【アフォリズムを創造する】その3「超人」とは何か?そして「永劫回帰」とは?
存在の不安から、また生きる意味を見出したくて人間は神や天国という超越的な価値、理想郷をでっち上げた。しかし神は死んだ。フリードリヒ・ニーチェが「ツァラトゥストラはかく語りき」で論じた超人とは「この世に神様が存在しないんだったら、人間がその代わりを務めればいいんじゃね?」という発想に集約される。
「ツァラトゥストラはかく語りき」の中でニーチェは精神(=生)の3つの変化について説く。それはラクダ→ライオン→子どもである。ラクダは原罪など重い荷物を背負わされ、神や司祭から自己犠牲・禁欲を強要される存在である(荷車を引くロバにも喩えられる)。ラクダは精神の砂漠へ急ぐ。そして2番目の変化が起きる。彼は自由を獲物だと思い、砂漠の中で主人になろうとする。それがライオンだ。「汝なすべし」と義務を課す大きな龍(=神)がライオンの行く手を阻む。しかしライオンは「われ欲す」と答える。ここで最後のメタモルフォーゼ(変身)が起こる。ライオンは子どもになるのだ。子どもは無邪気だ。忘れる、新しくはじめる。遊ぶ。自分の意志で動き、神のように肯定する。
超人の秘密を知りたかったら映画「2001年宇宙の旅」(スタンリー・キューブリック監督)を観よ。あるいはアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」(新房昭之)や「攻殻機動隊」(押井守)でもいいだろう。
「2001年宇宙の旅」の最後に木星探査船ディスカバリー号のボーマン船長はスターチャイルドへと進化を遂げる。このスターチャイルドこそ、ニーチェの言う子ども=超人だ。だから映画の冒頭と最後にR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」が高鳴るのである。この時地球の向こう側から太陽が登って来るのだが、太陽とはツァラトゥストラの象徴である。ツァラトゥストラはゾロアスター(モーツァルトのオペラ「魔笛」に登場するザラストロも同じ)のドイツ語読み。ゾロアスター教の最高神アフラ・マズダーは太陽神であった。
「魔法少女まどか☆マギカ」の最後に鹿目まどかは「アルティメットまどか」に変身する。この「アルティメットまどか」も超人である。そして「アルティメットまどか」は全ての魔法少女たちを円環の理(えんかんのことわり)へ導く。円環の理とは何を隠そう、「ツァラトゥストラはかく語りき」で言及される永劫回帰(えいごうかいき)のことである。
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また「マトリックス」にも多大な影響を与えた「攻殻機動隊」の最後に、主人公・草薙素子はネットの海に溶け込み同化する。これは彼女が神(超人)になったことを意味している。「2001年宇宙の旅」で人類に進化を促すモノリス(石版)を創った宇宙人は映画終盤にベッドルームで笑い声を発するが、姿は見えない。つまり彼らも草薙素子同様に肉体(「攻殻機動隊」における義体)を失い、魂が海(宇宙)に漂っている存在であると推定される。
また原作:大場つぐみ、作画:小畑健による少年漫画「DEATH NOTE デスノート」もまた、神になろうとした男の物語である。しかしその野望は死神リューク(ゲーテ「ファウスト」に登場するメフィストフェレスの役回り)の気まぐれで打ち砕かれる。金子修介監督による映画版も、舞台ミュージカル版も完成度が高い(Netflix版には絶対手を出さないように!!)。
永劫回帰とは超人的な意思により、ある瞬間とまったく同じ瞬間を次々に、永劫的に繰り返すことである。
永劫回帰はウロボロスのイメージで表せる。己の尾を噛んで環となったヘビもしくは竜を図案化したもの。あるいは禅宗における書画「円相」にも喩えられるだろう。始まりもなく終わりもない。音楽で言えば(短い音型やリズム・パターンを反復する)ミニマル・ミュージックがこれに該当する。
上図左がウロボロス、右が円相である。
永劫回帰のことをもっとよく知るためには、押井守監督の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」も参考になるだろう。「ビューティフル・ドリーマー」で意思する者はラムであり、「まどマギ」では「アルティメットまどか」。そして神になったまどかを取り戻すために悪魔になることを決意する暁美ほむらもそう。この神と悪魔の対決は、ミルトンの小説「失楽園」に基いている。さらに永劫回帰=「ループもの」映画の代表として、他にビル・マーレイ主演「恋はデジャ・ブ Groundhog Day」(1993)を推薦しておこう。小説ならケン・グリムウッドの「リプレイ」や北村薫の「ターン」ね。
20世紀フランスを代表する哲学者ジル・ドゥルーズ(1925-95)はその著書「シネマ1 運動イメージ」「シネマ2 時間イメージ」で映画を素材に哲学を語った。現代において哲学を体感し、思考する力を育むには、優れた映画やアニメーションを沢山観ることが格好の教材となるだろう。
特にお勧めしたい作品は上述した6作品に加え、「仮面/ペルソナ」、「未知との遭遇」、「ブレードランナー」、「いまを生きる」、「インセプション」、「風立ちぬ」、「君の名は。」、そしてドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「メッセージ (Arrival)」などが挙げられる。
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