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2017年12月22日 (金)

「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」あるいは、【神々の黄昏】

評価:A

まずはアメリカのRotten Tomatoes(腐ったトマト)での評価をご覧頂きたい。各種雑誌・新聞などに掲載されたプロの映画評論家によるレビューを横断的に解析し、まとめたウェブサイトである。映画ごとに肯定的なレビューが多いか否定的なレビューが多いかを集計してパーセント表示している。

Jedi

画面左【92%】が北米在住の評論家による肯定的評価の集計である。具体的には337のレビューを解析し、Fresh(新鮮)が310人、Rotten(腐った)が27人となっている。

ところが、画面右、一般観客15万人の肯定的評価は【52%】。40%の落差があるのだが、これは前代未聞の珍事である。つまり賛否両論真っ二つに割れているということ。そして往年のファンの間では否定的意見が大勢を占めている。因みにエピソード7「フォースの覚醒」はプロ:93%、一般:88%、エピソード1「ファントム・メナス」はプロ:55%、一般:59%であり、乖離はいずれも5%以内だった。

ライアン・ジョンソン監督は撮影当時43歳。若い。僕が彼を高く評価したいのは、今までのシリーズの約束事を全てぶっ壊した点だ。次にこういう展開になるだろうという観客の予断をことごとく裏切ってゆく。だからこそファンたちは「こんなのスター・ウォーズじゃない!」と激怒し、騒いでいるのだ。

「スター・ウォーズ エピソード4 新たなる希望」は1977年に北米で公開された(日本では78年)。今年が40周年である。当時の若者達は何故この作品に熱狂したのか?それはルーク・スカイウォーカーという辺境の農場でくすぶっている名もなき若者が、ある出来事を契機に外の世界に飛び出すチャンスを掴み、帝国軍と戦ってヒーローになるという英雄譚・血湧き肉躍る冒険活劇だったからである。観客は彼の姿に自分の夢を託したのだ。

ところが「エピソード5 帝国の逆襲」あたりから雲行きが怪しくなる。フォースの強いスカイウォーカー家という血族の物語になってゆくのだ。が全て。ジェダイの騎士とは中世ヨーロッパのテンプル騎士団みたいなもので、つまり貴族社会である。そしてスター・ウォーズは神話になった。神も血筋であり、人は神になれない

作曲家ジョン・ウィリアムズはこのシリーズに対してワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」を参考にして各キャラクターにライトモティーフ(示導動機)を与えた。「フォース(ルーク)のテーマ」「ミレニアム・ファルコン号のテーマ」「王女レイア」「ハン・ソロとレイア姫(帝国の逆襲)」「ルークとレイア(ジェダイの帰還)」「帝国軍のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)」「ヨーダのテーマ」「皇帝のテーマ」「イウォークのテーマ」「反乱軍のテーマ」「レイのテーマ」「カイロ・レンのテーマ」「スノークのテーマ」「ジェダイ・テンプル(寺院)のテーマ」といった具合だ(Theme = Motif)。

ニーベルングの指環」は北欧神話に基づく4部作であり、最後は「神々の黄昏」。神々の時代が終わりを告げ、やがて人類の夜明けが来るというところで締め括られる。トールキンの「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」も「ニーベルングの指環」の影響を強く受けた。またリドリー・スコット監督の「プロメテウス」「エイリアン:コヴェナント」もこの物語からヒントを得ている(劇中でアンドロイドのデイヴィッドは「ニーベルングの指環」序夜「ラインの黄金」から”ヴァルハラ城への神々の入場”をピアノで弾く)。また宮﨑駿「崖の上のポニョ」の人魚の名前がブリュンヒルデなのも第2作「ワルキューレ」から採られている。因みにマーヴェル・コミックスのマイティ・ソー(Thor)とは北欧神話における雷神トール(Thor)のことであり、「ニーベルングの指環」にはドンナーという名前で登場する(詳しくはこちら)。さらに言えばルキノ・ヴィスコンティ監督によるドイツ三部作の第1作「地獄に堕ちた勇者ども」の原題は「神々の黄昏 ( Götterdämmerung )」であり、第2作「ベニスに死す」を経て、第3作「ルートヴィヒ」でワーグナーが登場する。

「最後のジェダイ」でライアン・ジョンソンはジェダイの騎士の終焉を描く。正しく「神々の黄昏」である。そしてなんて関係ねーよ、名も無き若者たちでもフォースの力を得られるんだ!と新たなる希望(New Hope)を高らかに宣言する。それは明らかにエピソード4への原点回帰なのだ。全てをぶっ壊して、また一から始めようというわけ。実はこの動向は、名も無き者たちの貢献を描く「ローグ・ワン」から始まっていた。

これは神学が支配していた中世ヨーロッパで、文化を人間の手に取り戻そうというルネサンス(フランス語で「再生」「復活」という意味)運動に呼応する。

また映画史的に言えば、既成の映画撮影所(旧体制)から飛び出して、若者たちが手持ちカメラで街頭ロケを始めたイタリアン・リアリズム(ネオレアリズモ)、フランス・ヌーヴェルヴァーグ〈新しい波〉、アメリカン・ニューシネマに近いとも言えるだろう。そもそもエピソード4はアメリカン・ニューシネマへのアンチテーゼだった筈なのに、いつの間にか自分自身が体制派・守旧派に成り下がっていたのである。壊しては新しいものを作り、また壊しては作り直す。これが芸術文化の理(ことわり)である。そして新しいものは最初、激しい非難に晒される。これも世の常であろう。しかし、生成変化しないものには何の価値もないのである。

不満だったのはアジア系のローズだ。初代エピソード4で主要な役は全員白人だった。それではさすがにまずかろうとエピソード5で黒人ランド・カルジリアンが登場。ディズニー主導となったエピソード7では万事抜かりなく主役の3人に白人・黒人・ラテン系(オスカー・アイザックはグアテマラ出身)を配しバランスを取った。そしてエピソード8にアジア系。はっきり言う。Political Correctness(政治的・社会的に公平・中立。差別・偏見を含まないこと)なんか、どうでもええねん。白人だけで結構。それでもアジア系を出したいなら、せめてペ・ドゥナとかもっと可愛い女優にしてほしかった。ローズは不細工過ぎ!萎える。

  ー 以下ネタバレあり ー

「最後のジェダイ」のプロットは大筋で「帝国の逆襲」を踏襲している。4つの星が舞台になるのも同じだし、どちらも最初は基地撤退作戦だ。「最後のジェダイ」でレイがルークに特訓をしてくれるよう懇願するシーンは「帝国の逆襲」でヨーダのもと修行するルークに重なる。「帝国の逆襲」で一番重要なのは洞窟の場面であり、ルークはそこでベイダー(=自分の影)と対峙する。これが「最後のジェダイ」では鏡の間となる。間違いなくオーソン・ウェルズ監督「上海から来た女」の影響を受けているが、本作がユニークなのは時相のズレである。それは連続写真のようでもあり、フィルムのコマを眺めているようでもある。こうして新しい時間イメージが生まれた。

ジョン・ウィリアムズの音楽は「フォースの覚醒」で♪王女レイアのテーマ♪♪ハン・ソロとレイア姫♪を組み合わせていたが、「最後のジェダイ」では♪王女レイアのテーマ♪がメインで流れる。そしてルークと再会する場面では♪ルークとレイア♪が!本作はキャリー・フィッシャーへのレクイエムという側面もある。極めつけはエンド・クレジット。

In Memory of Our Princess:CARRIE FISHER

と表示され、そこに再びドドーンと♪王女レイアのテーマ♪が高鳴るのだ!

しかし最後にレイアは死ぬだろうと予想していたのに彼女は生き残り、ルークが逝ってしまったのには驚かされた。一体、エピソード9ではどうするの!?

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コメント

私は今作=グダグダ派です。

えっ、ハンソロの新シリーズ?
もう勘弁して!

投稿: onscreen | 2017年12月24日 (日) 07時36分

onscreenさま、コメントありがとうございます。

気に入らなかったら、今後はシリーズを一切観なければいい。それだけです。

コッポラの「ゴッドファーザー」について。PART 1-2は後世に残る傑作ですが、PART 3は救いようのない駄作です。降板したウィノナ・ライダーの代演をしたソフィア・コッポラなんか死ねばいい。だから僕はPART 3の存在を忘れることにしました。シリーズはPART 2で完結したのです。大林宣彦監督「はるか、ノスタルジィ」に出てくる名台詞を貴方に贈ります。

 綾瀬「はるか、人間が持っているもっとも優れた才能はなんだと思う?」
 はるか「物を創り出すことではないのですか?」
 綾瀬「いいや…物を創り出すことでは人間は到底神様には敵わないよ。人間のもっとも優れた才能…それは゛忘れる゛ということだ。人間に゛忘れる゛という才能を与えてくださった神様は、本当に優しい方だと僕は思うよ。もしも人間に忘れるという能力が無かったら…人生なんて地獄だよ」

これは宮﨑駿「風立ちぬ」に登場する謎のドイツ人カストルプの台詞に呼応します。

 カストルプ「(ここ軽井沢は)忘れるにいい所です。チャイナと戦争してる、忘れる。満州国作った、忘れる。国際連盟抜けた、忘れる。世界を敵にする、忘れる」

投稿: 雅哉 | 2017年12月24日 (日) 09時11分

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