ミュージカル「ミス・サイゴン」 2017
1月1日(元旦)と7日(土)に梅田芸術劇場で「ミス・サイゴン」を観劇した。過去の観劇歴や作品紹介、新旧演出の違いについては下記事に詳しく書いたのでご参照あれ。
- 「ミス・サイゴン」の想い出(2008年帝劇)
- 大阪初上陸!ミュージカル「ミス・サイゴン」(2013年)
- 「ミス・サイゴン」2014(映画化についても言及)
結局1992年帝劇初演以降、トータルでこのミュージカルを9回観たことになる。長年の付き合いなので、亡くなった関係者たちのことを観劇中に想うことが多くなった。キム役で渾身の演技を見せた本田美奈子、そして美しい日本語訳を紡いだ岩谷時子……。
さて元旦のキャストは、
7日のキャストは、
初演以来エンジニアを演じ続けてきた市村正親が今回でファイナルと銘打たれているのだが、ファンは誰も信じていない。宮﨑駿みたいな「引退詐欺」だと皆知っている。非難じゃないよ、許容して「またか」と温かい目で見守っているのだ。
市村には前科がある。2009年の「ラ・カージュ・オ・フォール」は【市村ザザ、ファイナルステージ!】とポスターに銘打たれていた→証拠写真はこちら。しかしその後も市村は「ラ・カージュ」の舞台に立ち続けている。
案の定、元旦公演で市村は「今回が最後ということになっているのですが(客席から笑い)、演ってみるとまだまだ行けそうだなと感じました(客席拍手)。再び皆様の前にエンジニアとして舞台に立つことが私の夢となりました」と挨拶した。お約束の展開である。
いやもう、いっちゃん以外のエンジニアは考えられないから。命の続く限り演ってください。
キムは笹本玲奈が一番好き。彼女は強い感情を歌に乗せることが出来る。凄みがある。
キム・スハは初めて。彼女の日本語は問題なかった。感情表現では笹本が一枚上手だが、非常に弱音が美しい歌い方をする。どんなプロフィールなのか調べてみて仰天した。なんと本場ロンドンの「ミス・サイゴン」でもキム役を演じたそうである。韓国人としてウエストエンドで主役(ファーストカバー)を務めるのは史上初なのだとか(彼女のインタビュー記事はこちら)。2015年2月に日本で「ミス・サイゴン」のオーディションを受けた後、韓国に戻るとイギリス側から「ウェストエンドの同役に挑戦してみないか」との誘いがあったのだそう。
ジジ役の中野加奈子もウエストエンドで同役を務めたということで、圧巻の歌唱だった。
久しぶりにこの作品に接して、エンジニアはトリックスターの役割を担っているんだなと初めて理解した。トリックスターとは神話や伝説などで語られるいたずら者。その思いがけない働きによって旧秩序が破壊され、新しい創造が生じるきっかけとなることがある。しかし単なる破壊者として終わることもある。ギリシャ神話のプロメテウス、古事記のスサノオ、シェイクスピア「夏の夜の夢」の妖精パックがその代表例である。エンジニアはベトナム(アジア/仏教徒)とアメリカ(欧米諸国/キリスト教徒)を繋ぐ役割を果たす。そもそも彼はフランス人とベトナム人の混血であり、考えてみればキムとクリスの息子タムと似たような境遇であることは興味深い。一方、ミュージカル「エビータ」のチェや「エリザベート」のルキーニ、「キャバレー」のM.C.はあくまで司会進行役/狂言回しであり、トリックスターではない。しかし「ジーザス・クライスト・スーパースター」に登場するイスカリオテのユダはトリックスターだよね。だって彼の裏切りがあって初めて物語は完結し、キリスト教が創造されるのだから。
元旦公演は出演者によるステージ上での鏡開きと、その後ロビーでの振舞い酒があった。
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