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2017年7月 5日 (水)

映画は映画館で観るべきか?「オクジャ/okja」

評価:A

Okja

殺人の追憶」「グエムル -漢江の怪物-」「スノーピアサー」のポン・ジュノ監督最新作「オクジャ/okja」はアメリカで6月28日から劇場公開されている。同時にNetflixからのストリーミング配信が全世界一斉に始まった。映画公式サイトはこちら

本作は先日開催されたカンヌ国際映画祭でコンペティション部門にエントリーされたが、フランスで劇場公開されないことが問題視され、審査員長のペドロ・アルモドバルが「個人的見解だが、劇場公開される予定のない映画は最高賞パルムドールのみならず、ほかのどんな賞も受賞すべきではない」と明言した。フランスでは劇場公開から36ヶ月=3年経過しないと動画を配信してはいけないという法律があるのだ。

監督の地元・韓国でも大手のシネコン(cinema complex)チェーン3社が、「我が国における重要な商慣習」としてストリーミング開始は劇場公開から3週間以降と定められていると主張、Netflixの同日配信というポリシーが興行システムを妨害すると非難し、上映を拒否した。

映画再生ソフトとしてビデオテープやレーザーディスク(LD)しかなかった30年前は、僕も「映画は映画館で観るべき」という主張が正しいと考えていた。映画はフィルム上映されていたし、ビデオの質感と根本的に異なる。当時のテレビ放送やビデオは解像度も低く、お話にならなかった。しかし時代は変わった。ハイビジョンが登場し、4K、8Kと家庭での再生媒体が劇的に進化し細密になった。映像記録機器もデジタル化され、映画館ではフィルム上映を止め、デジタル(DLP)上映に切り替わった。結局現在、映画館とホームシアターの違いは単純にスクリーンの大きさしかなくなった。CDが衰退しネットでの音楽配信に移行したように、映画を映画館で観る時代は間違いなく終わろうとしている。今後はストリーミング(streaming)配信が主流となるだろう。その流れ(stream)は誰にも止められない。

ポン・ジュノによると本作の製作費が500億ウォン(約50億円)を越える見込みとなったため、ハリウッドとの提携を考えた。しかしメジャー・スタジオのほとんどは、「食肉処理場の場面を削除するんだったら金を出す」との回答だった。一方、Netflixは、「最終の編集権は監督にある。シナリオは変更しなくていい。予算は全面的にサポートする」と申し出て、必然的に彼らと仕事をすることになったという。ストリーミング配信には完全な自由が保証されている

あらすじはこうだ。食肉加工を手掛ける多国籍企業ミランド・コーポレーションは遺伝子組換えによって生み出された巨大で味のいい豚「スーパーピッグ」を発表した。韓国の山奥で育成されたこの生き物と少女の交流はトトロとメイのそれを彷彿とさせる(ポン・ジュノも「未来少年コナン」など宮崎アニメからの影響を認めている)。最終的にオクジャを屠殺しようと目論んでいるミランド社がここからニューヨークに連れて行こうとし、それを阻止すべく少女も同行する展開になるのは明らかに「キングコング」へのオマージュだ。NYで見世物にもされるしね。

ここにALF(Animal Liberation Front)つまり、(食肉用)動物解放戦線みたいなのが絡んでくる。 海洋生物の保護のため捕鯨船に体当りするなど過激な行動で知られるシーシェパードのパロディになっており、可笑しかった。設定が卓越している。

結局本作は少女・ミランド社・ALFという三者三様の正義がぶつかり合う物語である。ポン・ジュノは誰が正しいと結論を下さない。観客は当然、食肉用トトロと少女のほのぼのとした触れ合いに感情移入する羽目になるのだが、だからといって誰しも日頃から豚肉やソーセージ、ジャーキーを食べているわけで、ミランド社を一概に悪者と言い切れない。じゃぁベジタリアンなら良いのかというと、野菜だって生きている。ALFが主張するように動物を食肉にしてはいけないのなら、何故植物なら許される?それは差別じゃないのか?ということになる。食物連鎖を無視して人は生きられない。この居心地の悪さ、モヤモヤとした感情こそがポン・ジュノの真骨頂と言えるだろう。「殺人の追憶」だって最後まで真犯人は分からないしね。

以前当ブログでティルダ・スウィントンはアレック・ギネス、ピーター・セラーズと並ぶ、変装の名人だと書いた(こちら)。三人ともイギリス人。本作で彼女は一人二役を演じ、本領を発揮している。僕はピーター・セラーズが一人三役を演じた「博士の異常な愛情」を想い出した。

ジェイク・ギレンホールも相変わらずの怪演で最高!今回の扮装はマルクス兄弟のグルーチョ・マルクスにそっくりだった。

J G

 

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