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ワーグナー〈ニーベルングの指環〉序夜「ラインの黄金」@びわ湖ホール

3月4日(土)滋賀県の、びわ湖ホールへ。

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ワーグナー:楽劇〈ニーベルングの指環〉序夜「ラインの黄金」を鑑賞。

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「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」へと続く4部作を4年かけて毎年1作ずつ上演する壮大なプロジェクトである。

僕が座ったのはS席16,000円。破格の安さである。2日間とも完売したが、オペラの上演で収益が上がるはずはない。大赤字だろう。滋賀県、(少なくともあと3年は)頑張れ!!因みにメトロポリタン歌劇場@ニューヨークの同クラスの席で観ると、大体3万円掛かる。それでもメトのチケット売上額は総支出額(制作費・劇場管理費・運営費など)の33%を占めるに過ぎない。不足分はファンドレイジング(寄付金募集)で賄っている。その1割は企業から、残りの9割は個人のパトロンが支えている。しかし日本にオペラハウスを支援する大金持ち・篤志家はあまりいないわけで、結局税金に頼らざるを得ない。ま、いずれにせよありがたいことである。

〈ニーベルングの指環〉は後世の芸術に多大な影響を与えた。J・R・R・トールキンが書いたファンタジー小説「指輪物語(原題:The Lord of the Rings)」(1954-55)もその一つだ。ジョージ・ルーカスが創作した神話「スター・ウォーズ」で作曲を担当したジョン・ウィリアムズは〈ニーベルングの指環〉においてワーグナーが編み出した示導動機(ライトモティーフ)の手法を映画に応用している。宮﨑駿「崖の上のポニョ」のポニョは父親から”ブリュンヒルデ”と呼ばれるが、これは「ワルキューレ」に由来する(詳しくはこちらに書いた)。「ラインの黄金」に登場する火の神ローゲは「ハウルの動く城」カルシファーの原型である。

今回生で聴いてつくつづ痛感したことは〈ニーベルングの指環〉でヨーロッパ文明は成熟の頂点を極めたという紛れもない事実である。後にマーラーの登場あたりから熟し過ぎて腐りはじめ、ナチス・ドイツの台頭とともに完膚なきまでに破壊し尽された。フランシス・フォード・コッポラ監督「地獄の黙示録」でワルキューレの騎行が大音量で流されるのはこの歴史を踏まえている。またナチス時代のドイツをデカダンス調に描くルキノ・ヴィスコンティ監督「地獄に落ちた勇者ども」の原題(イタリア語)は「神々の黄昏」である。ヴィスコンティ「ルートヴィヒ」の主人公はワーグナーのパトロンであり、バイロイト祝祭劇場建設を支援した。そのこけら落としが〈ニーベルングの指環〉である。なお、ヴィスコンティはオペラ演出家としても名高く、マリア・カラスと組んだスカラ座での「椿姫」(指揮はジュリーニ)の成功は今や伝説となっている(カラスの呪いとして知られる)。

ワーグナーは〈ニーベルングの指環〉台本執筆にあたり、数多くの神話・伝説を研究した。例えば雷神ドンナーは北欧神話に登場するトールのドイツ名である。これを英語で綴るとThor(ソー)、マーベル・コミックスのヒーローで「アベンジャーズ」の一員マイティ・ソーの由来である。閑話休題。

演出家はドイツからミヒャエル・ハンペを招いた。1983年ムーティとザルツブルク音楽祭で組んだモーツァルト「コシ・ファン・トゥッテ」、87年にカラヤンとザルツブルク音楽祭で組んだ「ドン・ジョヴァンニ」などが代表作。日本では98年に新国立劇場で「魔笛」を、2007年に横浜みなとみらいホールでロッシーニ「セヴィリアの理髪師」を演出している。1935年生まれだから現在81歳。美術・衣装はバイロイト音楽祭で「ローエングリン」を手掛けたこともあるヘニング・フォン・ギールケが担当。

最初から最後まで舞台前面にシルクスクリーンが張られており、プロジェクション・マッピングが効果的に用いられた。冒頭は宇宙空間が前面のシルクスクリーンと後方のスクリーンに立体的に映し出され、モヤモヤしたガスが渦巻き太陽系の誕生が描写される。スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」のクライマックスやテレンス・マリック監督「ツリー・オブ・ライフ」を彷彿とさせた。

「もしかしてSF仕立てだった1989年バイエルン国立歌劇場に於けるサバリッシュ指揮、ニコラウス・レーンホフの演出みたいな方向に進むのかな?」と一瞬想ったが、ラインの乙女たち登場以降はオーソドックスで写実的な演出となり、1990年メトにおける、ワーグナーが楽譜に書き込んだ「ト書き」に忠実に従ったオットー・シェンク版に近いとなと感じられた(指揮はレヴァイン)。地下からエルダが現れる場面では再び宇宙が描かれた。

正直、現在欧米で主流の前衛的演出と比較すると古色蒼然としている。しかしまぁ、こういうのも悪くない。そもそも〈ニーベルングの指環〉4部作が日本で、ましてや関西で上演されることなど滅多に無いわけだから、奇をてらう必要もないだろう。直球で勝負だ。

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歌手について。ロッド・ギルフリー(ヴォータン役)が朗々とした歌唱で良かった。あと西村悟(ローゲ)、カルステン・メーヴェス(アルベリヒ)、砂川涼子(フライア)らも好演。

沼尻竜典/京都市交響楽団の演奏も明晰で卓越していた。ワーグナーの官能性とか濃密さはないけれど、こういうシャープなアプローチも「あり」だろう。

あと3年、通います。

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コメント

わざわざびわ湖ホールまで来て下さってありがとうございました。この公演は両日とも完売で、評判もいいようです。ただ、僕はパスしました。と言うのは、去年の「さまよえるオランダ人」で懲りたからです。なんせ2時間半ぶっ続けでどっと疲れましたから。今年の「ラインの黄金」もぶっ続けなので敬遠しました。
びわ湖ホールはこのような大がかりなオペラもやりますけど、今年2月にやった「連隊の娘」とか、去年の「ドンキホーテ」とかあまり上演されない、でも、面白いオペラをやってくれます。中ホールのオペラも是非御贔屓になさって下さい。中ホールのオペラは5000円ですよ。

投稿: 最後のダンス | 2017年3月 8日 (水) 01時31分

最後のダンスさん、コメントありがとうございます。びわ湖ホールは周囲の風景も美しく大好きなのですが、なにせ遠い!宝塚から大津まで1時間20分、更にホールまでの道のりを考えると2時間掛かります。来年2月の「ヘンゼルとグレーテル」は子供を連れて観に行こうかなと考えています。ただ栗山昌良さんの演出はコルンゴルト「死の都」でガッカリしたので、大丈夫か?という不安はあります。あの歌手に正面を向かせるやり方はとても不自然です。

投稿: 雅哉 | 2017年3月 8日 (水) 08時26分

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