エル ELLE
評価:A
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オランダ出身の映画監督ポール・バーホーベン(現在79歳)の映画を初めて観たのはテレビで放送された「ロボコップ」(1987)だった。「トータル・リコール」(90)以降は全て映画館で観ている。「ショーガール」(95)も「スターシップ・トゥルーパーズ」(97)にも足を運んだ。
バーホーベンは豪快な男だ。「ショーガール」がゴールデン・ラズベリー(ラジー)賞で最悪作品賞・最悪監督賞・最悪主演女優賞・最悪新人俳優賞・最悪脚本賞・最悪主題歌賞の6部門制覇した時には受賞会場に意気揚々と現れて、トロフィーを掻っ攫っていった。不名誉なこの祭典に、受賞者が登壇したのは史上初であつた。その後も本作は1990年代最悪作品賞も受賞している。
バーホーベン映画の特徴は偽悪的なこと。ワルぶっているのだ。ニーチェの概念で表するなら芸術性の高い「アポロン的」ではなく、衝動に突き動かされ荒々しい「デュオニュソス的」であると言える。
- 【アフォリズムを創造する】その6「芸術について」(2017.09.01)
バーホーベンは善悪の彼岸にいる。
彼の初期作品及びオランダに帰って撮った「ブラックブック」(2006)はオランダ語(ドイツ語も飛び交う)、ハリウッド時代は当然英語。そして最新作「エル ELLE」のダイアログはフランス語である。イザベル・ユペールは本作で初めて米アカデミー主演女優賞にノミネートされ、セザール賞では主演女優賞を受賞した。
相変わらずパワフルで強烈な映画である。悪趣味だけど嫌いじゃない。映画が始まって10分ほどして、「これって『氷の微笑』路線?」と感じたが、ユペールが双眼鏡で隣の男を見ながら自慰行為に及ぶ場面に至り(撮影当時彼女は62歳!)、それは確信に変わった。シャロン・ストーンがスターになれたのは、「氷の微笑」のあの場面があったからこそだろう。主人公が経営するゲーム会社で開発しているゲームも女性がモンスターにレイプされるという内容で、凄まじい。
隣人の妻は敬虔なカトリック信者なのだが、キリスト教に対する辛辣な批判も感じられた。バーホーベンは1938年生まれで、幼少期をナチス占領下のハーグで過ごした(オランダがドイツに破れたのは40年)。味方であるはずの連合国は度重なる空爆で町を破壊。道端のあちこちに死体が転がっていたという。敵も味方もあるものか!正義と悪の境目も判らない、神も信じられない男として彼は大人になったのであろう。
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