蒼井優×生瀬勝久「アンチゴーヌ」@ロームシアター京都
2月11日(日)ロームシアター京都へ。「アンチゴーヌ」を観劇。
故・オイディプス(エディプス)王の娘アンチゴーヌを蒼井優、彼女の叔父で婚約者の父親でもあるクレオン(現在は王位に就いた)を生瀬勝久が演じた。
フランスの劇作家ジャン・アヌイの「アンチゴーヌ」を宝塚からわざわざ京都まで遠征して観たいと決心させたのは同じ作家による「トロイ戦争は起こらない」がすこぶる面白かったからである。演出も同じ栗山民也だ。
「アンチゴーヌ」は古代ギリシャの三大悲劇詩人のひとりソフォクレスの戯曲を現代的に翻案したもの。1944年2月にパリのアトリエ座で初演された。当時フランスはナチス・ドイツの占領下にあった。ノルマンディー上陸作戦が44年6月6日、パリ解放が同年8月である。日本では劇団四季が浅利慶太演出で54年に上演した(初演は劇団「方舟」)。途中休憩なしで上演時間2時間10分。
「トロイ戦争は起こらない」ではナチスの軍服を着た人物が登場したが、「アンチゴーヌ」の衛兵はまるでパルチザンのような服装だった。また冒頭でヘリコプターの音が聞こえてきて、作品背景を表象(représentation)していた。
今回の特設ステージは細長い十字に組まれており、それを取り囲むように客席を設置。また対角線上の2隅に椅子が向かい合って置かれた。舞台の高さは60cmくらいかな。
僕が座ったのは上図Cブロック最前列。途中役者が客席側に降りてくる場面もあり、蒼井優がそれこそ手を伸ばせば届くくらいの位置に来たりもしてドキドキした。いやぁ、舞台演劇の醍醐味を堪能した!
僕は蒼井の映画デビュー作「リリィ・シュシュのすべて」(2001年、岩井俊二監督)から劇場で観ている。当時15歳くらいかな?しかしこの時は余り印象に残っておらず、《お、この娘可愛いな》と目を引いたのが映画「害虫」(2002年、塩田明彦監督)。宮崎あおい主演で、その同級生役だった。しかし当初は未だ清楚でおとなしい雰囲気だったので、後に彼女が【ビッチ(bitch)】だの【魔性の女】などと呼ばれるようになろうとは想像だに出来なかった。蒼井のアンチゴーヌは魂のこもった熱演で、これなら10年後くらいには「欲望という名の電車」のブランチも演れるんじゃないかと想った。
蒼井は今年、映画「彼女がその名を知らない鳥たち」でキ第91回ネマ旬報ベスト・テンの主演女優賞を受賞。2月12日の公演終了(15時10分頃)後に彼女は東京に駆け戻り、18時30分から文京シビックホールで開催された授賞式に参加したようだ(その記事はこちら)。いやはやハードスケジュールだね。
生瀬は兵庫県西宮市出身。同志社大学在学中に役者デビューし、その時の芸名は槍魔栗三助(やりまくりさんすけ)。初代「探偵!ナイトスクープ」のリポーターも務めた。1988年NHK朝ドラ「純ちゃんの応援歌」にレギュラー出演が決まり、「やりまくり」はマズイだろうと本名に改名した。なお生瀬は学生時代にゼミの指導教授から「君は俳優に向いてないよ」と言われたそうで、その教授は後に先見の明がなかったと反省したという。彼が演じるクレオンは当初穏やかで静かに話し、理知的であったが、アンチゴーヌに翻弄され次第に理性を失い、心が乱れ、叫び声を上げる。その振幅の大きさが鮮烈であった。
人間社会が存続するために必要な良識ある秩序。王となったクレオンはそれを守るために自分の感情を押し殺し、”良き”為政者/統治者であろうと努力する。それに対してアンチゴーヌは自らの感情の趣くままに"Non."と言い続ける。彼女は自己の実存を守ろうとし、社会(public)に対して徹底的な抵抗を挑む。それが彼女に与えられた「役割」なのである。因みにフランスの哲学者サルトルが講演の中で「実存は本質に先立つ」と述べたのは1945年。本作初演の1年後である。本質とは真理=イデア(理念)=神に置換可能であり、サルトルの発言はキリスト教全否定の企てでもあった。
また本作にはナチス・ドイツ支配下のパリで、生き延びるために彼らの言いなりになる(一時的に服従したふりをする)のか、死を賭してでも(自分に正直になって)「否」と言うべきなのかという難しい問いがある。貴方は明白に答えられますか?僕には判らない。正に究極の答えのない質問である。
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