アカデミー賞受賞「シェイプ・オブ・ウォーター」2回目の鑑賞で大発見!
「シェイプ・オブ・ウォーター」がアカデミー賞で作品賞・監督賞・美術賞・作曲賞を受賞した後に、ギレルモ・デル・トロ監督が31年間連れ添った妻(1986年結婚)と2017年2月に別居し、9月に離婚が成立していたことを発表した。
アカデミー賞授賞式では彼の横に美女が座っていたのだが、脚本家キム・モーガンであることが判明(写真はこちら←5枚あり)。彼女はデル・トロが監督する予定になっている、1947年のフィルム・ノワール"Nightmare Alley"(日本では劇場未公開で現在「悪魔の往く町」というタイトルでDVD発売中)リメイクの脚色を手がけているらしい。で調査したところ彼女もバツイチで、前夫はカナダのガイ・マディン監督だそう。
授賞式でデル・トロの名前が呼ばれ、彼が壇上に向かっている時に客席の彼の娘をカメラが捉えたのだが、不貞腐れたような顔でダルそうに拍手していたのが最高に可笑しかった。そりゃ父が母を棄てて、間髪をいれず別の若い女と公の場で睦み合っていたら、娘としては面白くないわな。「不潔!サイテー」と叫ぶ彼女の心の声が聞こえるようだった。人生いろいろである。
さて映画の2回目を観て、新たに気付いた点、また前回記事で書き切れなかったことを列記してみよう。
1)何故ジェームズ・キャメロンなのか?:エンドロールのSpecial Thanksでメキシコの仲間(アミーゴ)であるアルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥらとともにジェームズ・キャメロン監督の名が登場する。1回目に観た時は「何故キャメロン?」と理由が分からなかった。2回目で「アッ!」と叫びそうになった。映画冒頭、カメラは水中をグングン進み、扉を開けて水没したヒロイン・イライザの室内に入ってゆく。そこでは眠るイライザと家具が浮遊している。これって映画「タイタニック」冒頭の水中撮影とそっくりじゃん!
2)怪物(Monster)とは誰か?:映画の冒頭で語られる、ナレーションを引用しよう。
"Would I tell you about her? The princess without voice. Or perhaps I would just warn you, about the truth of these facts. And the tale of love and loss. And the monster, who tried to destroy it all."
「声を失ったお姫様、彼女のことを語ろうか?それとも起こった出来事の真実を聞かせて、君に警告を与えようか?それは愛と喪失、そして全てを破壊しようとした怪物(Monster)の物語だ」
この映画を初めて観る人は当然モンスター=半魚人のことだと思うだろう。「お姫様」と並列して語られるから当然である。しかし実はこれが巧妙なミスリードなのである!映画を最後まで観た人には分かる。だって半魚人は何も破壊していないのだから。つまりモンスターとは明らかに別のキャラクターのことを言っているのである。
3)Positive Thinking:軍人で機密機関「航空宇宙研究センター」警備責任者のストリックランドはノーマン・ヴィンセント・ピールが1952年に出版した「積極的考え方の力」(The Power of Positive Thinking)を読んでいる。ピールはニューヨーク・マンハッタン五番街に面したマーブル共同教会の牧師を半世紀以上勤めた人で、デール・カーネギー、ナポレオン・ヒルと並ぶ自己啓発の御三家と呼ばれている。またハンバーガーチェーン店マクドナルドの創業者レイ・クロックを描く映画「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」で主人公はノーマン・ヴィンセント・ピールが吹き込んだレコードをいつも熱心に聴いている。そして「積極的考え方の力」はドナルド・トランプ大統領の愛読書なのである。つまり「シェイプ・オブ・ウォーター」はNegative thinkingの弱い者たち(イライザの協力者)が力を合わせてThe Monster of Positive Thinkingと対決する寓話とも読み取れるのである。
4)色彩設計:「航空宇宙研究センター」の壁やイライザたちが着る制服は青緑色で統一されている。言うまでもなく水中のイメージだ。
またストリックランドが購入する高級車(キャデラック・ドゥビル)の色はGreen(緑)ではなく、Teal(ティール)だとディーラーから説明がある。Tealとは日本語で「鴨の羽色」のことで、マガモの頭から首にかけての羽毛の色からとられた名前である。
鴨は淡水域、湿原、海洋などに生息し、やはり水と深い関わりを持つ。
5)"Bojangles"(ボージャングル):イライザが住むアパートの隣人でゲイの画家ジャイルズは白黒テレビでシャーリー・テンプル主演映画「少連隊長(Little Colonel)」を観ている。ここで彼が言う「ボージャングル」とは世界最高のタップ・ダンサーと称されたビル・”ボージャングル”・ロビンソンのこと。実はテンプルとボージャングルはアメリカ映画史上初の白人と黒人のダンス・ペアだった。当時白人と黒人のダンサーが映画の中で一緒に歌い踊るということは滅多になかった。僕が知る限りフレッド・アステアは一度もなかったし、ジーン・ケリーはヴィンセント・ミネリ監督「踊る海賊」のナンバー、"Be A Clown"でニコラス・ブラザーズと一度踊ったきり。またMGMのミュージカル大作「ショウ・ボート」(1951)で混血の娘ジュリー役にキャスティングされたレナ・ホーン(黒人)は結局降ろされて、同役を白人のエヴァ・ガードナーが演じた。そういう時代だった。
6)アリス・フェイ:やはり白黒テレビで放送されているミュージカル映画"Hello, Frisco, Hello"(日本未公開)の中でアリス・フェイが"You'll Never Know"を歌う。これは1943年度のアカデミー歌曲賞を受賞している。アリス・フェイの名前を知っている日本人はもう殆どいないだろう。彼女の不幸は20世紀フォックスと専属契約を結んだミュージカル女優だったことだろう。何しろミュージカル映画と言えばMGMの専売特許だった時代である。60年代に衰退したMGMミュージカルは70年代に「ザッツ・エンターテイメント!」というアンソロジー映画として息を吹き返すのだが(Part 3まで製作された)、フォックスの場合はそんな気運すらなく、70年代は「スター・ウォーズ」や「エイリアン」などSFブームに呑み込まれてゆく。ちなみに「少連隊長」も20世紀フォックス作品であり、「シェイプ・オブ・ウォーター」を製作したフォックス・サーチライト・ピクチャーズは1994年に設立された20世紀フォックスの子会社である。
7)キューバ危機:物語の時代背景は東西冷戦下の1962年である。途中ラジオから「ミサイル基地が見つかった」というニュースが流れるが、これはキューバ危機の発端となった。
8)辻一弘:エンドロールにKazuhiro Tsuji の名前を発見!勿論、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」でアカデミー賞を受賞したメイクアップ・アーティスト、辻一弘氏だ。辻さんは半魚人の目の部分を担当したそうだ。
9)半魚人=王蟲(オーム)?:前述したようにイライザは基本的に青緑色の服を着ている。ところがラスト・シーンで彼女が身につけているコートは赤色だ。何故か?
ここで彼女は銃で撃たれ、コートは血に染まる。2回目の鑑賞で脳裏をよぎったのが宮﨑駿のアニメーション映画「風の谷のナウシカ」である。
物語の終盤でナウシカはペジテの赤い服を着ている。
しかし囮として囚われた王蟲(オーム)の子供を開放しようとして、その傷口から噴出する体液を浴びて深い青色に変わる。
つまり「シェイプ・オブ・ウォーター」と「風の谷のナウシカ」には
- 人間に捕らえられ、利用されようとした生物(半魚人/王蟲)をヒロインが開放する。
- その過程でヒロインは負傷し、着衣が血/体液で染まる。
「シェイプ・オブ・ウォーター」青緑→赤
「風の谷のナウシカ」赤→深い青 - 半魚人は傷口を癒やしたり髪の毛を生やす神秘的力を有す。
王蟲もナウシカの傷を癒やし、木を芽吹かせる力がある。 - 半魚人はアマゾン川で神と崇められている。
王蟲は森の守り神。
という構造(structure)の一致、対応関係(変換)が認められる。つまりギレルモ・デル・トロにとって半魚人=王蟲、イライザ=ナウシカなのだ。これぞ構造人類学者レヴィ=ストロースが言うところの神話的「野生の思考」である。
映画「パンズ・ラビリンス」(2006)で主役の少女を演じたイバナ・バケロは撮影前にデル・トロから「風の谷のナウシカ」のコミック本を全巻貰ったと証言している。
また「パシフィック・リム」(2013)に出演した菊地凛子によると、撮影中に落ち込んでいる時、監督が「となりのトトロ」の♪さんぽ♪を歌って、励ましてくれたそうだ(こちらの記事)。
デル・トロはあるインタビューに答え、こう語っている。
「日本の配給会社に『宮崎さんに会いたい』と頼んだけれど、宮崎さんは忙しくて時間がつくれないらしい。残念だけど、仕方ないよね」
宮さん、どうか彼に会ってあげて!
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