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2018年1月10日 (水)

明日海りお主演 宝塚花組「ポーの一族」あるいは、吸血鬼に取り憑かれた男たち。

1月7日(日)宝塚大劇場へ。花組公演「ポーの一族」を観劇。

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主な配役は、エドガー:明日海りお、シーラ・ポーツネル男爵夫人:仙名彩世、アラン:柚香 光、メリーベル:華 優希ほか。  

萩尾望都「ポーの一族」の連載が始まったのは1972年。バンパネラ(吸血鬼)ものであり、【永遠の命】がテーマになっている。今回の観劇で強く感じたのは、これは萩尾版「火の鳥」なんじゃないかということ。手塚治虫「火の鳥」黎明編が発表されたのは1954年。萩尾は高校2年生のときに手塚の「新選組」に強く感銘を受け、本気で漫画家を志した。彼女が手塚漫画について語っている映像はこちら。「火の鳥」についても言及している。「ポーの一族」執筆に際し萩尾が直接影響を受けたのは石森章太郎「きりとばらとほしと」だが、後に手塚も「ドン・ドラキュラ」を書いた(大林宣彦監督がこの映画化を企画したが、実現しなかった)。

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また時を越えて生き続けるという設定はヴァージニア・ウルフの小説「オーランドー」に近いと言えるかも知れない。エドガーは男とも女とも明確な区別がつかない、中性的イメージだしね。そういう意味でも明日海りおにピッタリで、完璧なキャスティングであった。柚香 光のアランも文句なし。ふたりとも漫画から抜け出たような美しさ。

有名な吸血鬼小説といえばシェリダン・レ・ファニュ「吸血鬼カーミラ」(1872年刊行)とブラム・ストーカー「ドラキュラ」(1897年刊行)にとどめを刺す。 どちらもアイルランドの作家という事実が興味深い。映画ならムルナウ監督「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922年独、原作はストーカーのドラキュラ)が原点で、「カーミラ」の映画化としてはロジェ・ヴァディム監督「バラ」(1960)が名作中の名作と誉れ高い。そして日本でこの「バラ」に取り憑かれているのが映画作家・大林宣彦である。

そして和製ドラキュラ役者としては岸田森の右に出る者はいないだろう。「を吸う」3部作が有名だが、大林映画「金田一耕助の冒険」(1979)でもドラキュラを演じた。

宝塚の小池修一郎もまた、バンパネラものを繰り返し手掛けてきた。

バンパネラ(吸血鬼)はキリスト教へのアンチテーゼとして闇の中から生まれた。ドラキュラが十字架や太陽光を忌避するのはそのためである。それは悪魔崇拝と結び付いている。悪魔は神に叛逆した堕天使だ(ミルトンの小説「失楽園」)。永井豪「デビルマン」も悪魔とドラキュラ伝説の密接な関係性について触れている。キリスト教徒は(プロテスタント・聖公会・カトリック・正教会の全てを合わせても)日本人の約1%を占めるに過ぎない。だから我が国はバンパネラを受け入れやすい土壌と言えるのではないだろうか。

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小池が萩尾にミュージカル化を申し入れてから32年。それだけ待った甲斐があったというものだ。明日海りお=エドガーというまたとない逸材を手に入れ、演出家としても円熟の極みにある。今の小池なら音楽を「エリザベート」のリーヴァイや「ロミジュリ」のプレスギュルヴィック、「スカピン」のワイルドホーンらに依頼することも可能だったろう(ワイルドホーンは雪組「ひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜」を担当した)。しかし彼は敢えて歌劇団の座付作曲家で臨んだ。これも日本人スタッフだけでやれるという自信の現れだろう。

作曲・編曲:太田 健は「アデュー・マルセイユ」「太王四神記」「カサブランカ」「オーシャンズ11」「銀河英雄伝説」「るろうに剣心」等で小池と組んできたが、今までで最高の出来である。小池の執念が憑依したかのような奇跡の完成度。文句なし!「風と共に去りぬ」「ベルサイユのばら」などを担当した寺田瀧雄と比べると、作曲技法の進化に隔世の感がある。

海外ものなら「エリザベート」「ロミオとジュリエット」「ミー&マイガール」など名作が多数あるが、宝塚歌劇オリジナル作品としては「ポーの一族」が頂点を極めたと断言しよう(レビューの最高峰は「ノバ・ボサ・ノバ」と「パッサージュ」)。なんて耽美な世界なのだろう!

それにしても宝塚では男役と娘役トップが恋に落ちるというのが芝居の基本形だが、「ポーの一族」は異色である。エドガーはシーラ・ポーツネル男爵夫人に思慕の念を抱いているが、それはあくまで母親代わりだ。いわば「銀河鉄道999」における哲郎のメーテルに対する気持ちに近い。だから最終的に恋が成就するのはエドガー↔アランなのだ。これは萩尾の漫画「トーマの心臓」に繋がっているし、同性愛という意味で「バラ」的でもある。正に21世紀の宝塚に相応しい題材と言えるだろう。

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幕間にラウンジで公演メニュー「バラのムース」を食べた。 これが無茶苦茶美味しかった!またオリジナルカクテル「バラのエナジー」も○。もう一度観に行く予定だが、また注文してしまいそう。

宝塚歌劇「ポーの一族」は今後の展開として「ベルサイユのばら」みたいに【小鳥の巣】編、【春の夢】編などシリーズ化を熱望する(今回はさしずめ【メリーベルと銀のばら】編)。小池さん、いくらでも思う存分やってください。とことん付き合います。

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