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2016年12月

2016年12月31日 (土)

ジャック・ドゥミ「港町三部作」から聖林ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」へ

今年度アカデミー作品賞・監督賞の有力候補であり、作曲賞・歌曲賞の受賞はほぼ100%間違いない映画「ラ・ラ・ランド」はMGMミュージカルの黄金期「踊るニュウ・ヨーク」(1940)、「巴里のアメリカ人」(51)、「雨に唄えば」(52)、「バンド・ワゴン」(53)やボブ・フォッシー監督の「スウィート・チャリティ」(69)を彷彿とさせる仕上がりであり(公式サイトの予告編を観れば一目瞭然)、そして何よりジャック・ドゥミ監督のフランス映画「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」へのオマージュとなっている。音楽そのものも、もうイントロを聴いただけで、ミシェル・ルグランが作曲した「ロシュフォールの恋人たち」への熱烈なラヴ・レターであることは火を見るより明らかだ(特に”キャラバンの到着”)。

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ジャック・ドゥミは港町ナント(現在は「熱狂の日」音楽祭=ラ・フォル・ジュルネ発祥の地として有名)で幼少期を過ごした。その頃の様子は後にドゥミと結婚した映画監督アニエス・ヴァルダ(「幸福」でベルリン国際映画祭銀熊賞)が「ジャック・ドゥミの少年期」(1991)で生き生きと描いている。

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ドゥミとヴァルダ、そしてアラン・レネは(セーヌ川の)左岸派と呼ばれ(対する映画批評家出身のトリュフォー、ゴダール、ロメールらはカイエ派/右岸派)、ドゥミの長編映画デビュー作「ローラ」は「ヌーヴェルヴァーグ(=新しい波)の真珠」と讃えられた。

ふたりは一男一女をもうけた。ドゥミは1990年に59歳で亡くなり、死因は白血病と発表された。しかし2008年になってヴァルダはドキュメンタリー映画「アニエスの浜辺」で実はAIDSで亡くなったのだったと告白した。ということはドゥミはバイセクシャルであり、50歳を過ぎても男の恋人(あるいは男娼)と関係があったことを意味している。それでもアニエスが心の底からドゥミを愛していたことは「ジャック・ドゥミの少年期」を観れば判る。まこと愛とは計り知れないものである(ミュージカル「コーラスライン」の演出・振付をしたマイケル・ベネットは87年、映画「愛と悲しみのボレロ」で有名なダンサーのジョルジュ・ドンは92年にやはりAIDSで亡くなった。この病気をテーマにし、トム・ハンクスがアカデミー賞主演男優賞を受賞した映画「フィラデルフィア」が公開されるのは93年である)。

ナントを舞台にした「ローラ」(1961)は白黒でミュージカルではない(ドゥミはカラーのミュージカル映画として撮りたかったのだが、予算が足りなかった)。しかしカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した総天然色映画「シェルブールの雨傘」(1964)は明白な「ローラ」の続編である。踊り子ローラに恋する主人公ローラン・カサールが失恋しナントの街を去る場面で「ローラ」は終わる。そして「シェルブールの雨傘」でカサールは宝石商として登場、どちらもマルク・ミシェルが演じている。ミシェル・ルグランは「ローラ」から音楽を担当しており、「ローラ」に於けるカサールのテーマが、そのまま「シェルブール」でも使用されている。で「シェルブール」でカサールがローラのことを歌う回想シーンでナントの街並みが映し出されるのだが、「シェルブール」が公開された64年当時「ローラ」は日本未公開で、日本の観客にはチンプンカンプンだったろう(日本初公開は92年)。現在はアニエス・ヴァルダが監修し2012年に完成した「ローラ」デジタル完全修復版がDVD,Blu-rayで容易に入手出来る。

「シェルブール」が画期的だったのは全篇が歌で構成されており、通常のダイアログは皆無であること。ハリウッドのミュージカル映画やブロードウェイ・ミュージカルでは前例がない手法だ。「シェルブール」の後にヨーロッパでは「レ・ミゼラブル」や「エリザベート」「ロミオ&ジュリエット」など同様のスタイルの舞台ミュージカルが生まれた。

「ローラ」「シェルブールの雨傘」そして「ロシュフォールの恋人たち」(1967)は港町三部作と呼ばれており、3作品ともに水兵が街を歩いている風景が映し出される。また「ロシュフォールの恋人たち」でカフェの常連客である老紳士はパリのフォリー・ベルジェールの売れっ子ダンサーだった60歳のローラに40年間恋し続け、遂には切り刻んで殺してしまうというエピソードがある(以上は新聞記事として語られる)。ゆえにこれらをローラ三部作と呼ぶ人もいるのだが、ここでややこしいのがドゥミがベトナム戦争下のアメリカで撮った「モデル・ショップ」(1968)という作品があり、ここでも「ローラ」のアヌーク・エーメがローラを演じている(日本初公開は2007年)。故にローラ四部作??但し、残念なことに「モデル・ショップ」のみ音楽がミシェル・ルグランではなく、ドゥミは「モデル・ショップ」を失敗作と認めている。

「シェルブールの雨傘」でカトリーヌ・ドヌーヴの歌の吹き替えをしているのがダニエル・リカーリ、「ロシュフォールの恋人たち」で吹き替えしているのがア・カペラ・ヴォーカル・グループ「ザ・スウィングル・シンガーズ」のメンバー、アンヌ・ジェルマン。つまり両者でドヌーヴの歌声が違うわけで、その辺は緩い。因みに「ザ・スウィングル・シンガーズ」にはミシェル・ルグランの姉クリスチャンヌもいて、やはり「ロシュフォールの恋人たち」サントラで歌っている。またドゥミの作品にはハリウッド映画への憧れが濃密で、「ロシュフォールの恋人たち」には「雨に唄えば」「巴里のアメリカ人」のジーン・ケリーや「ウエストサイド物語」のジョージ・チャキリスが出演している。

余談だが「ロシュフォールの恋人たち」でドヌーヴと共演した姉フランソワーズ・ドルレアックはこの映画が公開された年、別の映画の追加撮影の為ニース空港に向かう運転中に高速道路のカーブを曲がり切れず激突、車は横転、炎上した。享年25歳だった。

「シェルブール」と「ロシュフォール」で個性的なのはCandy Colorsと評される鮮やかなである。と言い換えることも出来る。ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの象徴となっているレインボーフラッグを彷彿とさせる。そしてそのは「ラ・ラ・ランド」にも受け継がれている。

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2016年12月28日 (水)

2016年を振り返って

2016年を回顧して、僕が今年を1文字の漢字で表すなら「」以外にないなと想う。

これは「将来の夢」とか、キング牧師の有名な演説"I have a dream"の夢(=希望・願望)ではなく、文字通り夜見るのことである。

何と言っても臨床心理学(ユング派)の権威・河合隼雄と、新海誠監督「君の名は。」の出会いが大きかった。この両者を結びつけるのがであり、言い換えるなら無意識潜在意識/深層心理ということになるだろう。

そもそも河合隼雄の名を知った切っ掛けが今年7月、佐渡裕プロデュースで兵庫県立芸術文化センターで上演されたブリテンのオペラ「夏の夜の」の予習として読んだ対談本「快読シェイクスピア」(ちくま文庫)だった。詳しくは下記事に書いた。

漸く人生の師MasterMentorに出会った!という確かな手応え。それから河合の著書を貪るように読んだ。年末までに27冊。過去にこれだけ集中して読んだのは、ちょっと記憶にない。

河合と「君の名は。」の”結び”はだけではない。新海誠監督は第2弾パンフレットの中で僕の質問に答え、村上春樹の短編小説「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」が「君の名は。」の発想の原点となったことを認めており、奥寺先輩の台詞には村上の「ノルウェイの森」からの引用がある。そして河合は数回に渡り村上と対談をしているのである(「こころの声を聴くー河合隼雄対話集」「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」いずれも新潮文庫)。

また河合はイザナギ・イザナミが登場する日本神話(古事記)や平安時代の「とりかへばや物語」について本を書いており、これらは「君の名は。」の土台となっている。

僕が同時期に河合隼雄と「君の名は。」にめぐり逢ったのも、正にユングが言うところのシンクロニシティ意味のある偶然の一致)なのであろう。

つい先日「君の名は。」について川村元気プロデューサーが集合的無意識の話をしている→こちら集合的無意識とはユング心理学の用語である。みんな繋がっている。僕も映画公開直後、9月の時点で集合的無意識という観点から「君の名は。」を論じた。

夢はその人の潜在意識の現れである。意識(その中心に自我+潜在意識=自己(self)。僕は今年から「夢日記」を書き始めた。2016年は人生の大きな転機となった。

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桂文三 三番勝負 ー其の壱ー 柳家喬太郎の巻

12月27日(火)天満天神繁昌亭へ。

  • 桂三語:手水廻し
  • 桂文三:時うどん
  • 柳家喬太郎:ウルトラ仲蔵
     中入
  • 桂文三:三枚起請

約5割が女性客。

「時うどん」は文三の鉄板ネタで、声が高い喜六がとにかく陽気。後うどんを食べる時の擬音が上手い。

喬太郎は登場するやいなや、「今日の髪型、ドナルド・トランプに似てるでしょ?」で場内爆笑。文三からのリクエストという「ウルトラ仲蔵」はハードルの高い新作落語。江戸の人情噺「中村仲蔵」をベースに、ウルトラ兄弟やウルトラの怪獣たちで描く。上方の客は「中村仲蔵」を知らない人が多いし、ウルトラマンを観たことがない人にはチンプンカンプンでイメージすら湧かないだろう。僕は幸い、5歳の息子と一緒に「ウルトラQ」「(初代)ウルトラマン」「ウルトラセブン」「帰ってきたウルトラマン」を全話レンタルDVDで観ていたので、十分愉しめた。

ケムール人やバルタン星人、大阪城を破壊したゴモラなどが暴れまわる。ウルトラマンキングには鼻がないという小ネタあり。喬太郎のDVD「ウルトラマン落語」にも収録されていないので、これは貴重な体験だった。

そもそもウルトラマンが大好きで意気投合した喬太郎と文三。新春の新聞に文三は「ウルトラマニア芸人」として登場するそう。

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2016年12月27日 (火)

2016年 映画ベスト 30 +α

対象となるのは今年日本で初めて劇場公開された作品である。なお、映画賞やベストテンを賑わせている、「湯を沸かすほどの熱い愛」「淵に立つ」は残念ながら未見。またデンマーク/ドイツ映画「ヒトラーの贈り物」を観てから選出しようと目論んでいたのだが、大阪では12/31大晦日からの公開(!!)で、神戸では1/21からと判明したので断念した。来年に回す。

映画タイトルをクリックすると各々のレビューに飛ぶ。

  1. 君の名は。
  2. シン・ゴジラ
  3. ソング・オブ・ザ・シー 海の歌
  4. 劇場版 響け!ユーフォニアム〜北宇治高校吹奏楽部にようこそ〜
  5. サウルの息子
  6. ルーム
  7. ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
  8. この世界の片隅に
  9. レヴェナント:蘇えりし者
  10. スポットライト 世紀のスクープ
  11. FAKE
  12. ブリッジ・オブ・スパイ
  13. スティーブ・ジョブズ
  14. マジカル・ガール
  15. エクス・マキナ
  16. ハドソン川の奇跡
  17. ブルックリン
  18. シング・ストリート 未来の歌
  19. リップヴァンウィンクルの花嫁
  20. 怒り
  21. オーバー・フェンス
  22. リリーのすべて
  23. ザ・ウォーク
  24. キャロル
  25. ジャングル・ブック
  26. 海よりもまだ深く
  27. ズートピア
  28. ヘイトフル・エイト
  29. ちはやふるー上の句・下の句ー
  30. トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
  31. クリムゾン・ピーク
  32. 永い言い訳
  33. ピートと秘密の友達

今年は日本映画が元気で、特にアニメーションの充実度が半端なかった。どうか「君の名は。」が米アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされますように!……僕はどうもアメリカの配給会社Funnimation Filmsの宣伝戦略に疑問を感じていて、不信感がどんどん募って仕方がないんだよね。

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2016年12月26日 (月)

ピートと秘密の友達

評価:B+

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ディズニー映画「ピートとドラゴン」(1977年、日本未公開)のリメイクである。実写とアニメを融合した映画で、ドラゴンのみアニメだったという。

Pete

「ピートとドラゴン」が北米で公開されたのは「スター・ウォーズ」「未知との遭遇」と同じ年で、ディズニー・スタジオはどん底の状態だった。ジョン・ラセターがディズニーに入社するのは1979年、同じ頃、ブラッド・バード(アイアン・ジャイアント、Mr.インクレディブル、レミーのおいしいレストラン)も入社するが、程なくボスと対立して去り、やがてラセターも解雇される。

一般的にドラゴンは爬虫類であり、肌はつるつるというイメージだが(オリジナルのセル画もそう)、「ピートと秘密の友達」のドラゴンは体中に毛が生えたもふもふ系(英語で表現すればfurry)で、僕は「ネバー・エンディング・ストーリー」を想い出した。

Neverendingstory

プロットとしてはスピルバーグの「E.T.」やバードの「アイアン・ジャイアント」と似通っていて新鮮味がないが、人間ドラマが充実しており(ロバート・レッドフォードも登場)、質が高い作品に仕上がっている。CGの出来は悪くないが、実写版「ジャングル・ブック」の後だから分が悪い。

僕は5歳の息子と鑑賞したが、子供向き映画として推薦したい。

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2016年12月21日 (水)

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 サンタコンサート 2016 & 全日本吹奏楽コンクール「ポーギーとベス」の感想

12月17日(土)、5歳の息子を連れて大阪ビジネスパーク TWIN21アトリウムへ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部のサンタコンサートを聴く。指揮は梅田隆司先生。

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まず最初にマーチングのパフォーマンスあり。

  • 歌劇「アイーダ」凱旋行進曲
  • 映画「スター・ウォーズ」メドレー
  • ミュージカル「キャッツ」メドレー

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続いて座奏に移り、子ども向けのコンサートが始まる。

  • ジングル・ベル
  • 映画「ライオンキング」メドレー
  • 映画「となりのトトロ」さんぽ、となりのトトロ
  • 映画「ハウルの動く城」世界の約束
  • 魔法使いプリキュア!
  • 動物戦隊ジュウオウジャー
  • 赤鼻のトナカイ

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すでに息子には大阪四季劇場でミュージカル「ライオンキング」と「キャッツ」を観せているので、今回はすごく興味を持って目をキラキラさせながら聴いていた。この日は他にキッズプラザ大阪(コーイチシェフのスイーツ工房に参加)とか公園にも行ったのだが、「みんな愉しかった!」とご機嫌だった。

さて、大阪桐蔭は今年、全日本吹奏楽コンクールで5年ぶりに金賞に輝いた(前回は2011年、自由曲はワーグナーの楽劇「ワルキューレ」)。僕は2016年度の金賞団体を集めたBlu-ray Discで鑑賞した。心が震えるくらい素晴らしかった!

銀賞に終わった2014年の自由曲「キャンディード」や2015年の「蝶々夫人」を聴いたときは「何か違う」と喉に骨が引っかかったような想いを最後まで払拭出来なかった。硬いというか萎縮しているというか……。僕は原曲であるミュージカル「キャンディード」やオペラ「蝶々夫人」の舞台を観ているのだが、桐蔭の演奏から元々の歌("Make Our Garden Grow"や”ある晴れた日に”)を残念ながら連想出来なかった。曲(アレンジ)が吹奏楽に合っていなかったというのもあるだろう。

しかし今年の自由曲ガーシュウィンの歌劇「ポーギーとベス」(建部知弘・森田拓夢 編)は水を得た魚という表現がピッタリで、見違えるようだった。まずサウンドが垢抜けている(英語で言えばsophisticated)。スポーンと抜けるような青空が眼前に広がるのだ。また”サマータイム”のフリューゲルホルンや、”いつもそうとは限らない(It Ain't Necessarily So)”のトロンボーン・ソロはアンニュイな(気怠い)感じが凄く出ていて、「これぞブルース!」と快哉を叫びたくなった。そこには伸びやかな歌があった(実際に練習時に歌ったのでは?)。現在の桐蔭はストコフスキーやオーマンディ時代の「フィラデルフィア・サウンド」に一番近いのではないかとすら感じられた。これだけ洗練されたジャズの音が出せるのなら、ミシェル・ルグランが作曲したミュージカル映画「ロシュフォールの恋人たち」の音楽(特に”キャラバンの到着”!)なんか、最高に似合っているんじゃないだろうか?(視聴はこちら)因みにこの曲は宮川彬良の卓越した吹奏楽アレンジがある。また今度のアカデミー賞で歌曲賞と作曲賞を受賞するのは100%間違いない、ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」の音楽(作曲は「セッション」のジャスティン・フルビッツ)も将来是非、大阪桐蔭の演奏で聴いてみたいと、ここで熱くリクエストしておく(公式サイトはこちら、お洒落なこちらのミュージック・クリップもどうぞ)。イントロを聴いた瞬間に判る、「ロシュフォールの恋人たち」への鮮烈なオマージュだ(でも、ちっとも模倣じゃない)。閑話休題。

コンクールの話題に戻るが、桐蔭が選んだ課題曲はIII:「ある英雄の記憶 」(西村友)。ゲーム(RPG)とか大河ドラマの音楽を彷彿とさせる。こちらも非常に物語性が感じられる充実した演奏だった。

2月に開催される定期演奏会で「ポーギーとベス」が演奏される筈なので、生で聴けるのが今からもの凄く愉しみだ。

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2016年12月20日 (火)

「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(IMAX 3D)あるいは、イノさんとクロさんのこと。

評価:A+

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これはフォースという特別な力を持つ「選ばれし者」(=スカイウォーカー一家)ではなく、「ならず者」「ごろつき」( =rogue )たちが希望を繋ぐ物語である。正に最後は希望(=設計図という名のバトン)を次から次へと手渡ししていく。ゴール地点は言うまでもなくエピソード4/新たなる希望(New Hope)だ。そこで初めて「スター・ウォーズ」のテーマが鳴り響き、未曾有の感動へと観客を誘う。実に鮮やか!

「スターウォーズ エピソード5/帝国の逆襲」惑星ホスでの戦いで【ローグ中隊】というのが登場するが、その名前のいわれが本作であるとも言える。

ドニー・イェンが座頭市(またはドン・キホーテ)、チアン・ウェンがその相棒(サンチョ・パンサ)役で、中国の役者を起用しているのは今や米国に次ぐ巨大な市場となった中国の観客への目配せだろう(エピソード4でジョージ・ルーカスはオビ=ワン・ケノービ役を三船敏郎にオファーしたが、断られている)。それにしてもドニー・イェンの殺陣は凄い!因みにマット・デイモン主演、リドリー・スコット監督「オデッセイ」では唐突に現れた中国人が主人公救出に貢献している。

「エピソード4」が黒澤明監督(クロさん)の「隠し砦の三悪人」をベースにしていることは誰もが知っているが、一方ローグ・ワンの主要メンバーはドロイドのK-2SOを含め六人。さらに反乱軍戦士ソウ・ゲレラを加えると「七人の侍」になる。

ヒロイン・ジンの父ゲイレン・アーソはデス・スターという強力な破壊兵器を開発したことを悔いている。彼の人物像は明らかに原子力爆弾を開発したロバート・オッペンハイマーに重ねられている。そして原爆や水爆を彷彿とさせる描写があるのだが、考えてみたら水爆実験から生まれるのがゴジラで、ギャレス・エドワーズ監督はハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」(2014)年を撮っているんだよね。で初代「ゴジラ」の監督が本多猪四郎(イノさん)。イノさんとクロさんは朋友で、イノさんはクロさんの「影武者」で監督部チーフ、「乱」「夢」「八月の狂詩曲」「まあだだよ」で演出補佐を務めている。そして奇しくも初代「ゴジラ」と「七人の侍」の公開年はどちらも1954年。全てが繋がっている。

「ローグ・ワン」を一言で評すなら第二次世界大戦映画だ。ナチス・ドイツ占領下のフランスにおけるレジスタンス(「パリは燃えているか?」)に始まり、オッペンハイマーの苦悩となり、最後ビーチでのバトルはノルマンディー上陸作戦(「史上最大の作戦」「プライベート・ライアン」)だ。

デス・スターの指揮官を務めたターキン総督が出てきて、亡くなったピーター・カッシングそっくりだな!とびっくりしたのだが、どうやらガイ・ヘンリーという役者が演じ、後で顔をCGで合成したらしい。現在のテクノロジー、恐るべし(ただ声は明らかに別人だった)。最後のカットにも度肝を抜かれた(ネタバレになるからここには書かない)。

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2016年12月19日 (月)

プラジャーク・クヮルテット×関西弦楽四重奏団

12月9日(金)大阪倶楽部へ。

チェコのプラジャーク・クヮルテットと関西弦楽四重奏団で、

  • ボロディン:弦楽四重奏曲 第2番 (プラ)
  • ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲 第10番 (関西)
  • メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 (合同)

ボロディンの第1楽章はノスタルジック。第2楽章には瞬発力があり、第3楽章はチェロ(上森祥平)が朗々と鳴り響く。豊かな歌が胸に滲みた。

プラジャークの音色は古い木目を連想させる。穏やかで、落ち着いた茶色の音。その色彩はプラハの街並みに繋がっている。

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ドヴォルザークの第2楽章は民族色豊かでボヘミアの田園風景が脳裏に浮かんだ。

合同合奏によるメンデルスゾーンは奏者たちが実に楽しそうに弾いているのが印象的だった。特にチェロの上森祥平とミハル・カニュカ。覇気があり、音がうねる。終楽章は動的で、鹿の跳躍を想わせた。

SQ2団体が必要なので八重奏曲をライヴで聴く機会はめったにない。貴重な体験だった。

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2016年12月15日 (木)

ミュージカル・スター!〜ラミン・カリムルー@大阪

12月14日(水)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティーへ。ラミン・カリムルーのコンサートを聴く。

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ラミン・カリムルーのことを初めて知ったのはミュージカル「レ・ミゼラブル」25周年記念コンサート(Blu-ray, DVD発売中)だった。かれはアンジョルラスを演じて強烈な印象を視聴者に与えた。

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その後プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュは「オペラ座の怪人」25周年記念コンサート(Blu-ray, DVD発売中)でファントム役に彼を指名した。

またブロードウェイから「レ・ミゼラブル」リヴァイヴァル版出演のオファーが来た。アンジョルラス役かと思いきや、ジャン・バルジャン役だと聞き「俺はもうそんな年寄りになったのか!」とショックを受けたと彼は冗談交じりに語った。そして同役でトニー賞ミュージカル主演男優賞にノミネートされる。更に彼は「オペラ座の怪人」の続編「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」ファントム役のオリジナル・キャストを務めた。来年4月には新作ミュージカル「アナスタシア」でブロードウェイの舞台に再び立つ予定(3月23日からプレビュー公演)。これは1997年に20世紀フォックスが製作したアニメーション映画を基にしているが、ラミンが演じるのはアニメに登場しない舞台版オリジナル・キャラクター(悪役)だそうである。

ラミンはイラン・テヘラン生まれで現在はカナダ国籍。僕が彼の生歌唱を聴くのはこれが3回目である。

東京のゲストが中川晃教で大阪は濱田めぐみ。僕はこぶしが効いた濱田の歌い方が苦手なので(鹿賀丈史を彷彿とさせる)、本当はアッキーの方が良かったなぁ!でもまぁこの際、贅沢は言いますまい。

今回のセット・リストは、

  • 序曲
  • 「サンセット大通り」Sunset Boulevard
  • 「カンパニー」Being Alive
  • 「エビータ」High Flying, Adored
  • 「ジャージー・ボーイズ」君の瞳に恋している
  • 「オペラ座の怪人」Point Of No Return
    (濱田めぐみと共演)
  • 「ミス・サイゴン」命をあげよう(濱田)
  • 「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」プロローグ(コーラス3人)
  • ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)by ジョン・レノン&オノ・ヨーコ
  • 「ラ・マンチャの男」見果てぬ夢
  • 「レ・ミゼラブル」Bring Him Home
  • 「レ・ミゼラブル」On My Own(濱田)
  • 「エビータ」ブエノスアイレス(濱田)
  • 「オペラ座の怪人」All I Ask Of You(コーラスの一人と共演)
  • 「アイーダ」Elaborate Lives(濱田と共演)
  • 「ラヴ・ネバー・ダイズ」君の歌を聴けるまで
  • 「ムーヴィン・アウト」ピアノマン
  • 「コーラスライン」愛した日々に悔いはない
  • 「レ・ミゼラブル」夢やぶれて
  • Christmas Eve (English Ver. ) by 山下達郎
  • 「チェス」Anthem

ラミンによると、彼は「ミス・サイゴン」のクリス役を14ヶ月の契約で演ったたという。「日本の舞台にも立ちたい。いっそのこと1年くらいいたい」「他の国のファンから『どうしてそんなにしょっちゅう来日するの?』と言われるんだけれど、僕がウエストエンドやブロードウェイの舞台に立っている時に日本のファンがわざわざ駆けつけてくれたからね。だからそのお返しをしないといけない」などとリップ・サーヴィスたっぷりで、実に気さくなナイス・ガイであった。

張りのある美声、伸びる高音を堪能した。「ラ・マンチャの男」のアレンジがボサノバ・タッチで面白く、「ピアノマン」は劇的で(物語が感じられ)、オリジナルのビリー・ジョエルより良かった。また「コーラスライン」の”愛した日々に悔いはない”は絶唱だった。

ただ「レ・ミゼ」の”夢やぶれて”が聴けたのは貴重だったのだが、これは元々ファンティーヌという女性の歌。

But the tigers come at night
With their voices soft as thunder
As they tear your hope apart
As they turn your dream to shame

He slept a summer by my side
He filled my days with endless wonder
He took my childhood in his stride
But he was gone when autumn came
And still I dream he'll come to me
That we will live the years together

でもトラたちが夜に現れ
その声は柔らかい雷鳴のよう
彼らはうら若き乙女の希望を引き裂き
夢を恥辱に変えるのよ

彼は夏の間中私の傍で寝た
そして私の日々を終わりのない驚きで満たした
彼は幼かった私に楽々と対処した
でも秋が来ると立ち去ってしまった
そして私は未だに彼が戻ってくるのを夢見るの
何年も一緒に過ごすのだと信じて

つまり「悪い男が突如目の前に現れて、初(うぶ)な私を騙し操を奪い、逃げ去った。こうして私は未婚の母になった」という内容なわけだが、ラミンはこの歌詞のHeをSheに変えて歌った。「それって一体全体、どういう状況なん???」と頭の中は疑問符だらけになっちゃった。

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2016年12月14日 (水)

エリザベート TAKARAZUKA 20周年 スペシャル・ガラ・コンサート

12月13日(火)梅田芸術劇場へ。

宝塚雪組でウィーン・ミュージカル「エリザベート」が日本初演されたのは1996年。それから20周年を迎えたことを記念するスペシャル・ガラ・コンサートへ行った。初演メンバーによるモニュメント、フルコスチューム、アニバーサリーと3つのバージョンがあり、僕が観たのはフルコスチューム版。2007年雪組版を中心としたキャストだった。

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ただし、フランツの初風緑は2005年月組、少年ルドルフの月影瞳は1996年星組のキャスト。樹里咲穂はルキーニを本公演で演じたことがなく、1998年宙組の東京公演ではルドルフを演じた。

2007年雪組版を観た当時の感想は下記事に書いた。

2012年に開催されたガラ・コンサートの様子は下記。

兎に角、懐かしかった。水夏希のトートは爬虫類系で、ネットリ粘液を分泌しながら絡みつく感じ。異形ではあるが、これはこれですこぶる面白い。僕が一番好きなトートは花組の明日海りお(正統派!)で、次点が東宝版の城田優(セクシー)。その次ぐらいに水を推したい。

エリザベートのNo.1が花總まりであることは論を俟たない。No.2は白羽ゆりかな。最初登場したときは頬紅が濃いな〜と思ったが、肖像画と同じエーデルワイスの髪飾りと豪華な白いドレスで登場する1幕フィナーレでとても映えた。ここに照準を合わせていたんだね。2幕になると薄化粧になり、違和感はなくなった。さすがに9年経つと若い頃のシシィはきついなーと感じたが、エリザベートが年を取るに従ってぐんぐん良くなる。息が長く演じられる役だ。

樹里咲穂のルキーニは元々上手い人なので、個性は乏しいが手堅い仕上がり。秀逸だったのが未来優希。猛烈なゾフィーで目力が半端ない。これは出雲綾を抜いて歴代ベストだと太鼓判を押したい。あと少年ルドルフは月影瞳が一番好きなので、生で観れて良かった。

DVDが発売されるそうなのだが、どうしようかな〜。我が家には雪組初演版以降の「エリザベート」で溢れているから。

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2016年12月13日 (火)

「君の名は。」劇場用パンフレット第2弾登場!〜新海監督が質問に答えてくださいました。

「君の名は。」空前の大ヒットを受け、東宝はパンフレットの第2弾を12月9日(金)から劇場で販売開始した。

映画上映期間中にパンフレット第2弾が発売されるというのは異例の事態であり、ボリュームたっぷりで読み応えあり。特に新海誠監督の講演を採録した章と、公式サイトから募集した観客からの質問(総計2000件以上あったという)に監督が答える7ページは圧巻。内容が深く濃く、初めて明かされる事実が満載されている。

そしてな、な、なんと僕の質問も採用されていた!村上春樹の短編小説「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」(講談社文庫「カンガルー日和」に収録)と「君の名は。」の関連について。監督からの回答はパンフレットをご購入の上、ご確認ください。

なお、ブログではこちらの記事でその件について触れている。

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2016年12月12日 (月)

やっとコルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲の実演が聴けた。〜大響定期

12月8日(木)ザ・シンフォニーホールへ。

寺岡清高/大阪交響楽団、小林美樹(ヴァイオリン)で、

  • コルンゴルト:「雪だるま」前奏曲とセレナーデ
  • コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲
  • ツェムリンスキー:交響詩「人魚姫」

漸くである。この日が来るのをどれだけ待ち続けて来たことか!

僕がエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲を初めてCDで聴いたのは今から30年前のことである。その濃厚なロマンティシズムにいっぺんに魅了された。パールマン、プレヴィン/ピッツバーグ響の演奏で、EMIの輸入盤。当時、国内盤は一切なかった。0である。初演者ヤッシャ・ハイフェッツの名盤ですら手に入らなかった。コルンゴルトは完全に忘れ去られた(日本人は端から知らない)存在だったのだ。

プレヴィンはその後、ドイツ・グラモフォンにギル・シャハムとアンネ=ゾフィ・ムターの独奏で2回この曲を再録音している。

ちなみにコルンゴルトの映画音楽「シー・ホーク」との高校時代の出会いについては下記事に書いた。

この30年で次第にコルンゴルトの再評価は進み、歌劇「死の都」も日本で初演された。

天下のウイーン・フィルも小澤征爾(2004年)とゲルギエフ(2006年)の指揮で2回、ヴァイオリン協奏曲をレコーディングするに至った。

東京では神尾真由子や五嶋みどりがコンサートでこの曲を弾いた。しかし中々、関西で聴く機会はなかった。

大阪交響楽団がコルンゴルトを演奏するのは楽団創設以来これが初めてである。大阪フィルハーモニー交響楽団は未だ一度もない(来年やっと定期演奏会でヴァイオリン協奏曲が取り上げられる)。東京に比べて大阪は完全に立ち遅れている。

「雪だるま」はコルンゴルトが11歳の時に作曲したピアノ曲に師のツェムリンスキーがオーケストレーションを施した(少年にツェムリンスキーを紹介したのはマーラーである)。優雅でウィンナ・ワルツの残り香がする。ただオケがもたついたのは残念。芯がないヘナヘナの演奏だった。

ヴァイオリン協奏曲の方も、「もう少し夢見るように奏でられないものか」とオケに不満が残ったが、ソロは悪くなかった。なにより生で聴けたことが嬉しい。

ツェムリンスキーの「人魚姫」も大好きな交響詩なのだが、滅多に演奏される機会がないのがとても残念だ。マーラーまで綿々と続いてきた浪漫派の終焉をそこに聴くことが出来る。

寺岡さん、次は是非コルンゴルトの交響曲 嬰ヘ調と、ツェムリンスキーの抒情交響曲を大響定期で聴かせてください!

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2016年12月11日 (日)

Film Musicへの扉を開いてくれたスタンリー・ブラックのことを語ろう。

僕が映画音楽に目覚めたのは小学校5年生の頃。ズービン・メータ/ロサンゼルス・フィルの演奏する「スター・ウォーズ」組曲をFMで聴いた時だった。第一作「エピソード4」公開前の話である。

高校生の頃購入したLPレコードに「フィルム・スペクタキュラー(FILM SPECTACULAR)」シリーズがあった。廉価版で確か1枚1,500円くらいだったと記憶している。

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スタンリー・ブラック/ロンドン祝祭管弦楽団・合唱団(London Festival Orchestra & Chorus)の演奏で、効果音も入り、なにより録音が抜群に良かった。

【フェイズ(phase)4】という1963年にデッカ・アメリカが開発した録音方式で、20チャンネルのマルチ・マイク・システムで収録した音を特別なミキサーを通してアンペックスの4トラック・レコーダーで録音、2チャンネルのステレオにミックスダウンするというものだった。ストコフスキーの一連の録音(シェエラザード、チャイコフスキー5番、J.S.バッハ編曲集)やバーナード・ハーマンの自作自演(北北西に進路を取れ、サイコ、めまい)、フィードラー/ボストン・ポップスのアルバムなどに採用されている。

ロンドン・フェスティバル管弦楽団は録音のために特別編成されたオーケストラらしい(似た例としてコロンビア交響楽団やRCAビクター交響楽団がある)。実力は折り紙付きで、ロンドン交響楽団やロンドン・フィルと同等。恐らくそれら楽員たちが参加していたのだと想われる。少なくともハレ管弦楽団、フルハーモニア管弦楽団より上。

編曲も見事で、格調高いシンフォニックな映画音楽を堪能した。

特に鮮烈な印象を受けたのがエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトが作曲した「シー・ホーク」組曲。兎に角冒頭トランペット・ソロが勇壮で格好いい!「スター・ウォーズ」の作曲に際し、ジョン・ウィリアムズがコルンゴルトの多大な影響を受けていることをそれで知った(後に聴いたコルンゴルト「嵐の青春(King's Row)」のテーマは「スター・ウォーズ」と瓜二つだった)。

他にフィルム・スペクタキュラー・シリーズで大のお気に入りになった映画音楽は、

  • ハインツ・プロヴォスト:「間奏曲」←独奏ヴァイオリンとピアノのみ。
    I・バーグマン主演のスウェーデン映画及びハリウッド・リメイク版「別離」に流れた。
  • マックス・スタイナー:「風と共に去りぬ」「カサブランカ」
  • ウィリアム・ウォルトン:「スピットファイア」〜前奏曲とフーガ
  • アーネスト・ゴールド:「栄光への脱出」
  • ジェローム・モロス:「大いなる西部」
  • ディミトリー・ティオムキン:「アラモ」←合唱が素晴らしい!
  • ロン・グッドウィン:「633爆撃隊 」←スカッとする!

このフィルム・スペクタキュラー・シリーズのごく一部は現在、ナクソス・ミュージック・ライブラリー NML でも聴くことが出来る。→こちら

大学生になりCD時代となり、そこで出会ったのがRCAレコードからリリースされていたチャールズ・ゲルハルト/ナショナル・フィルハーモニック管弦楽団の"Classic Film Scores"シリーズである。ナショナル・フィルも録音専用の臨時編成で、ロンドン5大オーケストラの首席奏者らが集められた。こちらの録音も優れものだった(ドルビー・サラウンド)。

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衝撃的だったのがエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト作品集(「シー・ホーク」含む)。プロデューサーはジョージ・コルンゴルトで1928年ウィーン生まれ。言うまでもなくエーリヒの息子である。ジョージは晩年にジョン・ウィリアムズ/ボストン・ポップス・オーケストラの録音プロデューサーも務めている。

スタンリー・ブラックもチャールズ・ゲルハルトも棒捌きが巧みで、いずれもスマートでシャープ。洗練されている。彼ら以上の解釈に今までお目にかかったことはない。またゲルハルト/ナショナル・フィルにはハワード・ハンソン:交響曲第2番「ロマンティック」の超名演もある。是非機会があれば彼らの演奏を耳にして頂きたいものである。

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2016年12月 8日 (木)

ミュージカル「キャッツ」(劇団四季)

11月26日(土)大阪四季劇場へ。ミュージカル「キャッツ」17:30の回を観劇。

出演はグリザベラ:早水小夜子、オールドデュトロノミー:橋元聖地、ミストフェリーズ:一色龍次郎 ほか。一色のキレのあるダンスが良かった。

僕は黒いテントを張って上演された1985-86年の大阪公演(キャッツ・シアター)から観ている。グリザベラは久野綾希子。また1995-96年のキャッツ・シアター@品川も観た。仮設劇場では客席前方部が舞台とともに180度回転した。シアター・イン・シアター(常設劇場)に移ってから、この演出はなくなった。

5歳の息子を連れて観劇。「キャッツ」といえば冒頭、真っ暗な中に目が光った猫達が客席に現れて、子どもたちがギャーギャー泣き叫ぶのが定番なのだが、夜公演だったためか、それはなかった。猫は何回か客席に降りてきてくれて、カーテンコールではしっかり握手もした。息子はちょっと恥ずかしそうだった。

幕間では舞台に上って見学することも許可された。一方通行で、息子は3回行った。ゴミ溜めという設定なのだが、たまごっちや通天閣のレプリカとかが転がっていて面白かった。

グリザベラは娼婦猫なので幼稚園児には到底理解出来ないだろうし、敢えて僕も何の説明もしなかった。しかし全体として概ね愉しんでくれたようでホッとしている。途中「ねぇ、もう帰ろう」と言い出したけれど、最後まで何とか持ち堪えた。

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2016年12月 6日 (火)

「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」の違和感

評価:B

映画公式サイトはこちら

Fantabe

J.K.ローリング自ら脚本を書いている。その出来は悪くなく、ハリー・ポッター・シリーズ後半よりは面白いかも知れない。

ただね、映画「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の後で「ホビット」第1作を観た時と似た気持ちになった。「また同じことの繰り返しか……」ヴォルデモート卿のような悪の権化=ラスボスがいて、主人公との魔法合戦が展開される。口数の少ない青年クリーデンスの面影は「ハリポタ」のトム・リドルそっくり。ワン・パターン。もうこの手の話には飽き飽きした。

「ハリー・ポッター」もそうだがJ.K.ローリングが描く世界は極めて単純である。正義と悪、人間と魔法使い……全てが二元論で提示される。悪い奴は最初から最後まで心変わりしない。これは典型的キリスト教の世界観(光と闇/天国と地獄/天使と悪魔)である。「スター・ウォーズ」の場合はもっと深みがあって、アナキン・スカイウォーカー(ダース・ベイダー)は正義(ジェダイの騎士)と悪(パルパティーン=皇帝)の間で苦悩する。つまり揺らぎ反転がある。J.K.ローリングにはそれすらない。ドラコ・マルフォイは?という反論があるかも知れない。しかし僕に言わせれば彼は揺らいでいるのじゃなくて、単に意思が弱くヘタレなだけ。つまり親父の言いなりだ。

我々日本人は従来、二元論で物事を考えない。人間を白か黒で分類出来る筈がない。もっと曖昧なものだ。光と闇、昼と夜の間には【かたわれ時(strange twilight world)がある。そこにこそ本当の価値・人生の真実が潜んでいるのだ。

物事を二元論でしか考えられないローリングとかアメコミはもう見限った。

あと「ハリポタ」も「ファンタビ」も映画の主要な役は白人(多くはイギリス/アイルランド人)が占めており、どうかと思う。多様性が欠けているのだ。実は作者自身がマルフォイ家同様「純血主義者」なのでは?

ハリー・ポッターその人も生まれながらに周囲から一目置かれており、ローリングの世界では本人の努力ではなく、血統で予め資質・能力が決まっているんだね。その価値観はある意味、英国貴族社会の全面肯定に繋がっている。

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デュメイ/関西フィルのメンバーによる室内楽

11月20日(日)伊丹アイフォニックホールへ。

オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン)と関西フィルのメンバーによる室内楽を聴く。

  • モーツァルト:フルート四重奏曲 第1番
  • モーツァルト:フルート四重奏曲 第4番
  • ドヴォルザーク:三重奏曲 ハ短調 作品74
    (休憩)
  • ブラームス:弦楽六重奏曲 第1番

デュメイは後半のブラームスのみ出演。モーツァルトでフルートを吹いたのは河本朋美。ヴァイオリンは今年4月に入団した第2ヴァイオリン首席の増永花恵。すごく上手い!ドヴォルザークではコンサートマスターの岩谷佑之と増永、ヴィオラの中島悦子が弾いた(岩谷・増永はブラームスに参加せず)。

モーツァルトの響きは柔らかく軽やか。爽やかな微風に乗って舞う蝶のようだった。フルートはロングトーンでもヴィブラートが控えめで、とても上品。

ドヴォルザークは民族的味わいと、切れがある演奏。硬と軟のコントラストが鮮明。英語で表現するならSparkle(きらめき、光彩)が感じられた。

ブラームスは名手デュメイの奏でる研ぎ澄まされた音がゴツくて強力で、他の奏者が沈んでしまった。特に第2ヴァイオリンがおとなし過ぎる!(教育的目的もあるのだろうが)ここは岩谷か増永が弾いて欲しかった。

室内楽ってやっぱり(スキルの)バランスが重要だなと想った。

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2016年12月 4日 (日)

「君の名は。」はどうしてこれだけヒットしたのか?〜様々な説を検証する。

「君の名は。」の興行収入は遂に「もののけ姫」(192億円)「ハウルの動く城」(196億円)を超え、200億円に達そうとしている。「ハリー・ポッターと賢者の石」(203億円)も目の前だ。

Kimi

1997年10月末、「もののけ姫」が興行収入のそれまでの最高記録だった「E.T.」(163.5億円)を抜かした時、製作総指揮をした当時の徳間書店社長(徳間康快氏)がこう豪語したことを懐かしく想い出す。

「米映画を完全に負かしたと言うこと。野球で言えば10対1。米に勝ったのは真珠湾以来ということです。『E.T.』は3年がかりの記録だったが、我々は最短距離で達成した。21世紀、22世紀が来ても抜かれることのない大きな数字だろう。」

しかしその翌年、「タイタニック」にあっさり追い抜かれることになる(最終272億円)。

「君の名は。」の空前のヒットは誰も予想出来なかった。新海監督の前作「言の葉の庭」の興行収入が1.5億円(1.3億という説もあり)だったので、川村元気プロデューサーや東宝宣伝部はその10倍の15億円、できれば20億円にまで達したら万々歳だと考えていたと証言している。

これまで様々な人達がヒットの理由を解析してきた。しかしどの理由もこの現象を説明し切れていない。真相は誰にも判りそうにない。結局一つだけの要因ではなく、多数のfactorが複合的に作用してその相乗効果で大爆発を起こしたというのが正解なのだろう。

1)SNS(social networking service)、口コミでの拡散

やはりこれは大きい。1週目よりも2週目のほうが動員数が伸びたという事実がそれを証明している。twitterなどSNS時代でなかったら、全く一般に名前を知られていない監督が創った(原作のない)オリジナル脚本のアニメーションが前作の100倍以上のヒットになる筈がない。「シン・ゴジラ」との兼ね合いもあり、公開日が8月26日だったというのも有利に働いた側面があるかもしれない。夏休みが終わり学校が始まって、そこで一気に話題が沸騰した。他にSNS拡散効果が目覚ましかった作品として、「この世界の片隅に」がある。初週は週末興行成績10位だったのだが、その後右肩上がりで3週目にはスクリーン数も14増えて6位に急浮上した(4週目は4位)。新時代を迎えて映画宣伝部も戦略の見直しを迫られている。

2)RADWIMPSのうた

ディズニー/ピクサーのアニメで最大のヒット作が「アナと雪の女王」(259.2億円)で、次に来るのが「ファインディング・ニモ」の110億円と「トイ・ストーリー3」の108億円である。「アナ雪」と「ニモ」には2倍以上の大きな差がある。これはやはりアカデミー歌曲賞を受賞した「Let It Go(ありのままで)」の力が大きいだろう。様々な人々が歌い、You Yubeにupされた。同様の現象がRADWIMPSの「前前前世」にも起こっている。両者は紅白歌合戦でも歌われることになった。「君の名は。」の劇中に4回RADWIMPSのうたが流れるが、各々が感情のピークに達するように映画を設計したと新海監督は語っている。NHK「クローズアップ現代」で取り上げられたSNSマーケティングの解析でも、「君の名は。」に関する話題で「RADWIMPS」というキーワードが半数以上を占めた(具体的データはこちら)。考えてみれば「タイタニック」もセリーヌ・ディオンが歌いアカデミー歌曲賞を受賞した"My Hart Will Go On"が大ヒットしたし、「千と千尋の神隠し」(304億円)では木村弓の「いつも何度でも」が流行った。

3)ムスビ

NHK「クローズアップ現代」”想定外!?「君の名は」メガヒットの謎”が中高年者を対象に独自の試写会を開き導き出した結論は、三葉のオバァちゃん(一葉)が語る「結び(組紐)」が人々の心を鷲掴みにしたということになった。これについて新海誠監督は次のようにtweetしている。

「運命の赤い糸」という言葉がある。「この世界のどこかに自分と出会うことを待っている異性がいる」という予感のようなものを心に抱いて生きている人々は多いのだろう。イギリスBBCラジオで映画評論家のMark Kermodeは「君の名は。」をシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」に喩えた→こちらに動画あり。考えてみれば映画「タイタニック」も「ロミオとジュリエット」同様に”運命的な男女の出会い”を描いている。これが全てとは思わないが、ヒットの一因であることは確かだろう。「タイタニック」がパニック映画のセオリー通り「グランド・ホテル形式」で撮られていたら、これほどの大当たりにならなかったかも知れない。ただ新海監督自身は川村元気プロデューサーとの対談で「僕は”運命の人”なんか信じていない。出会いは単なる偶然の積み重ねに過ぎない。現在の自分があるのは数々の選択をしてきた結果」だと語っている。つまり「運命の赤い糸」「ムスビ」で観客が感動しているのは作者の意図から離れた現象であり、「好意的誤解」とも言えるだろう。

4)東日本大震災の記憶

「シン・ゴジラ」と「君の名は。」は2011.3.11.の記憶と密接に結びついている。「あの日を境に世界の様相は変わってしまった。あの日以前に戻りたい。あの場所にもし自分がいたら、何か出来たのではないか?」という人々の想い、願いが本作に集約されており、共感を得られたのかも知れない。

5)日本人の潜在意識への働きかけ

上記事に書いたように「君の名は。」は平安時代に書かれた作者不詳の「とりかへばや物語」や古今和歌集、イザナギ・イザナミ・ミヅハノメといった日本神話に密接にリンクしている。それが日本人の潜在意識(無意識)の領域に届いた、琴線に触れたということも無視できないのではないだろうか?「千と千尋の神隠し」にも龍や八百万の神が登場する。また逆に、海外での大ヒットは日本独特の文化がエキゾチック・神秘的に映るのだろう。宮崎アニメでも「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「魔女の宅急便」など外国を舞台にした作品よりも、「となりのトトロ」「もののけ姫」「千と千尋」など日本が舞台の作品の方があちらでは評価が高い(米TIME誌が選ぶランキングはこちら)。

他にNHK「クローズアップ現代」では【風景描写の美しさ】【スピード感】もヒットの一因として取り上げられていたが、【風景描写の美しさ】は新海監督の「秒速5センチメートル」や「言の葉の庭」にも当てはまることだし、「千と千尋」や「アナと雪の女王」「タイタニック」に【スピード感】を感じるか?と問われたら、首を傾げざるを得ない。だから決定的事項とは言えないと想う。

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