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大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演/ミュージカル「銀河鉄道の夜」〜宮沢賢治の深層心理にダイブする。

2月20日(月)フェスティバルホールへ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部定期演奏会を聴く。指揮は総監督の梅田隆司先生。

第1部

  • 西村友:ミュージカル「銀河鉄道の夜」吹奏楽版

第2部

  • ロッシーニ(森田拓夢編):歌劇「ウィリアム・テル」序曲
  • プロコフィエフ(高昌帥編):バレエ音楽「ロミオとジュリエット」より
  • アラン・メンケン(ジョン・モス編):映画「美女と野獣」より
    プロローグ〜ベル〜強いぞガストン〜Be Our Guest〜美女と野獣(歌付き)〜奇跡の変身
  • ♪甲子園応援リクエスト・コーナー
    You Are スラッガー(オリジナル曲)〜恋(星野源、恋ダンス付き)〜SHAKE(SMAP)〜三代目 J Soul Brothers メドレー(ダンス付き)
  • 三年間の歩み Part 1(1、2年生篇)
    野田洋次郎、RADWIMPS(宮川成治編):「君の名は」メドレー
    夢灯籠〜前前前世〜スパークル〜なんでもないや
  • 三年間の歩み  Part 2(3年生篇)
    フランチェスコ・サルトール(福田洋介編):Time to Say Goodbye
  • 10期卒業生を送る歌 山村隆太(作詞)、阪井一生(作曲):証
  • ガーシュウィン(建部知弘・森田拓夢編):歌劇「ポーギーとベス」より
  • タケカワ・ユキヒデ(樽屋雅徳編):銀河鉄道999 アンコール
  • 星に願いを アンコール

以前も引用したが、臨床心理学者・河合隼雄は宗教学者・中沢新一との対談本「ブッダの夢」の中で次のように語っている。

 『銀河鉄道の夜』を読んで面白いのは、はじめ、母と息子の物語として出発するんですね。だから、ある意味では、ずっと母性が底流にあるんです。あるんだけれども、チェロのような声をした男の声が聞こえてくるって。最後はしかも、お父さんの帰ることをお母さんに知らせなくちやっていうところで終わります。つまり、非常に厳しい父性もあの中にずっと入ってるんですね。銀河を書いたりする時に、非常に科学的な言葉や客観的な描写が出てきたり、同時に、また母性的なものもあるわけでしょう。
 ところがね、『銀河鉄道999』という漫画は完全におかあちゃんの話になっています。

この物語はジョバンニ=宮沢賢治、カムパネルラ=結核を患い24歳で死去した賢治の妹・トシ(詳しくは賢治の詩「永訣の朝」を参照のこと)として読むことが出来る。この兄妹はある意味、一心同体であり、だから新海誠監督「君の名は。」の瀧と三葉のようでもある。

ジョバンニは【片割れ(=Half Moon)】のカムパネルラと旅をする。しかし実はカムパネルラは既に死んでいる。一方、「君の名は。」の瀧は三葉を探し求めるが、彼女は3年前に死んでいた。両者は物語の構造が同じなのである。「銀河鉄道」とは人の意志に関係なく彼らを運び去ってしまう運命のメタファーであり、「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」「君の名は。」など一連の新海作品に度々登場する鉄道も同様に機能している。

ジョバンニとカムパネルラは一心同体だから、両者合わせて一人の人格と見做すことも可能だろう(名前の由来はイタリア・ルネッサンス時代の哲学者トマソ・カンパネッラだと言われている。その幼名はジョバンニ・ドミニコ。つまり同一人物である)。そして意地悪なザネリの身代わりとして死ぬカムパネルラに対して賢治は明らかに、人類の罪を贖うために十字架にかけられたイエス・キリストのイメージを重ねている。自己犠牲のテーマはタイタニック号の事故で犠牲になった姉弟の登場や、蠍の火のエピソードで繰り返される。そしてアンドレ・ジイドが小説のタイトルに引用した次の警句に繋がる。

狭き門より入れ。滅びにいたる門は大きく、その道は広い。そして、そこから入っていくものが多い。命にいたる門は狭く、その道は細い。そして、それを見出すものは少ない」(マタイによる福音書)

非常に厳しい父性としての一神教の姿がそこにある。祈りの言葉は「天にまします我らのよ」であり、三位一体とは「」と「子(イエス)」と「精霊」を指す。女性は排除されているのだ。またローマカトリック教会の最高位、法王に女性はなれない。

とすると、「ラッコの上着を持って帰る」と約束し、最後まで姿を見せないジョバンニの父親はイエスの父=神と解釈することも可能なのではないだろうか?イエスは父の真意を測りかねて苦しみ、十字架上で「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」と叫ぶ。

一方、天照大御神(女)を頂点とする八百万の神を戴く日本は母性社会である(河合隼雄 著「母性社会日本の病理」を参照されたし)。母性は全てを包み込み、あるいは飲み込むが、父性は切断し、分類し(天と地、光と闇、天使と悪魔など)、客観的に観察する性格を帯びている。この特徴が欧米諸国でのみ近代科学が生まれ、発展した背景となった。0と1のみの二進法で全てを計算し、処理するコンピューターの発明もキリスト教社会だからこそあり得たのである。

「銀河鉄道の夜」には天文学、地質学、生物学、化学など自然科学の知識がふんだんに投入されている。また賛美歌320番「主よ、みもとに 近づかん」が歌われ、タイタニック号の犠牲者たちはサザンクロス(南十字星)駅で降りる。ここで十字架のイメージが重ねられている。

しかしジョバンニは病気の母にミルクを持って帰らねばと心を砕いているし、カムパネルラも「おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか」と常に案じている。この父性母性の絶妙なバランス感覚こそが宮沢賢治の真骨頂なのではないだろうか。ところが松本零士は「銀河鉄道999」でキリスト教的要素=厳しい父性を全て取っ払って、マザー(エディプス)・コンプレックスの物語に換骨奪胎してしまった。

さて本題。定期演奏会の感想である。事前に劇団ひまわり版「銀河鉄道の夜」(Bキャスト)DVDを6回鑑賞して臨んだ。いやもう、西村友が作曲した音楽が素晴らし過ぎて心を奪われ、ジョバンニを演じた石川由依(アニメ「進撃の巨人」ミカサの声を担当)の名演にぞっこんになった。

劇団ひまわり版は1時間50分あるので大阪桐蔭版がダイジェストになるのは致し方ないのだが、活版所などジョバンニが銀河鉄道に乗るまでのエピソードと、白鳥の停車場〜プリオシン海岸の場面がすっぽりカットされたのは残念だった。♪大切なことは忘れないこと!♪がなかったのはちょっと寂しい。

オリジナルはピアノ・ヴァイオリン・チェロ・ホルン・クラリネット・ハープ・パーカッションという7人編成だが今回は大編成の吹奏楽版。やっぱり迫力が違う。♪ラッコの上着♪で大太鼓の音がズシンと腹に来た。タイタニック号沈没の場面での♪救い給え、この子らを♪はバス・クラリネット、バリトン・サックスなどの低音群が不気味に響き、実に効果的だった。またこの曲や、僕が大好きなナンバー♪ケンタウルスを追いかけて♪ではステージいっぱいにマーチングが展開され、何と鮮やかだったことか!♪バルドラのサソリ♪では隊列で蠍の姿を表現し、成る程なと感心することしきり。あとサザンクロス駅の場面で背景のスクリーンにKAGAYAが製作したプラネタリウム版「銀河鉄道の夜」が映し出されてびっくりした!

Kagaya

これ、とっても映像が綺麗なんだ。ただプラネタリウム版が痛いのは音楽が安っぽいこと。でも西村友作曲の方なら全く問題なし。

第2部は両サイドにアイーダ・トランペットを配し、華やかに始まった。「ウィリアム・テル」と全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞した「ポーギーとベス」を(共同)編曲した森田拓夢くんはアルト・サクソフォンを吹く3年生。なお、桐蔭の練習場には最近、梅田先生のアイディアでミラーボールが設置されたそう。

プロコフィエフではチューバとコントラバスによる引き摺るようなリズムが印象的。

「美女と野獣」については最近、面白い発見があった。

桐蔭の演奏はファンタスティックで、一つのメルヘンが感じられた。

そして、「君の名は。」4曲メドレーには甚く感動した。なんて洒落たアレンジだろう!歌が入った♪なんでもないや♪もとっても素敵。また何度でも聴きたい。

そしてクライマックスは「ポーギーとベス」。僕は例年通り55人による全日本吹奏楽コンクール版で演奏するのかと思いきや、最優秀グランプリ/文部科学大臣賞を受賞した大人数による日本管楽合奏コンテストバージョンだった。吹コンでは金賞を受賞したものの、冒頭でクラリネットが「ピャッ!」と奇声を発したり、♪サマータイム♪でフリューゲルホルンのソロが出だしをミスったりと幾つかの瑕があった。しかし今回のフリューゲルホルンはパーフェクトだったし、吹コンよりさらに進化していたので、心底驚嘆した。振付が入ったり、最後の♪Oh Lawd, I'm On My Way♪では合唱が入ったりと最高に愉しい!

僕が桐蔭の演奏を初めて聴いたのは2007年全日本吹奏楽コンクール@普門館のドビュッシー「海」だった。2009年に全国大会で初めて金賞を受賞したオルフ「カルミナ・ブラーナ」も普門館で聴いた。そして自信を持って断言しよう。今回の「ポーギーとベス」こそ、創部以来のベスト・パフォーマンスであると。梅田先生はワーグナーやプッチーニ、エルガーなどクラシック音楽を指揮される時よりも、JAZZやROCKの方が生き生きしているし、冴えている。「ポーギーとベス」はなんかもう突き抜けていた。ちゃんとブルースしているし、リズムのセンスやグルーヴ感が抜群なんだ。レナード・バーンスタインもオペラ的な「キャンディード」よりJAZZYな「ウエストサイド・ストーリー」の方が断然いい。梅田先生、是非これからもこの路線で突っ走ってください。

またアンコールの「銀河鉄道999」について、僕は毎年定演のレビューで「照明が暗すぎる。これでは生徒さんの顔が識別できない」と文句を書き続けてきた。ところが今回、前奏が終わるとステージが明るくなったのである!「星に願いを」も美しかったし、今年の照明スタッフは本当に素晴らしかった。あとバルーンの銀河鉄道がホールを斜めに駆け上る演出もジーンとしたなぁ。

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