイク、ガンダムなどが登場するので話題になっている。
原作者で共同脚本も執筆したアーネスト・クラインとスピルバーグはウルトラマンを登場させたいと考えていた。しかし版権問題が複雑すぎて結局無理だと諦め、アイアン・ジャイアントにその役割を担わせたという(こちらにそのインタビュー記事)。ウルトラマンに関しては円谷プロが法廷でつい先日まで争っていた→「ウルトラマン」国外利用権で円谷プロが米国で勝訴。タイ実業家らと20年以上係争(AV Watch)しかしアイアン・ジャイアントの一般的知名度は高いと言えず、コンテンツとしては弱いだろう(いや、僕はBlu-rayを持っているし、ブラッド・バード監督の最新作「インクレディブル・ファミリー」には大いに期待しているのだが……)。
それにしてもキングコング登場の場面では元祖1933年版のためにマックス・スタイナー(「風と共に去りぬ」「カサブランカ」)が作曲した音楽が使用され、ゼメキスキューブが使用される場面では「バック・トゥ・ザ・フューチャー(BTTF)」の音楽が高鳴り、メカゴジラが暴れ出すと伊福部昭作曲ゴジラのテーマが。あがった!ちなみに「レディ・プレイヤー1」の音楽はスピルバーグの朋友ジョン・ウィリアムズではなく、BTTFのアラン・シルヴェストリである。
他にも、ある人物の爆死シーンが明らかに「スター・ウォーズ エピソード4」のオマージュであるとか、アイアン・ジャイアントがシュワちゃん@ターミネーターの"I'll be back."ポーズをするとか、小ネタに関しては枚挙に暇がない。
ハイタッチのことを英語で”HI FIVE”という。ホラ、AKB48のシングル"GIVE ME FIVE !"ね。で「レディ・プレイヤー1」の主人公は当初、誰からもHI FIVEをしてもらえないという屈辱を味わうのだが、これが実は後の伏線になっているので要注目!
本作を観る前に最低限の予習(教養)として、オーソン・ウェルズ監督「市民ケーン」(1941)とスタンリー・キューブリック監督「シャイニング」(1980)をご覧になっておくことを強くお薦めする。だって予備知識がないと「バラの蕾(Rose Bud)」と言われたって、なんのこっちゃ、さっぱり解らないでしょう?
因みにスピルバーグはキューブリックの遺志を継いで映画「A.I.」(2001)を撮った。彼が自らシナリオを執筆したのは「未知との遭遇」と「A.I.」2作のみである。それだけ想い入れが強いということ。そして「A.I.」はピノキオの物語がベースになっており、「未知との遭遇」の主人公ロイは子どもたちを連れてディズニーの「ピノキオ」を観に行こうとするし、映画の最後に主題歌「星に願いを」が流れる。また「ピノキオ」を基に手塚治虫は人間になりたがったロボットの漫画「鉄腕アトム」を描き(アトムはサーカスに売り飛ばされる)、そのアニメをアメリカで観たキューブリックは「2001年宇宙の旅」の美術監督を担当して欲しいと手塚治虫にオファーした。しかし当時、虫プロを抱え漫画の連載にも追われ多忙を極めた手塚はそれを断ったのである。ここにもうひとつの「レディ・プレイヤー1」の物語(ポップカルチャー史)がある。
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