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2017年8月30日 (水)

【アフォリズムを創造する】その4「立川談志とニーチェ」

ニーチェの著書「ツァラトゥストラはかく語りき」で初めて語られた【力への意志】とは弱い(仕える)者が強い者(主人)になりたいという意志のことである。永遠の善悪など存在しない。善悪は、自分で自分を繰り返し克服していくしかない。権力者(神/社会)が定めた道徳、善悪の基準に縛られて、自分の欲求・願いを我慢するのは愚かなことだ。自分自身で善悪を創造せよ。そのためにはまず既存の価値観を破壊しなければならない。

【力への意志】Wille zur machtという言葉はナチス・ドイツにより曲解され、悪用された。レニ・リーフェンシュタール監督が国家社会主義ドイツ労働者党の第6回全国党大会の様子を撮った余りにも有名な記録映画「意志の勝利」Triumph des Willensのタイトルも明らかに【力への意志】を意識したものだ。ツァラトゥストラは語る「俺が待っているのは、もっと高い者、もっと強い者、もっと勝利を確信した者、もっと快活な者だ」(丘沢静也訳「ツァラトゥストラ」光文社古典新訳文庫より)。「わが闘争」を読めば判るがヒトラーは自分こそが超人だと考えていた。しかしその実態はゲルマン民族至上主義の差別者であり、戦争を引き起こし国民に犠牲を強いる単なる独裁者でしかなかった。

ナチの思想はニーチェの考えとかけ離れているが、その哲学の危うい(誤解されやすい)側面を示していることも否定出来ない。

落語とは「人間の業」を肯定する芸能だと噺家・立川談志は語った。その思想はニーチェが説く【力への意志】とほぼ同じことを言っている。落語を聴き、朗らかに笑え。それが超人への第一歩となる。笑うライオンになれ!

立川談志の著書に「現代落語論」がある。そしてその続編「あなたも落語家になれる」に、かの有名な一節が登場する。

 落語というものを、みなさんはどう解釈しているのか……、おそらく落語家を"笑わせ屋"とお思いになってるでしょう。(中略)
 でも、私の惚れている落語は、決して「笑わせ屋」だけではないのです。お客様を笑わせるというのは手段であって、目的は別にあるのです。なかには笑わせることが目的だと思っている落語家もいますが、私にとって落語とは、「人間の業」を肯定してるということにあります。「人間の業」の肯定とは、非常に抽象的な言い方ですが、具体的に言いますと、人間、本当に眠くなると、"寝ちまうものなんだ"といってるのです。分別のある大の大人が若い娘に惚れ、メロメロになることもよくあるし、飲んではいけないと解っていながら酒を飲み、"これだけはしてはいけない"ということをやってしまうものが、人間なのであります。
 こういうことを八っつぁん、熊さん、横丁の隠居さんに語らせているのが落語なのであります。

「人間の業」の肯定とは自分自身の欲望に素直になり、それを無理矢理抑えつけるなということである。つまり【力への意志】だ。

「ツァラトゥストラはかく語りき」でニーチェはイエス・キリストが笑わないことを非難する。よく笑い、踊り、鳥のように軽やかに飛べ!がニーチェの主張だ。

ニーチェは「神は死んだ」と言い、キリスト教を徹底批判した。彼の両親は共にプロテスタントの牧師の家系であった。フロイトに師事して精神分析家となり、後に考え方の違いから袂を分かつたユングもプロテスタント牧師の家に生まれた。さらに「神の沈黙」三部作と呼ばれる映画を撮ったスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンの父もまた、牧師だった。彼らがその思想を深化させた根源には父親に対する承認欲求反発があり、それが拗(こじ)れ、暴走したものと考えられる。

ウディ・アレンも私淑するベルイマンの映画「仮面/ペルソナ」はユング心理学に基づいており、また映画冒頭にキリストのメタファーであるタランチュラが登場するが、これはニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」から拝借したアイディアである(第2部「タランチュラについて」)。

息子の父親に対する承認欲求がいかに強いかは、ジェームズ・ディーン主演、エリア・カザン監督の映画「エデンの東」が見事に描いている。

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