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2017年2月 2日 (木)

「君の名は。」英語主題歌版(台詞は英語字幕付き)体験記

新海誠監督「君の名は。(Your Name.)」が4月7日より全米とカナダの劇場にて200スクリーン以上の規模で上映されることが決まった(配給はFunimation Films)。それに伴いRAWPIMPSの野田洋次郎くんが新たに英語詞を書き下ろした歌バージョンの上映をミント神戸で観てきた。因みに兵庫県ではここ1館でしか上映されていない(東宝の映画なのに、何でTOHOシネマズでやってくれない??)。台詞は日本語で英語字幕付き。予習としてEnglish ver.をiTunesからダウンロードし、歌詞とにらめっこしながら繰り返し聴いて頭に叩き込んだ。野田くんは幼稚園のときにアメリカのナッシュビルに引っ越し、ロサンゼルスの小学校などを転々としながら10歳で帰国したという。だから当然英語は自家薬籠中の物で、英語詞も実にこなれている。オリジナルはこっちじゃないか?というくらいの完成度の高さ。

6回目の鑑賞である。因みに僕が一番たくさん映画館で観た作品は高校生の時に封切られた「E.T.」の7回(@テアトル岡山、2003年11月3日に閉館)。ただし最初は試写会で観たし(同級生から招待ハガキを100円で買い取った)、シネコンが登場するより前の時代なので、当時は入れ替え制/指定席ではなく、連続して2回観ることも可能だったのである。「君の名は。」はちゃんと6回お金を払いました。

僕の前に座った女性は50歳位の母親を同伴していた。「私は2回目だから、お母さんは真ん中に座りなよ」と話していたので母親の方は初回と思われる。こんな特殊な上映が最初で大丈夫か?と訝った。また一席空いて僕の左隣には中年夫婦が座っていた。上映が始まり、映画冒頭で三葉がスマホにセットしたアラームが鳴る。突如隣のオバちゃんが「あれ、誰かの携帯が鳴っとる!私のかしら?」と慌ててカバンをゴソゴソし始めた。この人も初心者か!心底びっくりした。

初公開から既に5ヶ月以上が経過した。それでも「君の名は。」は未だ映画館に一度も足を運んだことのない潜在的な観客を掘り起こし続けている。これは凄いことだ。

英語の歌詞は日本語と比較して情報量が多いので、新たな発見もあった。例えば冒頭の「夢灯籠」である。

あぁ 雨の止むまさにその切れ間と 虹の出発点 終点と
この命果てる場所に何かがあるって いつも言い張っていた

この「言い張っていた」の主語は「君」だとずっと信じていた。ところが英語版は

And where the end of this light flies, I've always been insisting there was something that I've been longing for

となっており、「僕」だったんだ!とびっくりした。また「前前前世」の歌詞「何光年」が英語では"millions of light-years"(何万光年)に変更されているのも、スケールアップしていて可笑しい。

他にも色々と英語の勉強になった。具体例を幾つかあげよう。

  • 「夢灯籠」unprecedented:前例のない
  • 「前前前世」eyes glow:目が光る、waver:たじろぐ
    unfettered:束縛されない、自由な
    come up with a verse:歌詞を思い付く、ひねり出す
  • 「スパークル」tame:飼いならす、hourglass:砂時計
    skim through:飛ばし読みをする、ざっと目を通す
    doze off:うたた寝をする、lukewarm:なまぬるい
    mildew:白カビが生える
    second,hour hands of the clock:時計の秒針、時(短)針
    every word stacked:山のように積み重ねられた言葉
  • 「なんでもないや」gust of wind:一陣の風
    make it here:ここに到着する、come short:もの足りない
    glee:(サンタクロースが)ほくそ笑む
    ⇔「スパークル」の「君」にはgrin(歯を見せて笑う)という動詞が
    当てられている。
    showy crier:派手に泣く人

Zenzenzense だけ日本語のままというのが興味深い。相応しい英単語が見つからなかったのかな?

また「前前前世」で、

君の髪や瞳だけで胸が痛いよ
同じ時を吸いこんで離したくないよ

この箇所で英語版はリズムを変えている(三連符の一部で音を刻まずに伸ばす)。しかし2番の歌詞では日本語版と同じく全て刻んで歌っている。

さて、英語字幕では日米(英)の文化差が浮き彫りにされて面白い。例えば四葉は三葉のことを「おねぇちゃん」と呼ぶが、字幕では"MItsuha"。瀧は奥寺先輩に"Ms. Okudera"と呼びかける。該当する言葉がないんだね。

瀧に憑依した三葉が高校で初めて司と会う場面の会話、

「……ツカサ、くん?」「はは、くん付け?」

のくだりは字幕で完全無視。こういうニュアンスも英語では醸し出し難いのだろう。

あとハッとしたのが「隠り世(かくりよ)/あの世」が英語では"Underworld"となっていたこと。そうか、キリスト教の"Heaven"でも"Hell"でもないんだ。"Underworld"はギリシャ神話に登場する黄泉の国に該当する。つまりこれを訳した人はオルフェウスとエウリディケの物語が念頭にあるんだね。それは日本のイザナギ、イザナミに繋がっている。

以下余談。彗星の軌道問題(2回目のニュースから物理学的に作画が間違っている)は未だ修正されていなかった。

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コメント

こんにちは。先日、他欄にてコメントさせていただいたinitiatehispupilと申します。 私の居住地では英語字幕版の放映は叶うべくもありませんので、とっても羨ましい、のです。それはさておき、
幾度か指摘なされている彗星軌道の描写ミスについてですが、私はもしかするとわざとなのではないのか?と考えています。
月刊「ムー」1月号の新海監督のインタビューにて、監督自身が「映画ラスト近くのシーンでテッシーが持つ『ムー』の表紙に『ティアマト彗星人工天体説』の見出しを描きました。ほとんど誰も気付かないでしょうけれど」と応えています。人工天体であるゆえ不自然なんやよ、と。
また、私自身は、あの彗星は地球のカタワレの生命体であって、1200年毎に妻である地球に逢いに来てそのつど交合している夫、あるいは地球との双子なのではないのか、と考えています。
糸守に3度も落ちるのも、そこが地球の局部だからなので(瀧くんが幻覚を観るシーンで、彗星が紐→竜→地球に突入して精子に変貌し、受精卵へ、という描写がありました。)、それでは住民にそのつど迷惑がかかる故に(隕鉄で栄えるとしても)、宮水の巫女の能力を授けて回避させている、のではないのか、と。
これらはあくまで裏設定、というかトンでも設定なので、「映画の公開中は表に出せないケド、ムーの表紙や不自然な彗星軌道の描写を観て分かる人だけ察してネ、ディスクが出たらじっくり確認してネ」ということなのではないか?だから軌道が彗星ではあり得ない、おかしいという新海監督らしからぬミスをあえてしているのではないのでしょうか。
もっとも、あっさり販売時には修正されるかもしれませんが・・・。

長文失礼しました。実は、三葉が髪を切った理由や繭五郎の大火についてもそれなりに考えています。御迷惑でなければコメント欄等に投稿させていただきたいなぁ、なんて思っとります。

投稿: initiatehispupil | 2017年2月 5日 (日) 14時58分

initiatehispupilさま

コメントありがとうございます。ティアマト彗星は1200年周期で糸守に片割れを3回も落として行くけったいな存在ですから、物理学を無視した軌道を描くことがあってもいいと想っています。但しですね、問題はこの変な軌道予想は【ニュース報道】なのです。それはあり得ないですよね。だって彼らは日本に隕石が落ちるという予想すら出来なかったのですから。「君の名は。」のプロデューサー古澤佳寛さんにTwitterで彗星の軌道問題についてお尋ねしたところ、「その箇所は修正予定ですよ。」とご返事を頂いております。

三葉が髪を切った理由や繭五郎の大火についても是非ご意見をお聞かせください。では。

投稿: 雅哉 | 2017年2月 5日 (日) 18時11分

修正されることが分かっていたのですね。
ご教示ありがとうございました。

投稿: initiatehispupil | 2017年2月 5日 (日) 22時48分

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