朝夏まなと主演/宝塚宙組「神々の土地 〜ロマノフたちの黄昏〜」「クラシカル ビジュー」
9月2日(土)宝塚大劇場へ。
「神々の土地 〜ロマノフたちの黄昏〜」の作・演出は上田久美子。
主人公のドミトリー大公(朝夏まなと)は実在の人物でロシア最後の皇帝ニコライ2世の従弟。ラスプーチン暗殺後、皇后の怒りを買い、ペルシャ戦線に派遣されたというのも史実。この処置のお陰で、却って命拾いしたのだから数奇な運命だ。
伶美うららが演じた大公妃イリナは創作だが、皇后アレクサンドラの姉エリザヴェータ・フョードロヴナ(エラ)がモデルになっている。ドミトリーとの年齢差は27歳あるのでそれでは恋愛の対象にならないから調整したのだろう(皇后の妹に変更されている)。夫が暗殺された後、エラは修道院を創立し奉仕活動に没頭するが、イリナは戦争が始まると従軍看護婦として戦地に赴く。この改変は恐らく「ドクトル・ジバゴ」のヒロイン・ラーラを参考にしたに違いない。上手い脚色である。また年上の未亡人に対する叶わない恋慕は「翼ある人びと ーブラームスとクララ・シューマン」の延長上にあるテーマである。キャストも朝夏&伶美のコンビで共通しているしね。
- アメイジング!!~宝塚宙組「翼ある人びと ーブラームスとクララ・シューマンー」 2014.02.10
- 女性劇作家/演出家のフロントランナー、彗星のごとく現る!
〜早霧せいな主演 宝塚雪組「星逢一夜」2015.08.17 - 明日海りお主演 宝塚花組「金色の砂漠」「雪華抄」 2016.11.29
美貌に恵まれた伶美は結局、トップ娘役になれずに気の毒だったが、まぁ、あの歌唱力では仕方がない。しかし最後にいい役を貰った。「神々の土地」では一切歌う場面がなく、ウエクミの優しい配慮だろう。伶美は池田泉州銀行のイメージガールを務めたが、ここ最近は月影瞳→陽月華→野々すみ花と3代連続でトップ娘役に就任しているので、久しぶりのハズレとなった。
ドミトリーの旧友フェリックス・ユスポフを演じるのは真風涼帆。格好いいが、レヴューのダンスを観ると、些か身体(からだ)が硬んじゃないか?と想った(朝夏のダンスが上手いだけに、一層目立った)。
次期トップ娘役が決まっている星風まどかは皇女オリガを演じたが、余り存在感がなかった。何かね、地味で華がないんだ。レヴューでは初エトワールを務めたが、歌唱力はまあまあかな。
ウエクミは女性の劇作家・演出家として、日本でNo.1だと確信している。「翼ある人びと」と「星逢一夜」(読売演劇大賞 優秀演出家賞受賞)の完成度の高さは凄まじかった。唖然とした。しかし「金色の砂漠」は頂けなかった。完全な失敗作。「ウエクミ、大丈夫か!?」と心配したのだが、今回は見事に復調した。冒頭が嵐の場面で始まるのもいいし、特に感心したのはロマ(ジプシー)がたむろする居酒屋。ロシア貴族たちをテーブルの上に乗せ、その周囲をロマたちがグルグルと周る。やがて革命へと繋がる民衆の途轍もないパワー・怒り・不満がそこに満ち溢れ、渦巻いていた。また最後の最後に登場人物全員を舞台に上げ、彼・彼女らが走馬灯のように過ぎ去っていく情景もなんだか哀感があって、グッと来た。パーフェクト!
あと舞踏会の場面ではチャイコフスキー「くるみ割り人形」の花のワルツや「白鳥の湖」のワルツが使用され、その選曲もニクいね。
さて休憩を挟み、宝石をモチーフにしたレヴューロマン「クラシカル ビジュー」の作・演出は稲葉太地。華やかでセンスがあるなと想った。特にリムスキー=コルサコフの「シェヘラザード」をアレンジした場面や、ホルストの組曲「惑星」のメドレーがシンフォニックなサウンドで矢継ぎ早に出て来る場面(ここでは生演奏が中断され、大編成オーケストラによる録音が使用される)は鮮烈だった。銀河……そして二十億光年の孤独。
お芝居も○、ショーも○。宝塚でこういう組み合わせは滅多にないことなので、是非ご覧になることをお勧めしたい。ゆめゆめ見逃すな!
それから最後に歌劇団に切実なお願いがあります。ウエクミの演出家デビュー作、月組バウホール公演「月雲の皇子」のDVDを是非是非発売してください。後生ですから。
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コメント
雅哉様
こんにちは
「神々の土地」の観劇記ありがとうございましたm(__)m
朝香まなとさんのサヨナラ公演、凄く行きたかったのですが時間が取れず、諦めてしまったので嬉しかったです♪
やはり良い作品のようですね
真風涼帆さんは、研2の太王四神記からずっと見てるのですが、歌もダンスもうーん頑張れ〜って思ってます(笑)
びっくりするくらい上手になりましたが…(メイちゃんの執事の忍は酷かった)
伶美&星風のダブルトップで、2人を上手く使い分けたらいいのに…と思ってましたが、なかなかそうはいかないですね
そうそう、この作品、桐蔭生が芸術鑑賞会で観たようです
投稿: *pino* | 2017年9月 9日 (土) 18時34分
*pino*さま、コメントありがとうございます。
桐蔭生とは吹奏楽部ということでなのでしょうか。ならば梅田先生もご覧になったのかな?確か明日海りお主演の「エリザベート」も鑑賞している筈なので、8月下旬〜9月の公演を毎年鑑賞する決まりなのかも知れませんね。
これは傑作なので是非DVD & Blu-rayで御覧くださいね!でも僕のイチオシは「翼ある人びと」ですが。
あとこれで宝塚の魅力に開眼した桐蔭生には是非1月公演「ポーの一族」を観て貰いたい。あ、ただ定期演奏会の直前だから無理かもね。で、定演は「ラ・ラ・ランド」の超絶パフォーマンスを期待してますよ!
投稿: 雅哉 | 2017年9月 9日 (土) 20時37分
雅哉様
桐蔭の芸術鑑賞会はその時の貸切の座席数で、学年や類生で違う作品になることも有るので、今回吹奏楽部が観たかは未確認です
大体宝塚は毎年行っているようですが、娘は
1年の花組「愛と革命の詩ーアンドレア・シェニエ」
2年の花組「エリザベート」の2回です
3年は京都南座で「あらしのよるに」を観ました
2年時は特別にシルク・ドゥ・ソレイユの「オーヴォ」も観せて頂きました
3年時は大多数が「レ・ミゼラブル」を観たように覚えています
ラ・ラ・ランド、噂ではコンクールでやりたくて楽譜を探したけど無かったとか…(あくまで噂です)
定演で出来たら素晴らしいパフォーマンスになるでしょうね
投稿: *pino* | 2017年9月11日 (月) 15時45分
*pino*さま、再びコメントありがとうございます。
そうでしたか。毎年宝塚観劇というわけではないのですね。しかし高校生で「エリザベート」とか「レ・ミゼラブル」を観られるなんて羨ましいです。来年の夏は京都劇場で間もなく開幕する「オペラ座の怪人」かな?僕のイチオシは《ミュージカル界のプリンス》山崎育三郎主演により帝劇で再演される「モーツァルト!」なのですが、まだ大阪公演の発表はありません。
桐蔭は「ラ・ラ・ランド」"Another Day of Sun"をいち早く甲子園で演奏し、夏の話題を独り占めにしたので「これはコンクール自由曲も来るか!?」と期待したのですが、残念でした。まぁ今年選ばれたガーシュウィン「巴里のアメリカ人」も「ラ・ラ・ランド」に強く影響を与えたミュージカル映画なのですが。
全くの余談なのですが「巴里のアメリカ人」の監督はヴィンセント・ミネリ。彼とジュディ・ガーランドの間に生まれたのがライザ・ミネリです。20世紀フランスを代表する哲学者ジル・ドゥルーズはミネリのことを手放しで絶賛しています。つい先日、ミネリが監督した映画「ボヴァリー夫人」を観て、予想を遥かに上回る傑作だったので茫然自失になりました。特に舞踏会のシーンは桁外れの演出力でした。
投稿: 雅哉 | 2017年9月11日 (月) 19時42分