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なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2017 と「プラハの春」

5月3日(祝)ザ・シンフォニーホールへ。年に一度、日本のオーケストラの管楽器・打楽器奏者たちが集うなにわ《オーケストラル》ウィンズ(NOW)を聴いた。15年続いたこの企画も今年が最後。指揮者は丸谷明夫先生(大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部)M、中川重則先生(岡山学芸館高等学校吹奏楽部)N、そして金井信之(NOW代表、クラリネット奏者)K

  • ヴァンデルロースト:フラッシング・ウィンズ N
  • 川合清裕:メタモルフォーゼ 〜吹奏楽のために〜
    (2017年 吹奏楽コンクール課題曲V) K
  • 酒井格:半音階的狂詩曲(委嘱作品 世界初演) N
  • フサ:プラハのための音楽1968 N
  • ジェイガー:交響曲第1番 M
  • スパーク:交響曲第3番「色彩交響曲」 K

アンコールは、

  • ヴァンデルロースト:ジュピター N
  • 西山知宏:マーチ「春風の通り道」
    (2017年 吹奏楽コンクール課題曲 IV) M
  • 真島俊夫(編曲):カーペンターズフォーエバー M

「フラッシング・ウィンズ」は金管の響きが輝かしい。曲調がジェローム・モロス作曲の映画音楽「大いなる西部」にそっくりで可笑しかった。

川合清裕は日本現代音楽協会の作曲新人賞を受賞。今回の課題曲は全日本吹奏楽連盟作曲コンクールの第1位に選ばれた。ソロの活躍する場面が多く、カラフルな音色。僕はモーリス・ラヴェルなどフランス印象派の音楽を連想した。

大阪府枚方市出身の作曲家・酒井格の新曲は難易度が高く、過去の「たなばた(The Seventh Night of July)」とか「森の贈り物」など優しくメルヘンチックな作品群と比べると意外な感じがした。しかしメロディアスな点ではこの人らしいとも言える。途中、バンダ(場外)トランペットとの掛け合いがあり、印象的だった。

カレル・フサ「プラハのための音楽1968」はチェコスロバキアで起こった民主化運動「プラハの春」がソ連率いるワルシャワ条約機構軍の侵攻による軍事介入で蹂躙された事件を受け同年に作曲され、翌69年1月31日にワシントンDCで初演された吹奏楽曲である。

名指揮者ジョージ・セル(ハンガリー:ブタペスト生まれ)の委嘱により70年1月に管弦楽版も初演されたが、セル自身の録音は残されていない(セルは70年7月30日に死去)。このオーケストラバージョンは2004年に下野竜也/札幌交響楽団が定期演奏会で日本初演。その後下野は九州交響楽団や、2017年にはNHK交響楽団定期演奏会でもこれを取り上げている。僕が知る限り、関西では演奏されていない筈。頼みまっせ、大阪フィルさん。

「プラハの春」とチェコ事件の詳細についてはミラン・クンデラの小説「存在の耐えられない軽さ」を読まれたし。フィリップ・カウフマン監督がダニエル・デイ・ルイスとジュリエット・ビノシュ主演で撮った映画版も優れている。NHKの番組「映像の世紀」も参考になるだろう。

チェコ・フィルの指揮者カレル・アンチェルは海外演奏旅行中にチェコ事件が起こり、帰国を断念。1969年に小澤征爾の後任としてトロント交響楽団の常任指揮者に就任し73年に亡命先のトロントで死去した(後年、遺骨はプラハに還った)。

またやはり指揮者であるラファエル・クーベリックは1948年にチェコスロヴァキアに共産党政権が樹立された際に亡命。89年にビロード革命が起こり、ハヴェル大統領からの要請で90年に帰国、プラハの春音楽祭でチェコ・フィルを指揮し「わが祖国」を演奏した。アカデミー外国語映画賞を受賞したチェコ映画「コーリャ 愛のプラハ」の主人公はチェコ・フィルのチェロ奏者という設定で、クーベリック本人も出演している。これ必見。

また映画監督のミロス・フォアマンはチェコ事件を機にアメリカに亡命、「カッコーの巣の上で」(75)と「アマデウス」(84)で2度アカデミー監督賞を受賞した。「アマデウス」ではプラハでロケをしている。「カッコーの巣の上で」の舞台となる精神病院を共産主義国家(チェコスロヴァキア)と見立てれば、物語の構造が理解し易いだろう。

僕は「プラハのための音楽1968」吹奏楽オリジナル版をNOWで取り上げて欲しいということを、過去のレビューに書いている。

楽曲中に15世紀のフス戦争でフス教徒により歌われた戦いの歌「汝ら、神とその法の戦士たち」が引用されており、この旋律はスメタナの交響詩「わが祖国」(第5曲「タボール」第6曲「ブラニーク」)やドヴォルザークの劇的序曲「フス教徒」にも登場する。そして第3楽章 間奏曲で軍楽隊の太鼓が遠くから次第に近づいて来て、物凄い緊迫感で胸が締め付けられる。第4楽章で戦車部隊がプラハになだれ込み、圧倒的力で民主化運動を押さえ込む。阿鼻叫喚の地獄絵図。しかし響きはあくまで明晰。けだし名演であった。なお今回初めて知ったのだが、この楽曲にはフルートが8本も必要なのだそう。

ジェイガーの交響曲は1963年の作品で、現在の耳で聴くと古色蒼然としていて唖然とする。完全にオワコン。同時代の「プラハのための音楽1968」は全く古びていないのに……。時の洗礼を受けた後でも鮮度を保ったまま生き残るものと、そうじゃない(色褪せる)ものの違いが鮮明に浮き彫りにされた。アッキーこと、NHK交響楽団のクラリネット奏者・加藤明久は高校生の時、吹奏楽コンクールの自由曲でこれを演奏したそうだが(課題曲もジェイガーの「ジュビラーテ」)、曰く「今聴くと昭和ですねぇ。水戸黄門の『このご印籠が目にはいらぬか!』って感じ。こっ恥ずかしい曲です」と。うんうん頷ける。抒情的で甘い旋律、あくまでノスタルジック。第2楽章の行進曲は丸ちゃんの指揮だけにカチッとしていた。

スパークの新作はたおやかで暖かい。夢見るような音楽。第1楽章「白」は東日本大震災の復興支援として彼がわが国にプレゼントしてくれた「陽はまた昇る」のことを彷彿とさせる(2011年のNOWで演奏された)。第2楽章「黄」はリズミカルで鉄道の旅のよう。同じ作曲家の「オリエント急行」に似た雰囲気だ。ジェイガーの後で聴くと「これぞ21世紀の音楽!」と嬉しくなったが、ただブラインドでプロの音楽家にこれを聴かせたとして、各楽章(全6楽章)が何色を表しているか当てられる人は果たしているのだろうか??甚だ疑問である。

アンコールのマーチはメリハリがあり、引き締まったテンポ。僕は丸ちゃん/淀工の「カーペンターズ/フォーエバー」の生演奏を今までに少なくとも10回以上聴いているが、今回の出だしは史上最速だった!いつもどうり、最後の"Hey ! "も見事に決まり、有終の美を飾った。ありがとう、NOW。そしてさようなら。

この演奏会のライヴCDは6月10日に発売される。ゆめゆめ聴き逃すことなかれ。

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コメント

雅哉 様

こんにちは
随分ご無沙汰しておりましたm(__)m

なにわOW聴きに行かれたのですね
私は昼の部に行ってました
昼を聴いて、夜も聴きたくなりました

夜の部は娘が行っていて、色彩が良かったと言ってました
フサは娘には難しかったようです

メンバーの皆様が本当に楽しんで吹いているのがよくわかる、あの圧倒的サウンド
これで終わってしまうのが本当に残念です😢

投稿: *pino* | 2017年5月18日 (木) 16時04分

*pino* さま、コメントありがとうございます。お嬢さんは大阪桐蔭を卒業されて、いまは大学生でしょうか?高校を卒業するとすっかり吹奏楽を聴かなくなる人が多いので嬉しい限りです。フサは作曲の背景を知らないと楽しめないかも知れません。そういう若い人の理解の手助けをしたいと、このブログを書いているという側面もあります。プログラムの解説はその点不親切・不十分でしたしね。お嬢さんにはこの記事を読んで頂いた上で、もう一度CDで再挑戦して貰いたいなと想います。スメタナの「わが祖国」も併せて是非。何か違った風景が見えるかも?

ところで最近また、桐蔭のミュージカル「銀河鉄道の夜」を無性に観たくなって仕方がありません。定演のDVD/Blu-rayはそろそろ出来上がったでしょうか?なんとか手に入れなければ。この名曲を作曲した西村友さんがこの秋、Osaka Shionの正指揮者に就任されるとニュースで聴いて驚きました。是非歌なしの吹奏楽組曲「銀河鉄道の夜」もアレンジして頂きたいものです。それから劇団ひまわり版「銀河鉄道の夜」の再演を熱望します!!もうこの作品の虜です。

投稿: 雅哉 | 2017年5月18日 (木) 21時06分

追記です。

現在、国立新美術館@東京で「ミュシャ展」が開催されています。ここに展示されている壮大なプロジェクト【スラヴ叙事詩】はフサの「プラハのための音楽1968」と深い関係にあります。

20世紀初頭、パリでアール・ヌーヴォーの旗手(エコール・ド・パリ)として一世を風靡した画家アルフォンス・ミュシャは後に祖国チェコスロヴァキアに帰り、そこでナチス・ドイツに逮捕され、獄中の拷問が原因で死去しました。周辺諸国から蹂躙されてきたチェコの歴史を知ることは、作品理解に欠かせません。

投稿: 雅哉 | 2017年5月18日 (木) 21時57分

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