円熟の極み。〜五嶋みどり@ザ・シンフォニーホール
9月22日(金)ザ・シンフォニーホールへ。
当ホールでは10年ぶりとなる五嶋みどりのリサイタルを聴いた。ピアノはリトアニア出身のイェヴァ・ヨコバヴィチューテ。
- ヒンデミット:ヴァイオリン・ソナタ ハ調
- ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番
- シューベルト:ヴァイオリン・ソナチネ 第3番
- エネスク:ヴァイオリン・ソナタ 第3番
「ルーマニアの民族様式で」 - ブラームス(ヨアヒム編):ハンガリー舞曲 第1番
(アンコール) - クライスラー:シンコペーション(アンコール)
リトアニアはバルト海に面し、ルーマニアは黒海に接している。
ヒンデミットはドイツの作曲家。ソナタは1939年に作曲された。ヴィブラートを抑制した表現で、特に終楽章のフーガは無機質で虚無感が漂う。ニーチェの言葉「おまえが長く深淵を覗くなら、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ」(善悪の彼岸)を想い出した。ナチスが政権を握ったのが33年、翌34年に「ヒンデミット事件」が起こる。前衛的な彼の作品はナチスから「退廃音楽」の烙印を押され、弾圧された。そして38年にヒンデミットはスイスに亡命する。
ブラームスはノン・ヴィブラートで開始され、淡い色彩でクララ・シューマンへのあこがれを描く。禁欲的ではあるが、それでも溢れ出す感情がある。終楽章は渋く、滋味に富む演奏。
シューベルトは他愛のない楽曲だが軽やかでチャーミング。
ルーマニア生まれのエネスクはエキゾチックで妖しく艶っぽい。でも決して下品にならない。表情に抑制が効いている。ヴァイオリンがフラジオレット(ハーモニクス)を駆使し、パンフルート(竹笛)のような音色を奏でる第2楽章は繊細。第3楽章は舞踏音楽で呪術的で魔法にかけられたよう。また特にこの曲ではピアノが水を得た魚のように跳ね回り、極めて共感性が高い演奏だった。
エネスク同様ロマ(ジプシー)音楽の影響が色濃いアンコールのハンガリアン・ダンスは静謐で哀感が漂い、ひたひたと胸に迫る。この曲のイメージが一新された。
19世紀のブラームスとシューベルトを20世紀の作曲家でサンドイッチにするというプログラム構成といい、文句なし。パーフェクトな内容だった。次回は彼女の演奏でショスタコーヴィチのソナタを聴いてみたい。
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