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【いつか見た大林映画】第4回 ロケ地巡りと【尾道三部作】外伝

大学生になって僕が始めたことは【尾道三部作】のロケ地巡りである。今の言葉で言えば聖地巡礼ということになるだろう。岡山市から何度も足を運んだ。駅の観光案内所に行けば「おのみちロケ地案内図」が無料で貰えた(後に【新尾道三部作】のロケ地案内図も発行された)。

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「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」のロケ地マップが、美術監督である薩谷和夫さんのイラスト付きで紹介されている。因みに「時をかける少女」は尾道市と(広島県)竹原市でロケされており、編集で一つの街のように見せている(原田知世は自宅から学校への通学路でワープしているわけだ)。竹原市にも勿論、訪れた。

大林監督が【尾道三部作】に於いて現地の拠点としていたのが「さびしんぼう」にも登場する、商店街の中にあったジャズ喫茶TOM(監督が愛飲していたのはTOMソーダ)と、「転校生」に出て来るロープウェイ乗り場前にある「茶房こもん」である(ここのワッフルは絶品。監督が推薦する飲み物はサンセットドリンク)。公式サイトはこちら。「こもん」の店主・大谷 治氏が小道具の調達など現地コーディネートを担当しておられた(読売新聞の記事はこちら)。余談だが、あと尾道で僕の大好物は朱華園のラーメン。もし行く機会があれば是非ご賞味あれ。掛け値無しに美味しいから。

さて、「さびしんぼう」のエンドクレジットをご覧頂こう。

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TOMのマスター・須賀 務氏の名前、そして茶房こもんがクレジットされている。

TOMのマスターはTMC(TOM MEMBERS CLUB)を主宰し、いわば私設大林映画のファンクラブみたいなものだった。僕もマスターと親しくなり、TMCに入会した。黒いTシャツもあったな。TOMで大林監督に偶然お会いし、サインを頂いたこともあった(当時監督は煙草をスパスパ吸っておられた)。大林映画「彼のオートバイ、彼女の島」(1986)に登場するピアノバーはTOMの内装をモデルにしている(美術監督は薩谷さんさん)。実はこの作品、原田知世の姉・貴和子のデビュー作であるとともに、竹内力のデビュー作でもあるのだ。それまで九州で三和銀行の社員をしていたが、役者になりたいと一念発起してオートバイで東京に出てきた。「ミナミの帝王」以降の彼しか知らない人にとっては驚くだろうが、当時の竹内は笑うとエクボの出来る爽やかな好青年だった。

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「彼のオートバイ、彼女の島」は「イージー・ライダー」などアメリカン・ニューシネマの精神を受け継ぐ、《心意気の映画》である。その心は「風になりたい」。流麗な編集が鮮やかで、黒白(black and white)とカラーが何の法則性もなく交差する手法はクロード・ルルーシュの「男と女」みたいだった。片岡義男の原作で「彼女の島」は岡山県笠岡市の白石島だが、映画でロケされたのは尾道市の岩子島。同じ年に公開された「野ゆき山ゆき海べゆき」(1986)も尾道市と広島県福山市鞆の浦で撮影された(余談だが宮﨑駿監督が「崖の上のポニョ」の構想を練ったのも鞆の浦の旅館である)。「彼のオートバイ、彼女の島」は原田貴和子が冒頭でいきなりフルヌードで登場することが話題となったが、「野ゆき山ゆき海べゆき」が第一回主演作品となる鷲尾いさ子(前身は全日空水着キャンペーンガール)も裸になっている。そもそも監督の劇場映画デビュー作「HOUSE ハウス」(1997)では池上季実子が、「転校生」では小林聡美、「あした」では高橋かおり、「なごり雪」では宝生舞がバストトップを見せており、大林監督は新人女優の「脱がし屋」という異名をとることになる(「はるか、ノスタルジィ」の石田ひかり、「あの、夏の日-とんでろ じいちゃん」の宮崎あおいについては後日じっくり語ろう)。因みに監督の弁によると、裸は「生まれたままの姿」であり、少女の純潔性を映し出そうとしているのだそうだ(そして三島由紀夫の小説「潮騒」の焚き火の場面『その火を飛び越して来い』を例に挙げる)。監督がAKB46「So long ! 」のミュージック・ビデオを撮った時、唐突にメンバーが水着姿になる場面があり、後にSKE48の松井珠理奈がNHKでの大林監督の対談で「どうしてあそこは水着だったんですか?」と無邪気に質問していて、僕は爆笑した(回答はいつも通り)。珠理奈、監督は実のところ君たちを素っ裸にしたかったんだよ。でも現役アイドルだからそうはいかない。だから仕方なく水着で我慢したんだ。閑話休題。

「野ゆき山ゆき海べゆき」は「転校生」「廃市」同様にATG(日本アート・シアター・ギルド)映画だが、日本テレビも出資している。カラーネガで撮影され、「質実黒白オリジナル版」で劇場公開し、後年テレビでは「豪華総天然色普及版」で放送するよう当初は企画されていた。しかし関係者による0(ゼロ)号試写が不評だったのか途中から計画が変更され、結局東京では「質実黒白オリジナル版」と「豪華総天然色普及版」がそれぞれ単館上映され、大阪では「豪華総天然色普及版」のみ単館上映されるという寂しい興行となった。郷里岡山での上映は当然なかったので、僕はわざわざ新幹線に乗り、大阪で観た。残念な出来だった。原作は佐藤春夫の自伝的小説「わんぱく時代」。明治時代の話だが、映画は日中戦争〜太平洋戦争という時代設定になっている。それなのに下駄を履いた尋常小学校の生徒たちが通学で歩くのがアスファルトの道路で、違和感ありまくり。また「美しい日本語を聴かせたい」という演出意図は解るが、棒読みの台詞回しも辛かった。135分という上映時間が冗長に感じられた。もし最初から「質実黒白オリジナル版」を観ることが出来れば、また印象が違ったかもしれない。結局LD(レーザーディスク)でも「豪華総天然色普及版」のみの発売で、幻の黒白版に出会うにはDVD登場まで待たなければならなかった。カメラは基本的に固定撮影(フィックス)で、小津安二郎のフィルムを彷彿とさせる手法が採用されている。だから逆に、”映像の魔術師”大林宣彦らしさが失われた。電気紙芝居。また子供たちのわんぱく戦争が次第にエスカレートし、本物の戦争にシンクロしてゆくというプロットは鈴木清順監督「けんかえれじい」へのオマージュだ(大林監督は若かりし頃、鈴木清順「肉体の門」の批評をキネマ旬報の読者欄に投稿している)。結局本作は「金曜ロードショー」など日テレのゴールデンタイムに放送されることはなく、公開4年後「野ゆき山ゆき海べゆき テレビバーション1990」がひっそりと日中に放送された。豪華総天然色普及版のワンカットを少しずつ短くし、カット割りの数はそのままに40分も短縮させており、テンポが良くなり寧ろオリジナルより観易くなった。「野ゆき山ゆき海べゆき」の興行的不振が祟ったのかどうかは知らないが、ATGはその後次第に弱体化し、92年にひっそりと幕を閉じた。

さて1986年6月初旬、僕の自宅にTOMのマスターから葉書が届いた。「大林監督が新作を尾道で撮っているから遊びにおいで」という内容だった。早速、TOMを訪ねた。「今日はね、鞆の浦の港あたりでロケしているよ」と教えてもらい、車を福山市まで走らせた。そして撮影隊を見つけたのだった。これが「日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群」である。シナリオではタイトルが更に「夕子かなしむ」と続く。

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その時、三浦友和と撮った写真。

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竹内力と。

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南果歩&子役の浅川奈月と。

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皆さん、気さくに記念写真に応じてくださった。

この頃、アイドル歌手・岡田有希子が投身自殺をして、彼女との関係を取り沙汰されていた俳優・峰岸徹が「おかしなふたり」に出演しており、尾道に向かおうとする彼を東京駅でレポーターが捕まえて、インタビューする光景がテレビに映し出されていた。

どこか病弱で、憂いに満ちた映画。松尾芭蕉の句「おもしろうてやがてかなしき鵜舟(うぶね)かな」を想い起こさせる。商業映画としては珍しくヨーロッパの企業アグファ(Agfa:創業者は作曲家フェリックス・メンデルスゾーンの息子パウル)カラーで撮影されており、の原色を強調した鮮やかな色彩が特徴的である。「ひとりとひとりはさびしくて ふたりになればくるほしい」通常は1秒間に24コマで回すフィルムを12コマ/16コマ/18コマというコマ落としで映画全編が撮られている。だから人物の動きがカクカクしていて、何処か非現実的で、独特な表現が生まれた。「廃市」に続き、大林監督自らがナレーションを担当している。ひとには勧められないけど僕は大好きだ。まぁ、究極のカルト映画だね。特に1分52秒に及ぶ、南果歩をクローズ・アップした長回しは彼女が神々しいまでに光り輝いている。また終盤、永島敏行と三浦友和が尾道市・(岡山県)笠岡市・鞆の浦と場所を変えながら延々と殴り合いのけんかを展開していく場面はジョン・フォード監督「静かなる男」へのオマージュだ(大林監督はジョン・ウェインの大ファンである)。そして竹内力の潜水服姿はジョン・ウェイン&ゲイル・ラッセル主演「怒涛の果て」。作曲は未だ有名になる前のKAN。シンセサイザーによる切なくて美しい旋律が胸を打つ。彼の大ヒット曲「愛は勝つ」がリリースされるのが1990年9月1日、レコード大賞を受賞するのが翌91年で、紅白歌合戦にも出場した。大林監督はKANの2ndシングル「BRACKET」(1987)のミュージック・ビデオを撮っており、大連・尾道友港博覧会(87年10月)で上映されたショートフィルム「夢の花・大連幻視行」(出演:原田貴和子、浅野愛子)や瀬戸大橋博(88)のイベント映像として大林監督が撮った「モモとタローのかくれんぼ 」の音楽もKANが担当している。昔話・桃太郎を下敷きにした「モモとタローのかくれんぼ 」の原作はSF作家の豊田有恒。これは観客参加型で途中2回、AかBの物語を選べて、スイッチを押した人数の多い方の映像に進む仕組みになっている。つまり4パターンあるわけだ。僕は繰り返しパビリオンに入場し、全ての映像を体験した。

この頃は日本全国が博覧会ブームに湧いており、大林監督は85年つくば科学万博の政府館展示映像「多様な国土」を70mmフィルムで撮り(音楽は冨田勲)、90年大阪市鶴見緑地で開催された国際花と緑の博覧会(花博)では世界初の全天球映像(プラネタリウムみたいな感じ)「花地球夢旅行183日」を製作している。因みに花博の音楽は「さびしんぼう」「姉妹坂」の宮崎尚志だった(12チャンネル立体音響)。正にバブル景気(86-91)の時代だった。

映画「おかしなふたり」は完成後も長らく公開が決まらずお蔵入りし、1987年10月30日〜11月1日の3日間、尾道市公会堂に行われたA MOVIE FESTIVAL ONOMICHI '87で先行上映された(僕はその時に観た)。結局東京で単館上映されたのは1988年になってからだった。

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A MOVIE FESTIVAL ONOMICHI '87では「おかしなふたり」上映以外にも淀川長治・おすぎ・永六輔・高橋幸宏(元YMO、大林映画「四月の魚」主演)・内藤陳(日本冒険小説協会会長、「おかしなふたり」出演)を招いて大林監督を交えてのトークショーや、

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「漂流教室」(87)でヒロインを務めた浅野愛子をモデルにした撮影会、大林映画の新ヒロインを選ぶコンテストなどがあった。しかしそこで優勝した女の子は結局、劇映画で主演することが叶わず、「モモとタローのかくれんぼ 」で林泰文と共演するに留まった。

もう一本、尾道で撮られた大林映画をご紹介しよう。1983年8月30日に火曜サスペンス劇場で放送された「麗猫伝説」である。98年には劇場公開もされた。主演は入江たか子・入江若葉の母子。入江たか子が過去に出演した数々の化け猫映画へのオマージュである。【瀬戸内キネマ】という架空の撮影所が出てくるが、「おかしなふたり」にも【瀬戸内キネマ】という映画館が登場する。で「おかしなふたり」の最後は【瀬戸内キネマ】が炎上するのだが、そのシーンはアカデミー外国語映画賞を受賞したイタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」にどこか似ている。通常2台使用する映写機を1台で【流し込み】上映するのも同じ。因みに「ニュー・シネマ・パラダイス」の公開は88年なので「おかしなふたり」の方が先である。「麗猫伝説」の脚本は「花筐」「HOUSE ハウス」「ふたり」の桂千穂。ビリー・ワイルダー監督「サンセット大通り」のプロットを土台にしている。風吹ジュンが可愛かったなぁ。話が横道に逸れるが、那須真知子脚本/大林宣彦監督/秋吉久美子主演の火曜サスペンス劇場「可愛い悪魔」(82年放送)はマーヴィン・ルロイが監督したハリウッド映画「悪い種子」の翻案である。

さて、公式には【尾道三部作】が「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」、【新尾道三部作】が「ふたり」「あした」「あの、夏の日-とんでろ じいちゃん」ということになるが、その間に創られた「麗猫伝説」「彼のオートバイ、彼女の島」「野ゆき山ゆき海べゆき」「おかしなふたり」は【尾道三部作 外伝】ということになるだろう(「彼のオートバイ、彼女の島」「野ゆき山ゆき海べゆき」「おかしなふたり」の三本にはいずれも竹内力と三浦友和が出演している)。愛おしいはぐれ鬼。そして「おかしなふたり」以降、大林映画冒頭に必ず登場したA MOVIEという表記が長らく封印されることになる。

TOMのマスターはその後店を畳み、離れた場所にある奥さんが経営するブティック奥に引っ越したが、現在は板前修業をした息子がそこで居酒屋をやっているそうだ。

時は移ろいゆきて、2010年テレビ東京でドラマ「モテキ」が放送された。脚本・監督は大根仁。その第2話で森山未來と満島ひかりが岩井俊二監督「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」のロケ地巡りをする。ロケ地の千葉県飯岡町まで行きキャメラを持ちはしゃぐ満島を見ながら僕は腹を抱えて笑い転げ、「君は僕だ!」と画面に向かって叫んだ。尾道での自分自身の姿が彼女に重なったのである。この回を見たスタッフから岩井監督に話が伝わり、後に岩井監督と大根監督の対談が実現。ふたりは意気投合し、「打ち上げ花火」アニメーション化の企画が持ち上がった時に岩井監督はシナリオライターとして大根仁を指名した。そのアニメ版は今年8月18日に公開される予定。公式サイトはこちら

TO BE CONTINUED...

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