テレンス・マリック監督「ボヤージュ・オブ・タイム」
評価:A
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映画冒頭に道元禅師の和歌「世の中は 何にたとえん 水鳥の嘴(はし)振る露に 宿る月影」が挿入される。これは【水を飲む水鳥の嘴(くちばし)から飛び散る水滴に映る月影(=無限の宇宙)も一瞬にして消え去るように、この世は儚く、無常である】と詠っている。日本以外にも中国(道教の教え)、アラブ(コーラン)、インドのバージョンも用意されているという。
ナレーションはケイト・ブランシェット。中谷美紀による日本語版もある。視覚効果監修は「マトリックス リローデッド」「ツリー・オブ・ライフ」「ヘイトフル・エイト」のダン・グラス。
宇宙の誕生(ビッグ・バン)から地球の誕生、生命の進化から人間登場へ、そして宇宙の死までが描かれる。日本で公開されるのは90分の35mm版だが、40分のIMAX版もあるという。
ハワイ、アイスランド、チリ、パラオ、パプアニューギニア、ソロモン諸島などでロケされた。
実は本作のコンセプトはテレンス・マリック監督が以前に撮った「ツリー・オブ・ライフ」(カンヌ国際映画祭パルム・ドール、アカデミー賞で作品賞・監督賞・撮影賞にノミネート)の一部に描かれたパートを拡大したものだ。VFXで創造された恐竜も両者に登場する。そもそもこの企画はマリックが地球の生命を探求する映画「Q」として1970年代から温めていたものだという。
彼の映画の特徴は監督デビュー作「地獄の逃避行」(1973)、「天国の日々」(78)の頃からそうなのだが、映像は本当に美しいのだけれど、シナリオが弱いんだよね。だから最近の作品「トゥ・ザ・ワンダー」「聖杯たちの騎士」なんかは完全に一般観客から見放されている。むしろ今回のようなスタイルの方が合っているのではないか?
「ボヤージュ・オブ・タイム」は自然ドキュメンタリーに近いが、恐竜や(俳優が演技する)原始人も登場するし、必ずしもそう言い切れない。ケイト・ブランシェットの語りもナレーションというよりはむしろ「詩」だしね。
我々観客は理解しようなどという邪心を捨てて、ゆったりと映像に身を委ねればいい。そこには哲学的・瞑想的な世界が茫漠と広がってゆく。ある意味「夢」の体験に似ている。調べてみるとマリックはハーバード大学で哲学を専攻し主席で卒業。ハイデッガー著作の翻訳本を出版したり、マサチューセッツ工科大学で哲学を教えていたこともあるそう。筋金入りだね。
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