アカデミー賞2018の行方〜映画「スリー・ビルボード」
評価:A+ 公式サイトはこちら。
2月1日(木)日本公開初日に鑑賞。ギレルモ・デル・トロの「シェイプ・オブ・ウォーター」は3月1日(木)に公開されるので、いまこういう【映画の日に公開】というのが、流行っているのかな?入場料が安い日のスタート・ダッシュに賭けて、興行成績ランキング上位を狙おうという配給会社の戦略なのだろう。
「スリー・ビルボード」はアカデミー賞で作品賞、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)、助演男優賞(ウディ・ハレルソン&サム・ロックウェル)、脚本賞、作曲賞、編集賞と6部門7ノミネートされている。そして今年のアカデミー作品賞は本作と「シェイプ・オブ・ウォーター」の一騎打ち、監督賞はデル・トロとクリストファー・ノーラン(「ダンケルク」)の一騎打ちという情勢だ。
アカデミー作品賞に関して「スリー・ビルボード」が有利な点は全米映画俳優組合賞(Screen Actors Guild Awards)の作品賞に相当するアンサンブル賞を征したこと。ゴールデングローブ賞の作品賞も受賞した(監督賞はデル・トロ)。不利な点は監督賞にノミネートされなかったこと。但し、過去にも「恋におちたシェイクスピア」や「ドライビング Miss デイジー」が監督賞にノミネートされずに作品賞を受賞した前例がある。アカデミー会員で最も人数が多いのは役者たちなので、SAGでアンサンブル賞を獲ったのは大きい。一方、「シェイプ・オブ・ウォーター」が有利な点は13部門最多ノミネートされていること。しかし昨年、史上最多タイ14ノミネートされた「ラ・ラ・ランド」は作品賞で「ムーンライト」に敗れている。つまり予断を許さない白熱したレースになっている。
映画鑑賞直後に確信したのはアカデミー賞でフランシス・マクドーマンドの主演女優賞、サム・ロックウェルの助演男優賞受賞は200%間違いないということ。圧巻である。また滋味溢れるウディ・ハレルソンの演技も忘れ難い魅力がある。役者に関してはパーフェクトだね。
僕は「つぐない」(2007)の頃からシアーシャ・ローナン(現在23歳)を応援していて、彼女が「レディ・バード」で主演女優賞を獲って欲しいと祈っているのだが、「スリー・ビルボード」を観て思い知らされた。フランシス・マクドーマンドには到底敵わないと。シアーシャ、君は未だ若いんだからまた次のチャンスがいくらでもあるさ。今回は潔く諦めよう。
兎に角、観客に先の展開を一切読ませない脚本が素晴らしい。次から次へと予想が裏切られていく。
本作の主なテーマは2つある。「人は見かけとは違う。早計に判断を下すな」そして「憎しみの連鎖は不毛しか生み出さない」ということ。それらが未だに有色人種やLGBTへの差別意識が強いアメリカ南部社会の気質と絡み合いながら次第に加速する。
後半で鹿が印象的に登場する。僕が瞬間的に想い出したのがダグラス・サーク監督「天はすべて許し給う」(All That Heaven Allows,1955)。ジェーン・ワイマン演じる未亡人は小さな地方都市に暮らし、周囲の偏見、閉塞感に苦しんでいる。そのしがらみからの解放を象徴するのが鹿であり、そういう意味で「スリー・ビルボード」に繋がっている気がする。ちなみにトッド・ヘインズ監督「エデンより彼方へ」(2002)は映画まるごと「天はすべて許し給う」へのオマージュになっている。
娘がレイプされ殺された母親(マクドーマンド)と暴力沙汰で警官をクビになった男(ロックウェル)は物語の最後、一緒に車に乗り込む。彼らの行く先に《許し》はあるのか?その結末は観客の想像力に委ねられる。僕の脳裏に浮かんだのはアイルランドを舞台にしたロバート・ボルト脚本、デヴィッド・リーン監督「ライアンの娘」のラストシーンである。あの作品ではロバート・ミッチャムとサラ・マイルズがバスに乗り込む場面で締め括られた。
脚本・監督のマーティン・マクドナーは現在47歳。アイルランド人を両親にロンドンで生まれ育った。劇作家としてキャリアをスタートし、トニー賞にも数回ノミネートされている。ローレンス・オリヴィエ賞では「ウィー・トーマス」が最優秀コメディ賞、「ピローマン」が最優秀演劇作品賞、「ハングメン」が最優秀戯曲賞を受賞した。大した才人だ。
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コメント
ほんと、一筋縄ではいかない映画でしたね...
投稿: onscreen | 2018年2月 4日 (日) 10時24分
onscreenさん
本作は結局、最後まで真犯人が判明しません。そのことに対して「なんじゃこれ!」「消化不良」「中途半端」という意見もあるようですが、よくよく考えてみれば誰が娘を殺したかなんて、どうでもいいことなんですよね。作者の語りたいことの核は全く別のところにあります。
投稿: 雅哉 | 2018年2月 4日 (日) 11時46分