アカデミー外国語映画賞受賞/イラン映画「セールスマン」
- アカデミー外国語映画賞受賞/イラン映画「別離」 2012.04.16
「別離」に続いてイランのアスガー・ファルハディ監督が米アカデミー外国語映画賞を受賞したのが「セールスマン」である。今年の外国語映画賞はドイツ映画「ありがとう、トニ・エルドマン」が本命と言われていた。大逆転劇が演じられたのは、トランプ大統領(共和党)によるイラン人入国制限命令への批判・当て付けではないかと囁かれた。当然のことながらファルハディ監督は授賞式出席を拒絶。代理人がトランプを批判する声明を読み上げた。ハリウッドは民主党支持者の巣窟だからね。お約束の事態となったわけである(ハリウッド・スターで共和党支持者なのはクリント・イーストウッド、ブルース・ウィリス、アーノルド・シュワルツェネッガー、シルベスター・スタローン、アダム・サンドラーくらい。後は殆ど民主党支持者だと思って間違いない)。
評価:A 公式サイトはこちら。
主人公エマッドは学校で教師を務めながら、同時に妻と小劇団に所属し、アーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」の稽古に忙しい。考えてみたら僕は「セールスマンの死」の舞台も映画も観たことがないんだよね。ダスティン・ホフマンが主演し、「ブリキの太鼓」のフォルカー・シュレンドルフが監督したテレビ映画版(1985)を是非観たいと20年くらい前から思っているのだが、国内版DVDは発売されず未だ機会がない。舞台版初演の演出を手掛けたのが「欲望という名の電車」「エデンの東」「波止場」「草原の輝き」のエリア・カザンなので彼が映画も手掛けてくれればよかったのだが、何故か違うんだよね(舞台初演版の主演は「波止場」のリー・J ・コップ、映画版はフレデリック・マーチ)。
さて本題。映画「セールスマン」を観ると、イスラム教って最悪!という気持ちになる。兎に角男尊女卑が露骨で、女性は常にヒジャブ(スカーフのような布)で頭髪を隠さないとならず、自宅で一人でいるときもそうなのだから驚かされる(つまり誰もいなくても「神は見ている」ということなのだろう)。舞台でアメリカ人を演じているときも外さない。夫が不在の時に妻は家で暴漢に襲われるのだが、警察に届け出ないのにもびっくりした。「お前が誘ったんんだろう?」という目で見られること(=性的二次被害 second rape)が恐ろしいのだ。浴室に倒れている彼女を発見しERに搬送したアパートの住人たちも、「警察なんか信用出来ない」と言ってそれに賛同する。ちょっと日本や欧米諸国では考えられないことだ。結局その選択が後に起こる悲劇の引き金となる。
乗り合いタクシー(政府公認の流し。どこでも乗り降りが自由で、安価で利用できる。男女同席)というのもカルチャーショックだ。エマッドの携帯電話が授業中に鳴り、彼が悪びれもせず応答したのにも唖然とした。こういう文化差を知るという意味でも映画って素晴らしい。
エマッドはいけ好かない男である。後半の彼の行為には全く共感出来ない。その行動原理は〈命には命を,目には目を,鼻には鼻を,耳には耳を,歯には歯を,全ての傷害に同じ報復を〉というコーランに書かれた言葉に基づいている。これには実は〈しかし報復せず許すならば,それは自分の罪の償いとなる〉という続きがあるのだが、彼は後半部分を完全に無視している。
決して後味が良いとは言えないが、ズシリとした見応えのある作品だ。僕がアカデミー会員なら、やはり「ありがとうトニ・エルドマン」ではなく「セールスマン」に投票しただろう。
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