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「モアナと伝説の海」あるいは、ディズニー・プリンセスの変遷

評価:A+

Moana

一旦ディズニーを解雇され、ピクサーの長編アニメーション第一作「トイ・ストーリー」を監督したジョン・ラセターがチーフ・クリエイティブ・オフィサーとしてディズニーに復帰後、取り組んできたことが2つある。1つ目は「ディズニーのピクサー化」であり、2つ目は「ディズニーの宮崎アニメ化」である。「ピクサー化」とはストーリー作りの段階から監督経験者全員を招集し、ラセターも加わって大人数でああでもない、こうでもないと議論しながら企画会議を繰り返して物語を練り上げていく合議制のことを指す。作品のクオリティは極めて高くなるが反面、作家性(個性)が失われたバディ・ムービーになりやすいという欠点もある。「ズートピア」がその典型例だろう。「シュガー・ラッシュ」なんかもそう。現在では殆ど、ディズニー映画なのか(子会社の)ピクサー映画なのか見分けがつかなくなってしまった。

ラセターが宮﨑駿に私淑していることはつとに有名だ。「千と千尋の神隠し」のアメリカ公開に尽力し、その様子は「ラセターさん、ありがとう」というドキュメンタリー作品となった。宮さんがアカデミー名誉賞を受賞した時ラセターはプレゼンターを務め、彼が初めて「ルパン三世 カリオストロの城」を観た時の感動を熱く語った。出不精の宮さんが重い腰を上げたのも、「僕がアメリカに行かないと、ラセターに怒られるから」という理由だった(「千と千尋」がアカデミー賞で長編アニメーション部門を征した際は渡米していない)。ラセターがディズニー復帰後、製作総指揮した「塔の上のラプンツェル」(2010)は完璧に「カリ城」へのオマージュであった。そもそもラプンツエルを塔の上から救い出すのは王子様の筈なのに、ディズニー版では3人組の泥棒さんなのである。まんまルパンじゃん!

そして【海に選ばれた】「モアナ」を観た時、瞬時に感じたのは彼女は風の谷のナウシカなのだということ。巨神兵や「天空の城ラピュタ」の飛行石が出てくるし、自然が蘇るクライマックスは「もののけ姫」だ(「ファンタジア2000」最終エピソード/ストラヴィンスキー「火鳥」にも似た描写がある)。モアナは雄々しく、ディズニー・アニメ史上最強のヒロインと言えるだろう。かっけー!

ディズニー長編アニメーションの第一作は言わずと知れた「白雪姫」(1937)である。彼女は"Someday My Prince Will Come."(いつか王子様が……)と夢見る、受動的な女の子であった。これは父性主義が強いキリスト教社会が生み出したお伽噺の特徴であり、女性はヒーロー(英雄)と結合することでしか幸せを掴むことができなかった(And they lived happily ever after)。「シンデレラ」(50)や「眠れる森の美女」(59)も同様。

変化が現れたのが「美女と野獣」(1991)のベルである。強い意志を持ち、自ら人生を切り開いてゆく。公開当時の批評を読めば判るが、笑っちゃうのはベルが本を読んでいるということだけで世間は衝撃を受けたのである。それまでディズニー・ヒロインの頭の中身は空っぽだと皆が思っていたわけだ。今からたった26年前の話である。「美女と野獣」はアニメーション史上初めてアカデミー作品賞にノミネートされた(当時は未だ長編アニメーション部門がなかった)。そして「アナと雪の女王」(2013)年の登場で世界中の女性達が熱狂し、「ありのままで(Let It Go)」生きようと夢見たが、その先には孤独地獄が待ち受けていた。

さて、「モアナ」の話に戻そう。基本ラインは宮崎アニメなのだが他にも様々な映画からの引用があり、てんこもりの出血大サービス、至れり尽くせりのエンターテイメントに仕上がっている。ココナッツ海賊カカモラが登場する場面は明らかに「マッドマックス 怒りのデスロード」だし、宮﨑駿がアイディア構成・原画で参加している東映動画「どうぶつ宝島」(1971)の要素も入っている。吹き矢とかモアナが閉じ込められた洞窟から巨大な銅像を倒して脱出する場面は「レイダーズ 失われた聖櫃(アーク)」だし、海の表現はジェームズ・キャメロンの「アビス」、映画の終盤に半神マウイがモアナの元を去り……という件(くだり)は「スター・ウォーズ エピソード4」のハン・ソロの行動パターンと同じ。

フィジー、タヒチなど南太平洋の神話がベースになっているので日本人にも親しみやすい。つまり多神教の話なんだね。最後に登場するのは全能の女神ティフィティで、これもイエスやその父なる神など男ばかりのキリスト教とは全く違う。日本同様母性が主体なんだ。

人類に火をもたらすマウイはギリシャ神話(←こちらも多神教)におけるプロメテウスである。つまりトリックスターだ(トリックスターとは神話や伝説などで語られるいたずら者。その思いがけない働きによって旧秩序が破壊され、新しい創造が生じるきっかけとなることがある。しかし単なる破壊者として終わることもある)。日本神話(古事記)で言えば須佐之男(スサノオ)が近い。マウイが半神なのも神と人間の間を行き来する存在だからだね。

監督は「リトル・マーメイド」「アラジン」のロン・クレメンツとジョン・マスカー。ディズニーは低迷していた時期に手描きアニメーションを捨て、全てをCGアニメーションに切り替える方針を打ち立てた。それに反発したふたりは2004年に揃って退社した。しかし2006年にジョン・ラセターがチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任すると彼らも復帰し、手描き(セル画)による「プリンセスと魔法のキス」(09)を監督した。今回素晴らしいと感じたのはCGが主体でありながら、マウイの入れ墨が動いたり神話の箇所は手描きの手法を取り入れていること。つまり3Dと2Dのハイブリッドが見事に成し遂げられているのである。

作曲はブロードウェイ・ミュージカル「ハミルトン」でトニー賞を席巻したリン=マニュエル・ミランダ。もう文句なしに魅力的な楽曲である。

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