アニメと怪獣〜サブカルチャーがカルチャーになる時
この記事を書こうと思い立った、ことの発端は僕の知人が以下のような趣旨をツィートしたことだった。
「キングコング:髑髏等の巨神」を観た。巷の評判ほど傑作ではないと思った。 そんな印象を映画オタクの友人に語ったら「おまえは最近レベル高い映画観すぎやねん。「ラ・ラ・ランド」とか「君の名は。」とかと比べるからあかん。キングコングはB級映画の傑作や、あれで充分やねん!」と言われた。
1979年、キネマ旬報ベストテンで宮崎駿監督の劇場映画デビュー作「ルパン三世カリオストロの城」(1979年度)に投票したのは60人の選者中1か2人だった。ところが2010年同じキネマ旬報社から刊行された「オールタイム・ベスト 映画遺産 アニメーション篇」の投票で「カリ城」はなんと第1位になったのである!!なんという変わり身の早さ。
因みに第2位「風の谷のナウシカ」、第3位「となりのトトロ」、第4位「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」だった。 この時、第7位になった高畑勲監督「太陽の王子 ホルスの大冒険」も公開当時(1968年)は歯牙にも掛けられず、正当な評価を受けることはなかった。つまり1980年代半ばまでアニメーションはお子様向けとバカにされていて、まともな映画として扱われず、恐らく映画評論家の殆どは試写会に足を運びすらしなかったであろう。
世間の風向きが変わり始めたのは「風の谷のナウシカ」(1984)の登場からである。この年、キネマ旬報ベストテンでナウシカは日本映画第7位/読者選出日本映画第1位に選ばれた。アニメーションが入選するのは史上初であった。そして「となりのトトロ」(1988年)は遂にキネ旬で堂々第1位となり、「千と千尋の神隠し」は米アカデミー賞を受賞し、宮﨑駿は天下を取った。
1980年代「最近の日本人は大人でも電車で漫画雑誌を読んでいる」と呆れ顔の外国人の談話が新聞記事になっているのをしばしば見かけた。しかし今はどうだろう?日本の漫画やアニメは世界に通用するコンテンツとして一目置かれ、日本政府・経済産業省によるクールジャパン戦略の核にもなっている。「攻殻機動隊」は映画「マトリックス」に多大な影響を与え、今年ハリウッドで実写映画化もされた。「AKIRA」「デスノート」「銃夢」などのハリウッド版も製作進行中だ。そして世界のアニメーターにとって宮﨑駿は今や「神」となった。
2016年、日本映画の話題を席巻したのはアニメーション「君の名は。」「この世界の片隅に」そして怪獣映画「シン・ゴジラ」だった。キネマ旬報ベストテンで日本映画の第1位が「この世界の片隅に」、第2位が「シン・ゴジラ」となり、「映画芸術」誌でも「この世界の片隅に」がベスト・ワンに選出された。また日本アカデミー賞では「シン・ゴジラ」が作品賞・監督賞など7部門で最優秀賞に輝いた。10年前では絶対に考えられなかったことだ。
日本の怪獣映画の史上最高傑作といえば本多猪四郎監督&円谷英二特技監督による「ゴジラ」(1954年版)であることは論を俟たない。誰も異論を挟む余地はないだろう。しかし初代「ゴジラ」はキネマ旬報ベストテンで全く相手にされなかったし、本多猪四郎監督は賞と無縁の人だった。
ところが今や「ゴジラ」は世界中の人々から愛されるようになり、ハリウッドで既に2回映画化された。黒澤明監督「夢」に出演するために来日したマーティン・スコセッシ監督は撮影現場で「ミスター・ホンダはどこだ!」と叫び(本田は「夢」の演出補佐だった)、一緒に記念撮影を撮ったという。そしてギレルモ・デル・トロ監督「パシフィック・リム」の最後は「この映画をモンスター・マスター、レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ」という献辞が出てくる。
40年前はサブカルチャー、B級、子供騙しとしか見做されなかったアニメや怪獣映画が、いつの間にかカルチャーのど真ん中に立っていたのである。
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