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2017年7月 6日 (木)

井上芳雄 主演/ミュージカル「グレート・ギャツビー」

7月4日、梅田芸術劇場へ。台本・演出:小池修一郎、井上芳雄主演のミュージカル「グレート・ギャツビー」を観劇。他に出演者は夢咲ねね、田代万里生、広瀬友祐、畠中 洋、蒼乃夕妃、AKANE LIV ら。

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小池修一郎には2つのライフワークがある。ひとつは言うまでもなく萩尾望都の漫画「ポーの一族」である。

もうひとつがF・スコット・フィッツジェラルドの書いた小説「グレート・ギャツビー」だ。今から26年前の1991年に杜けあき、鮎ゆうき主演で宝塚雪組が「華麗なるギャツビー」を上演した。世界初のミュージカル化であり、これで高い評価を得た小池は菊田一夫演劇賞を受賞。2008年には瀬奈じゅん主演で月組が再演している。今回は台本・演出・音楽のすべてを完全リニューアルした公演となった。

僕が原作小説とどう関わってきたかは下記事に詳しく述べた。

最初はさっぱり面白くなかったのだが、小説を繰り返し読み、また村上春樹のエッセイなどを踏まえて漸く分かってきたことは、主人公ジェイ・ギャツビーは薄っぺら見栄っ張りということである。そして彼は絶対に手が届かないもの……デイジー、教養(culture/education)、社会的地位・身分(status)、世間からの賞賛・敬意(applause/respect)といったもの……に憧れ続けている。それを象徴するのがウエスト・エッグに自分が建てた豪邸の桟橋から対岸(イースト・エッグ)にある「緑色の灯火」を宵の口から明け方までじっと見つめている場面である。そして最も美しい文章、この小説の肝(きも)は最後のセンテンスに集約されている。

Gatsby believed in the green light, the orgastic future that year by year recedes before us. It eluded us then, but that’s no matter ― tomorrow we will run faster, stretch out our arms farther. . . . And one fine morning ――

So we beat on, boats against the current, borne back ceaselessly into the past.

 ギャツビーは緑の灯火を信じていた。年を追うごとに我々の前からどんどん遠のいていく、陶酔に満ちた未来を。それはあのとき我々の手からすり抜けていった。でもまだ大丈夫。明日はもっと速く走ろう。両腕をもっと先まで差し出そう。……そうすればある晴れた朝に――
 だからこそ我々は、前へ前へと進み続けるのだ。流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へと押し戻されながらも。(村上春樹訳)

何とも切なく、虚しい。狂騒のJazz Age、「失われた世代(Lost Generation)」の真骨頂である。しかしこれをミュージカルの中で活かすことが叶わない(歌にならない)のが辛いところだ。バズ・ラーマン監督はよく分かっていて、ちゃんと映画の中に入れていた。

ヒロイン・デイジーの人物像を把握するのにも長い時間を要した。彼女は周囲の意向に流される女である。しっかりした自分の意志というものを持っていない。若い頃には母親の言うことに逆らえず、現在は高圧的で浮気性の夫トム・ブキャナンの言いなりだ。依存心が強く、誰かの庇護のもとでしか生きられない。身体の中に一本通った芯=骨が欠落したクラゲのような女なのだ。ただ波間に漂っているだけ。掴もうとすると、指の間隙からスルリと抜け出してしまう。宝塚版&東宝版を観て感じたのは、小池はそのところが分かっていないんじゃないか?ということである。夢咲ねねは宝塚時代から大好きな娘役だが、どうも彼女のデイジーは健康的でしっかりしていそうなのだ。僕の抱くイメージとかけ離れている。以前、小池が演出したミュージカル「キャバレー」にも同様の違和感を覚えた。サリー・ボウルズ(藤原紀香)が自堕落じゃない。作品の持つ退廃・デカダンスが描けていない。嘗てジュリー・アンドリュースのファンクラブ会長を努めていたこともある小池の精神は余りにも健全で(清く正しく)、デイジーという女の何たるかを掴めていないように僕には想われる。その点、バズ・ラーマン版の映画に出演したキャリー・マリガンはデイジーそのものだった。

ただヒロイン像以外については申し分のない出来であった。井上芳雄は"That's Gatsby !"だったし、ギャツビーが自宅のプールサイドで撃ち殺される場面を冒頭に持ってきた工夫は良かった。ロイド=ウェバーが舞台ミュージカル化したビリー・ワイルダー監督「サンセット大通り」との類似性が浮き彫りにされた。

また特筆すべきは作曲家のリチャード・オベラッカーである。"BANDSTAND"というミュージカルで2017年3月にブロードウェイ・デビューを果たした。スウィング・ジャズあり、ブルース、チャールストン、タンゴなど多彩な音楽に彩られている。しっとりと歌われる「夜明けの約束」も美しい。なお、歌の中に「アイス・キャッスル」という言葉が出てくるが、これはフィッツジェラルドの短編小説「氷の宮殿(Ice Palace)」を意識しているのだろう。

不満も述べたが、総体としては満足度が高く、再演があれば是非また観たい作品である。

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