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2017年4月

ディズニー実写版「美女と野獣」

評価:A+

Beautyandthebeast

完璧な実写映画だ。

アニメーション映画史上初めてアカデミー作品賞にノミネートされたディズニーの「美女と野獣」を1992年日本公開当時に僕は映画館で観ている。何と今から25年前!その後、歌が完成していながら制作中にカットされたナンバー「人間に戻りたい(Human Again)」が追加され、上映時間が8分長くなったIMAX版も2002年にサントリーミュージアム天保山@大阪(現在閉館)で観た。因みに「人間に戻りたい(Human Again)」はIMAX版より先にブロードウェイ・ミュージカル版で復活・上演されていた(1994年初演)。

今回の実写版は紛うことなきGay (LGBT:L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー) Movieである。ビル・コンドン監督、ガストン役のルーク・エヴァンズ、コグスワース役のイアン・マッケランはゲイであることをカミングアウトしている。ディズニーは確信犯だ。

ル・フウは明らかにゲイとして描かれているが直接的な描写は一切ないので、小中学生に観せても一向に構わないだろう。親御さんは安心して子どもたちを連れていけばいい。

振り返ってみると僕が初めて「アラビアのロレンス」(1962)や「太陽がいっぱい」(1960)を観た時は中学生だった。でもロレンスやリプリーがゲイだということは一切判らなかった。多分映画公開当時に気が付いた大人も殆どいなかっただろう(淀川長治氏を除いて)。隠された真実を見抜くまでに僕はかれこれ20年以上を要した。「ベン・ハー」(1959)の主人公とメッサラ、「マイ・フェア・レディ」(1964)のヒギンズ教授とピッカリング大佐がゲイ・カップルだということを知ったのもつい最近のことだ。

そういえば実写版「美女と野獣」冒頭でベルが歌うシーンは「マイ・フェア・レディ」におけるコヴェント・ガーデンの場面を彷彿とさせる。「マイ・フェア・レディ」のジョージ・キューカー監督はゲイであり、美術および衣装を担当したセシル・ビートンはバイセクシャルだった。

今回の「美女と野獣」は映像がレインボー(キャンディー)・カラーでカラフル。これはジャック・ドゥミ監督「シェルブールの雨傘」を想い起こさせる。因みにドゥミは「美女と野獣」の作詞家ハワード・アッシュマン同様、AIDSで亡くなっている。

音楽について。ティム・ライス(作詞)、アラン・メンケン(作曲)による3つの新曲がどれもいい!メンケン完全復活か!?ただ、「人間に戻りたい(Human Again)」がまた消えたのが哀しい。

僕は「プレミアム吹替版」で観たが、このキャストが超豪華!山崎育三郎(野獣)、昆夏美(ベル)、岩崎宏美(ポット夫人)、村井國夫(モーリス)、吉原光夫(ガストン)、島田歌穂(プリュメット)と舞台ミュージカル「レ・ミゼラブル」出演経験者が6人もいる!またルミエール役の成河(ソンハ)は山崎育三郎と共にウィーン・ミュージカル「エリザベート」2016年公演でルイジ・ルキーニのダブル・キャストを務めた。実力派揃いなのである。

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LION/ライオン ~25年目のただいま~

正直、この邦題ってどうなの??ある意味ネタバレだし。原題はシンプルにLIONだけど。GAGAのセンスを疑う。

GAGAの宣伝部は説明過多なんだよ。世界最悪と言われ笑いものになった「ラ・ラ・ランド」のポスターも酷かった。

Jap

詰め込み過ぎ!下品!!恥を知れ!!!

さて、

Lion

評価:A

「ライオン」は紛うことなき傑作。泣いた。アカデミー賞では作品賞・助演男優賞(デーヴ・パテール)・助演女優賞(ニコール・キッドマン)・脚色賞・撮影賞・作曲賞の6部門にノミネートされた。映画公式サイトはこちら。LIONの本当の意味は最後の最後に判る仕掛けになっている。

事実は小説より奇なり。インドでは毎年8万人以上の子どもたちが行方不明になっているという(映画のスーパーインポーズより)。本作でも人さらいが描かれているし、人身売買が当たり前のように行われている。5歳で迷子になり家族と生き別れ、オーストラリアに養子として引き取られた主人公の運命は過酷であるが、ものは見方次第であり、もし彼がそのままインドで生活を続けていたら肉体労働者を続けるしかなく、大学にも行けず母親同様に文盲(非識字)のままだった可能性も高い。どちらが彼にとって幸せだったろう?色々考えさせられた。

我々はどこから来て、どこへ行くのか?「私」とは一体、何者なのか?この映画のテーマは多かれ少なかれ私たち自身の問いでもあるだろう。つまり普遍性があるのだ。

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映画「 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」/邦題について。

評価:B+

あの「ナイトクローラー」の記憶も新しい怪優ジェイク・ギレンホールの主演作である。公式サイトはこちら

Demo

原題はDemolition=解体・破壊という意味である。ブライアン・サイプが執筆し、2007年のBlack List(未だ映画化されていない優れたシナリオ)に載っていたものが15年に映画化された。因みに同年は「スラムドック・ミリオネア」「ダウト」「ビッグ・アイズ」「インビクタス/負けざる者たち」「ヒッチコック」「グローリー/明日への行進」等もリスト・アップされていた。

驚いたのは西川美和 脚本・監督「永い言い訳」との類似である。突然の妻の事故死、しかし夫は泣けず、悲劇の主人公の振りをする。そして心からの涙を流すまでの物語。そっくりだ。しかし結末に達するまでの過程が両者で全く異なる。そこに日米の違い、また作者の性の違いが如実に現れているところが面白い。ちなみに西川美和が書いた小説「永い言い訳」(直木賞/山本周五郎賞候補、本屋大賞ノミネート)が出版されたのは2015年2月。多分偶然の一致なのだろう(ただし、Black Listに掲載されていたシナリオを西川が入手して読んでいた可能性は100%否定出来ないが)。

困っちゃうのが邦題だ。意味不明。実はこれ、車の日除け(サンシェード/サンバイザー)から出てきた亡き妻のメモが由来となっている。

If it's rainy, You won't see me. If it's sunny, You'll Think of me.
雨の日だと、運転中に日よけを下ろさないからこのメモには気付かないわね。でももし晴れの日だったら、(メモを見つけて)私のことを想い出して。

しかしこれが「 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」だと全く別の意味になって映画にそぐわない。配給会社ファントム・フィルムのセンスを疑う。

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笑福亭鶴瓶落語会@兵庫芸文

4月15日(土)兵庫県立芸術文化センター中ホールへ。

  • 笑福亭瓶吾:看板の一
  • 柳家喬太郎:紙入れ
  • 笑福亭鶴瓶:死神(リニューアル版)
  • 笑福亭鶴瓶:妾馬(八五郎出世)

2年前にこの会に掛けられたネタ「山名屋浦里」は後に歌舞伎になり、東京歌舞伎座で上演された。

鶴瓶の弟子・瓶吾は現在53歳とのことで(入門は平成元年)、そんな年にもなって前座を務めてていて暮らしていけるのかな?と余計な心配をした(娘がいるそう)。

喬太郎の「紙入れ」は過去に2回聴いている。

鶴瓶の「死神」はリニューアル前も聴いているが、面白くなったようには感じなかった。三遊亭円朝のオリジナルでは爺さんの死神を鶴瓶版は若い女に変えているのだが、そもそもこの改変自体が効果的とは思えない。今回のリニューアルで「無意識」という言葉が繰り返されたのにも違和感を覚えた。確かに「死神」はユング心理学で言うところの無意識の噺だが、古典落語にこの語彙が飛び出すのはどうも……。

「八五郎出世」が「妾馬(めかうま)」と呼ばれるのは、噺の後半部で分かるのだが、現在後半が演じられることはほぼない。鶴瓶版も同様。で「死神」はいまいちだったけれど、家族の噺だからと鶴瓶が今回ネタおろしした「妾馬」は良かった。

僕は江戸落語が大嫌いだし(喬太郎は除く)、「妾馬」も気に入らない。あの人情の押し売りが我慢ならない。ところが鶴瓶版は滑稽噺に軸が傾いており、お涙頂戴があまりなかった。酔っ払い芸は笑福亭一門のお家芸だし、侍に取り立てようとするお殿様の申し出を八五郎がきっぱり断る最後は溜飲が下がった。そう来なくっちゃ!

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三浦一馬キンテート ピアソラ&マルコーニ

4月8日兵庫県立芸術文化センター小ホールへ。

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ピアソラ・コンクールにおいて史上最年少(18歳)で準優勝したバンドネオン奏者・三浦一馬を聴く。他のメンバーは荒井英治(ヴァイオリン)、大坪純平(ギター)、黒木岩寿(コントラバス)、松本和将(ピアノ)。

今回のプログラムはアストル・ピアソラと三浦の師ネストル・マルコーニの作品が並んだ。

  • マルコーニ父子:グリス・デ・アウセンシア(不在の灰色)
  • ピアソラ:ブエノスアイレスの冬
  • ピアソラ:デカリシモ
  • ピアソラ:天使のミロンガ
  • ピアソラ:フーガ9
  • ピアソラ:天使の死
  • ピアソラ:アディオス・ノニーノ
  • マルコーニ:モーダ・タンゴ
  • マルコーニ父子:ソブレ・イマヘネス(様々なイメージについて)
  • ピアソラ:スール〜愛への帰還
  • ピアソラ:ブエノスアイレスの夏
  • マルコーニ:時が満ちて
  • ピアソラ:現実との3分間
  • ピアソラ:タンガータ
  • ピアソラ:アレグロ・タンガービレ(アンコール)
  • ピアソラ:リベルタンゴ(アンコール)

過去に三浦を聴いた時の感想は下記。

デビュー10周年だそうだが、次第に味が出てきた印象。哀感、情熱、妖しい色気、そしてブエノスアイレスの喧騒。そういった諸々の要素が一気に押し寄せて来るようだった。

あと特筆すべきはキンテート(五重奏団)のメンバーの質の高さ。荒井英治は東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを長きにわたり務め、またモルゴーア・クァルテットを結成しショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全曲演奏会やプログレッシブ・ロックなど意欲的な活動を続けている。松本和将も腕利きのピアニストだ。ピアソラのキンテートにも引けをとらないと想った。

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紅ゆずる主演/宝塚星組「スカーレット・ピンパーネル」

4月6日(木)宝塚大劇場へ。星組公演「スカーレット・ピンパーネル」を観劇。

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男役・紅ゆずると娘役・綺咲愛里のトップお披露目公演である。悪役ショーヴランに礼真琴、ロベスピエールに七海ひろきがキャスティングされた。

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「スカピン」に関して今まで観た公演のレビューは下記。

紅ゆずるの魅力はとにかく明るいこと。まるで太陽のようで、湖月わたるのことを想い出した。あとグラパンに変装した場面では長い指の美しい動きが際立っていた。

綺咲愛里は美人で、気が強そうなところがこのミュージカルのヒロインにピッタリ。いかにも元・革命の闘士という雰囲気があった。

礼真琴は歌が上手く、七海ひろきは美形の男役なので見惚れた。

総じて質の高いプロダクションであった。「デスノート THE MUSICAL」にせよ「スカピン」にせよ、フランク・ワイルドホーン(和央ようかの旦那さん)の楽曲が素晴らしい。特に「スカピン」の中で僕は、ショーヴランが歌う「君はどこに」が好きだ。なんかね、色気があるんだ。

あと東宝ミュージカル「エリザベート」「モーツァルト!」「ミス・サイゴン」などでお馴染みの”踊る指揮者”、塩田明弘が指揮台に立っていたので驚いた。マエストロ塩田が東京宝塚劇場に時々登板しているのは風の便りに聞いていたが、本拠地登場は初めてでは?紅ゆずるがマエストロをいじる場面もあり、宝塚の舞台上で指揮者の名前が飛び出すのも前例のないことであった。よっ、人気者!

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面白きことは良きことなり!/アニメーション映画「夜は短し歩けよ乙女」

僕は本屋大賞で第2位になり、山本周五郎賞を受賞した森見登美彦(奈良県生駒市出身、京都大学農学部卒)の小説「夜は短し歩けよ乙女」が大好きで、繰り返し愛読している。21世紀に書かれた日本の小説の金字塔ではないかとすら本気で想っている。同じ原作者の「四畳半神話大系」は2010年にテレビアニメ化され、大傑作だった。そのことは当ブログで語った。

上記事でも「夜は短し歩けよ乙女」アニメ映画化希望を切望したが、なんと湯浅政明(福岡県出身)監督、劇団「ヨーロッパ企画」の上田誠(京都府出身)脚色、イラストレーター中村佑介(兵庫県宝塚市出身)がキャラクター原案、大島ミチル(長崎県長崎市出身)作曲、主題歌を歌うのがASIAN KUNG-FU GENERATIONで、「四畳半神話大系」のスタッフ再集結という夢のような企画として実現した!

評価:A+ 公式サイトはこちら

上映時間93分と極めてコンパクト。疾走感があり、湯浅監督らしいシュールで誇張された表現が極めて愉しい。奇想とデフォルメされた幻想が錯綜する。摩訶不思議なワンダーランドをひととき満喫した。

「詭弁踊り」は文章として親しんできたが、映像化されたその奇っ怪な踊りにぶっ飛んだ!!あとゲリラ演劇「偏屈王」がミュージカル仕立てに変更されており最高。その音楽は「ラ・ラ・ランド」みたいに洗練されておらず、いかにも大学生が作曲しました的な素人っぽさがツボにはまった。クライマックスは湯浅監督の「マインド・ゲーム」並にキテる(イカれてる)。←褒め言葉です。

声優陣は先輩:星野源、黒髪の乙女:花澤香菜(新海誠「君の名は。」のユキちゃん先生/「3月のライオン」の川本ひなた)、学園祭事務局長:神谷浩史(「進撃の巨人」のリヴァイ)と超豪華。3人とも歌います。またミュージカル界から新妻聖子も参加している。

小説には偽電気ブランなるお酒が登場するが、それに刺激されて電気ブランを飲んだこと、

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また劇中で重要な役割を果たす絵本「ラ・タ・タ・タム」を購入し、息子に読み聞かせたことなどを映画を観ながら懐かしく想い出した。

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なお入場者特典として森見登美彦 書き下ろし掌編小説『夜は短し歩けよ乙女 銀幕篇』が公開1週目に「先輩」から「乙女」への手紙、公開2週目には「乙女」から「先輩」への手紙が配布されるという。

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東宝と原作者の森見登美彦に言いたい。「恥を知れ!しかるのち死ね!」……仕方ないから次週も映画館に足を運ぶわ。

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今年も宝塚市の桜は見事に満開を迎えた。

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寿楽荘付近の桜並木である。

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「ムーンライト」がアカデミー作品賞を受賞した歴史的意義についての考察

評価:A

映画「ムーンライト」を一言で評するなら「お前は誰だ?」という問いに対して、主人公シャロンが自分自身を見つけるまでの物語だ。映画は少年期・青年期・成人期と3章に分けられ、それぞれ別の役者が演じている。ポスターはその3人の顔をモザイクにして貼り合わせている。

Moon

マハーシャラ・アリ演じる麻薬の売人フアンは第1章にしか登場しないのだが、観ている者に鮮烈な印象を与える。アカデミー助演男優賞受賞も納得の名演技だ。彼がシャロンに海で泳ぎを教える場面は明らかにキリスト教における(幼児)洗礼式を模している。ファンはシャロンにとって父親代わりであり、師(Mentor)でもある。

以下、「アフリカ系アメリカ人」と表現するのが現在アメリカ国内での作法なのだが、長たらしいので「黒人」と略させていただく。悪しからず。

世界初のトーキー映画は「ジャズ・シンガー」(1927)である。アル・ジョルソン演じる主人公は白人だが顔を黒塗りし、口紅で唇を分厚く誇張して黒人に扮し、舞台で歌う。これをミンストレル・ショーと言い、当時流行ったスタイルである。現在では考えられない話だ。

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ジュディ・ガーランドとミッキー・ルーニーが共演した"Babes on Broadway"(41)でも彼等はミンストレル・ショーを演じている。

Babes

1950年代になってもハリウッド映画で黒人俳優が白人俳優と共演することは極めて稀だった。ニコラス・ブラザースという黒人兄弟のダンスの名手がいたが、フレッド・アステアとの共演は生涯叶わなかった(ただしジーン・ケリーとは「踊る海賊」で、ゲストダンサーとして一場面のみ共演している)。

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Nicholasbrothers

1951年のMGMミュージカル映画「ショウ・ボート」では黒人のジャズ歌手レナ・ホーンアフリカ系(混血)女性ジュリー役を演じる予定だったが、首脳部の意向で撮影直前になって白人のエヴァ・ガードナーに替えられてしまった(スクリーン・テスト映像も残っており、「ザッツ・エンターテイメント PART 3」で観ることが出来る)。

1960年代に入るとマーティン・ルーサー・キング牧師による公民権運動が起こり、マルコムXによる過激な活動もそこに絡み合ってアメリカ社会は変革の時を迎えた。その先駆けとなったのがシドニー・ポワチエとトニー・カーティスが共演した「手錠のまゝの脱獄」(58)である。黒人と白人が一つの手錠に繋がれるという設定が当時は衝撃的だった。そしてポワチエは「野のユリ」(63)で黒人俳優として初めてアカデミー主演男優賞を受賞する。

黒人監督が脚光を浴びるのはスパイク・リーが89年に撮った「ドゥ・ザ・ライト・シング」からだろう。オバマ前大統領が妻のミシェル・オバマと初めてデートで観に行ったのが本作だそうである。日本ではキネマ旬報ベストテンで外国映画の第5位に選出された。映画の終盤、黒人の暴動が起こり白人の経営するピザ屋が放火された後に、キング牧師マルコムXがにこやかに一緒にいる写真と共に二人の相対する発言が引用されるのが象徴的だった。そして「ボーイズ'ン・ザ・フッド」(91)でジョン・シングルトン黒人として初めてアカデミー監督賞にノミネートされた。シングルトンは24歳で史上最年少、この記録は未だ誰にも破られていない。

黒人が監督した映画がアカデミー作品賞を受賞するのは「それでも夜は明ける」(2013)が初。「ムーンライト」は史上2作目となった。

バリー・ジェンキンス監督は37歳、これが長編映画2作目である。「それでも夜は明ける」のプロデューサーであるブラッド・ピットが本作でもプロデュースを務めている。舞台では未上演の戯曲「In Moonlight Black Boys Look Blue」(月明りで黒人の少年たちは青く見える)を原案とし、その作者であるマクレイニーとジェンキンスが共同でシナリオを書いた(アカデミー脚色賞受賞)。ふたりは「ムーンライト」で描かれたマイアミに生まれ育ち、どちらの母親も薬物中毒だったそうである。

「ムーンライト」がアカデミー賞を受賞したことは黒人映画である以上に、もっともっと大きな意義がある。それは同性愛をテーマとした作品として初めての受賞だからである。台湾のアン・リーが監督した「ブロークバック・マウンテン」(05)は作品賞最有力と言われながら「クラッシュ」に破れ、監督賞・脚色賞・作曲賞の受賞に留まった。これは主人公がゲイ・カップルだから保守的なアカデミー会員に敬遠されたのだろうと囁かれた。2年連続でアカデミー(演技)賞に白人俳優ばかりノミネートされ多様性の欠如が非難された2016年、俳優のイアン・マッケランは「ゲイを公表している男優もオスカーを獲得したことがない。これは偏見なのか、偶然なのか」とガーディアン紙に語っている。

LGBT(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー)が特に欧米で差別されるのは、キリスト教の影響が強い。何故なら聖書で同性愛は罪だから。この辺りが日本人には理解し辛い。旧約聖書で強烈なのは男色の町、ソドムとゴモラは神ヤハウェの怒りを買い、天から硫黄と火が降る裁きを受け亡ぼされた。一神教の厳しさと不寛容(intolerance )がここに示されている。また新約聖書では次のように書かれている。

正しくない者が神の国を受け継げないことを、知らないのですか。思い違いをしてはいけない。みだらな者、偶像を礼拝する者、姦通する者、男娼、男色をする者、泥棒、強欲な者、酒におぼれる者、人を悪く言う者、人の物を奪う者は、決して神の国を受け継ぐことができません。
(コリント信徒への手紙 6章9−10節)

1960年代までイギリスで同性愛は犯罪だった。発覚すると逮捕され、矯正するために薬物療法が強制された。この実態は映画「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」(アカデミー脚色賞受賞)で描かれている。

LGBTが差別(hate 嫌悪)されるのはキリスト教だけじゃない。起源を同じくするイスラム教も同様。イランやスーダン、ソマリアで同性愛者は死刑。サウジアラビアでは死刑または鞭打ち刑となる。

ディズニー実写版「美女と野獣」は今月日本でも公開されるが、ゲイのキャラクターが登場するということでロシアでは16歳未満の鑑賞が禁止となり、マレーシアでは13歳未満の鑑賞に保護者の注意が必要であることを指す「PG-13」に指定され、クウェートでは上映禁止となった。マレーシアでは「レント」や「ブロークバック・マウンテン」が同性愛を理由に公開差し止めとなっている。因みにマレーシアの民族構成はマレー系67%、中国系25%、インド系7%。宗教はイスラム教61%、仏教20%、キリスト教9%、ヒンドゥー教6%となっている。

「ムーンライト」の話に戻ろう。全体を支配するのは月の光青い色調である。神秘的で詩的な雰囲気が漂う珠玉の作品に仕上がっている。僕は「ブロークバック・マウンテン」より好き。僕がアカデミー会員だったら作品賞は「ラ・ラ・ランド」に投票したが、「ムーンライト」の受賞も十分納得出来る。欧米のキリスト教社会はいま、大きく変わろうとしている。映画は時代を写す鏡である。その叡智に、僕たちも学ぼうではないか。

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「レゴバッドマン ザ・ムービー」と「デッドプール」

「レゴバッドマン ザ・ムービー」 評価:B

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巷で評判が高い「レゴバッドマン ザ・ムービー」を5歳の息子を連れて観に行った。バットマンは言わずと知れた、スーパーマンと並ぶDCコミックスのヒーローである。

「デッドプール」 評価:B

昨年公開された「デッドプール」はマーベルのX-MENシリーズのスピンオフ作品。全米製作者組合協会賞(Producers Guild Awards)のノミネート10作品の中にも「ムーンライト」「ラ・ラ・ランド」「マンチェスター・バイ・ザ・シー」と並んで選ばれた。こちらはBlu-rayで鑑賞。

いや、確かにどちらも出来は良いと想うよ。ただ、今回悟ったのはやっぱり僕はアメコミが好みじゃないということ。観ていて途中で飽いてしまう。夢中になれて、心底傑作だと認められるのはクリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」だけかな。

僕には勧善懲悪が信じられない。Heroなんて胡散臭い。アメコミはキリスト教社会だからこそ生み出された文化だと想う。光と影、天と地、天使と悪魔、正義(Hero)と悪(Villain)。単純な二元論。物事を分類するのが父性原理(キリスト教)の特徴であり、コンピューターも0と1の二進法で解析・表示する。たしかに便利ではあるが、世の中そんなに単純に割り切れるものではない。こういう単細胞的思考は時にアーリア人(ゲルマン民族)を最も優れた英雄とし、ユダヤ人を不倶戴天の敵・ペストと見做すヒトラーの思想(著書「我が闘争」)や、サダム・フセインを「大量破壊兵器」を持つ悪の枢軸と断じ、イラクを侵略したジョージ・W・ブッシュのような人物を生み出すことになる。

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