「超絶のコンチェルト -めくるめく競演-」いずみシンフォニエッタ大阪 定期
7月15日(土)いずみホールへ。
ロビー・コンサートを経て下野竜也/いずみシンフォニエッタ大阪で、
- 尹 伊桑(イサン・ユン):クラリネット協奏曲
独奏 上田希 - 松本直祐樹:トロンボーン協奏曲 (初演)
独奏 呉信一 - ジョン・ウィリアムズ:オーボエ協奏曲
独奏 古部賢一 - HK・グルーバー:フランケンシュタイン!!【室内合奏版】
シャンソニエ(バリトン) 宮本益光
尹 伊桑(1917-95)は日本統治下の朝鮮生まれ。父に音楽家になることを反対されたため、17歳の時に大阪市にある商業学校に入学した。その後、大阪音楽大学で作曲や音楽理論を学び、さらに東京で池内友次郎に対位法や作曲を師事した。帰国後、独立運動に身を投じ1944年には2ヶ月間投獄された。終戦後は北朝鮮に近づき、1967年に西ベルリンでKCIA(大韓民国中央情報部)により拉致されソウルに送還、スパイ容疑で死刑を宣告された。69年に大統領特赦で釈放されるも、韓国国内で尹の音楽は演奏を禁止された。苛烈な生涯である。彼のクラリネット協奏曲は重苦しい抑圧に対する叫びが込められていて、力強く不屈の闘志が感じられる。クラリネットの音だけではなく、奏者の声も活用される。個(ソロ)と社会(オーケストラ)の峻厳な対峙があり、苦悶や恐怖が描かれるが、やがてそれが限界突破し、笑いに転じる。不謹慎ではあるが僕は「面白い!」と気に入った。
松本直祐樹の曲で僕が連想したのは映画「砂の器」で哀しいお遍路の旅をする父子の姿であり、あるいは寺山修司が描く恐山の荒涼とした風景(例えば「田園に死す」)と、どこからともなく聞こえてくる鈴の音であった。
ジョン・ウィリアムズの協奏曲はオケが弦楽合奏のみ。第1楽章プレリュードはコープランドの楽曲やジョンが手掛けた映画「華麗なる週末(The Reivers)」を彷彿とさせ、第2楽章パストラーレはまるでトルーマン・カポーティの小説「草の竪琴(The Grass Harp)」を描写したみたい。あるいはジョンの楽曲で言えばスピルバーグの劇映画デビュー作「続・激突!カージャック(The Sugarland Express)」に近いかも。そして第3楽章「コメディア」は明らかに「E.T.」のハロウィンの場面や自転車での逃亡劇に繋がっている。穏やかで、どこか懐かしい、新世界の夢。いいねぇ。
「フランケンシュタイン!!」は歌付きの愉快な曲。ドラキュラ、フランケンシュタイン、スーパーマン、バットマン、狼男、ジョン・ウェインなどが飛び出す支離滅裂な言葉遊び。ティム・バートンの「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」とか、ピクサーの「トイ・ストーリー」を想い出した。あと挽肉パイが出てくるところは「スウィーニー・トッド」ね。グルーバーはオーストリアの作曲家だがアメリカ音楽のようでもあり、ラヴェルのオペラ「子供と魔法」のようでもあった。各奏者は10種類以上、30を超えるおもちゃ楽器を持ち替え、シャンソン歌手に対しては「鬱陶しいくらい」指示が楽譜に書き込まれているという。
ところでクリスマス・キャロル「きよしこの夜」はオーストリアで生まれた歌で作曲は小学校教師/教会オルガン奏者のフランツ・クサーヴァー・グルーバーなのだが、「フランケンシュタイン!!」の作曲家はもしかしてその子孫??
| 固定リンク | 0
「クラシックの悦楽」カテゴリの記事
- 映画「マエストロ:その音楽と愛と」のディープな世界にようこそ!(劇中に演奏されるマーラー「復活」日本語訳付き)(2024.01.17)
- キリル・ペトレンコ/ベルリン・フィル in 姫路(2023.11.22)
- 原田慶太楼(指揮)/関西フィル:ファジル・サイ「ハーレムの千一夜」と吉松隆の交響曲第3番(2023.07.12)
- 藤岡幸夫(指揮)ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第5番 再び(2023.07.07)
- 山田和樹(指揮)ガラ・コンサート「神戸から未来へ」@神戸文化ホール〜何と演奏中に携帯電話が鳴るハプニング!(2023.06.16)
コメント