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2017年7月15日 (土)

バーンスタイン「ミサ曲」と「ジーザス・クライスト・スーパースター」

7月14日(金)フェスティバルホールへ。レナード・バーンスタインのミサを聴く。

Mass

総監督/指揮/演出:井上道義(ミッキー)、ミュージック・パートナー:佐渡 裕、大阪フィルハーモニー交響楽団&合唱団(合唱指揮:福島章恭)、公募による児童合唱、歌手18人、ロックバンド、ダンサーら総勢200人が出演、それに舞台美術も加わる劇場用作品である。1970年に作曲が開始され、翌71年にジョン・F・ケネディ・センター@ワシントンのこけら落とし公演として初演された。ミッキーは1994年に京都市交響楽団を率いてオーチャードホールでこの作品を上演。日本での再演は実に23年ぶりとなる。

一目瞭然なのはアンドリュー・ロイド・ウェバーのロック・ミュージカルジーザス・クライスト・スーパースター」からの影響である。題材も編成も類似している。「ジーザス」のブロードウェイ初演は71年。しかし69年に楽曲"Superstar"がシングルで発売、70年には"Jesus Christ Superstar"と題した2枚組LPレコードがリリースされている(当時ロイド・ウェバー22歳)。間違いなくレニーはこれを聴いている筈。またこの頃の音楽の潮流にも深く関わりがある。それはロックとオーケストラを融合したプログレッシブ・ロックだ。その代表格ピンク・フロイドがアルバム「原子心母」を発表したのは1970年。23分に渡るロック・シンフォニーが展開される。またロックバンド「イエス」も同年に発表した2ndアルバム「時間と言葉」でオーケストラと共演しシンフォニック・ロックを実現している。さらに源流まで遡ると「世界初のコンセプト・アルバム」と呼ばれるビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(1967)に辿り着く。プロデューサー:ジョージ・マーティンの功績が大きい。

ユダヤ人であるレニーはキリスト教に懐疑的・批判的だった。そういう姿勢も「ジーザス」に共通している。彼の祖父は高名なラビ(ユダヤ教聖職者)で、父も信仰心に篤いユダヤ教徒だった。しかしレニーが指揮する音楽の作曲家は殆どキリスト教徒だったわけで(モーツァルトのレクイエム=死者のためのミサとか、ベートーヴェンのミサ・ソレムニスとか)、大いなる矛盾があった。それはウィーン宮廷歌劇場(現在のウィーン国立歌劇場)第一楽長になるためにユダヤ教からローマ・カトリックに改宗したグスタフ・マーラーの苦渋に重なる。因みにレニーの交響曲第3番「カディッシュ」の意味はユダヤ教徒が唱える「死者のための祈り」である。一方、ミサの定義は「カトリック教会において(キリストの体と血である)パンとぶどう酒を聖別して聖体の秘跡が行われる典礼、祭儀」である。

僕はレニーが指揮し71年に録音されたCDで予習して今回の公演に臨んだのだが、初めて生のパフォーマンスに接し、やはり劇場というのは古代ギリシャの時代から「祝祭空間」だったのだなぁと実感した。ロックありブルースあり、バレエあり、マーチング・バンドありと正にカオスである(冒頭にはジュークボックスが登場)。オーケストラはパンチが効いた演奏でエネルギッシュ、文句なし。ミッキーはMaster of Ceremony(M.C.)としての才能を遺憾なく発揮した。ただミッキーの誤算はソリストの選択にあった。全員が音楽大学出身のクラシック音楽畑の人々で、どうもロックとかブルース、ゴスペルの雰囲気=グルーヴ(groove:高揚感、音楽に乗った状態)が醸し出せていない。レニーのCDにはそれがあった。何人かはロック歌手やミュージカルの役者を起用すべきだったのではないだろうか?具体例を挙げよう。ミュージカル「キャンディード」に出演経験のある中川晃教、「デスノート」の浦井健治、石井一孝、「レ・ミゼラブル」や「天使にラブソングを」に出演した森公美子らである。

というわけで不満もあったが、日本でこの作品に直に接せられるチャンスはもう2度とないかも知れないので、ミッキーには大いに感謝したい。

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