トランプ大統領誕生と「君の名は。」大ヒットが意味するもの
ドナルド・トランプが次期アメリカ大統領に決まった時には世界に衝撃が走った。アメリカのマス・メディアによる世論調査では民主党のヒラリー・クリントン優勢が常に伝えられてきた。日米ジャーナリストの大半はあからさまにヒラリー支持者であり、彼女に有利な偏向報道がおおっぴらにされた。しかし、蓋を開けてみると彼等は悉く間違っていた。死屍累々たる有様である。
アメリカ在住の映画評論家・町山智浩は大統領選の行方に強い関心を持ち、週刊文春に連載している【言霊USA】に〈米大統領選スペシャル〉を執筆した。「映画のことだけ書いていればいいのに。ド素人が政治に手を出して何やってんだ」と僕は呆れ顔で観察していた。投票日前日、彼はテレビ朝日「報道ステーション」にも生出演した。
トランプ「私は大統領選挙の投票の集計結果を厳粛に受け止めよう。私が勝った場合はな!」https://t.co/06v9txGSmT
— 町山智浩・告知用 (@TomoMachi) 2016年10月20日
この選挙前の発言は、ジャーナリストたちから一斉に叩かれ、バカにされた。ところがトランプが勝つやいなや、彼らは豹変した。
アメリカ全体での得票数はヒラリー6084万票、トランプ6027万票と、トランプのほうが57万票も少なかった。トランプの得票数は、オバマに1千万票の大差で負けたマケインやロムニーよりも少ない。今回は全体の投票率が低くかった。https://t.co/GCNdOZTjAj
— 町山智浩・告知用 (@TomoMachi) 2016年11月12日
ヒラリーは得票数で勝ってるので、支持率でリードという事前調査は間違ってなかったんですよ。直接の敗因は五大湖地方の労働者票を失ったことで、彼らの救済案を出さずにトランプ支持者を「嘆かわしい人々」と蔑視したのが致命的でした’。@Kirokuro
— 町山智浩・告知用 (@TomoMachi) 2016年11月12日
結局、選挙結果を受け入れられないで未練がましく後からゴタゴタ言っているのはヒラリー支持者の方だという情けない顛末となった。大統領選のシステムに問題があるなら、選挙前から言え。「後出しジャンケン」は卑怯だ。言い訳するな、みっともない。
開票後の町山智浩と久米宏のラジオでのやり取りを御覧頂きたい→こちら。
彼だけではなく、ジャーナリストや国際政治学者たちの態度で呆れたのは、ほとんど誰も謝らないことである。自分たちの分析に欠陥があり、(報酬を貰い)誤った予想を公の電波や紙面で伝えたことに対する反省はないのだろうか?貴方達の存在価値って一体何??
その中で唯一偉いと思ったのが古舘伊知郎である。彼は11月9日にTBSで放送された《古舘がニュースでは聞けなかった10大質問!!だから直接聞いてみた》の中で、「私が間違っていました。ごめんなさい」と潔く頭を下げたのだ。見直した!
トランプ旋風で強く感じたのは新聞や週刊誌、テレビといった20世紀を席巻したマス・メディアの敗北・死である。彼らは意図的に世論を動かす力すら失った。
自分をモデルにした映画「市民ケーン」(1941)に激怒した新聞王ハーストが監督・主演のオーソン・ウェルズをハリウッドから追放したエピソードは余りにも有名だ。今では映画史上最高傑作とも言われる「市民ケーン」は結局、アカデミー作品賞も監督賞も受賞出来なかった。当時ハーストはいくつかのラジオ放送局、映画会社に加え、28の主な新聞および18の雑誌を所有していたという。世論を操作するなんてお茶の子さいさいだったのだ。ウエルズは後にヨーロッパを放浪する羽目になる。
それから一転、トランプ旋風の行方を決定付けたのは21世紀に登場したメディア、SNS(social networking service)であった。
- トランプ勝利的中、予測の鍵はSNS上の感情 南ア企業
(CNN.co.jp )
時代は間違いなく転換点を迎えたのである。
ここで想い出すのが新海誠監督「君の名は。」の空前の大ヒットである。今年中に宮﨑駿監督の「もののけ姫」「ハウルの動く城」の興行成績を抜き、200億円の大台に乗るのは確実視されている。新海監督の前作「言の葉の庭」の興収が1.5億なので、100倍どころの騒ぎではない。「君の名は。」が「千と千尋の神隠し」同様に、日本人の潜在意識に訴えるものがあったことは確かだが、やはりSNSでの拡散、口コミの力がなければ、ここまで話題にはならなかっただろう。インターネット時代の申し子と言える。
今や国民的作家となった宮﨑駿監督のアニメも、当初はそれほどヒットしなかった。「風の谷のナウシカ」の興収は14.8億円、「天空の城ラピュタ」の興収はたった5.8億円である。細田守監督も「時をかける少女」の興収は2.6億円しかなかった(9年後の「バケモノの子」は興収58.5億円)。
ふたりとも作品をコツコツと積み上げることで、長い年月をかけ次第に世間にその名を浸透させて行った。新作が公開される度に、その前日に日本テレビが「金曜ロードショー」で彼らの旧作を放送したことの貢献度も高い。しかし「君の名は。」公開まで全く無名だった新海誠は、そんな従来のメディア戦略を嘲笑うかのように前代未聞の跳躍、大爆発を起こし時代の寵児となった。SNSを前に、新聞やテレビによる宣伝効果は全く意味を失ってしまったのである。
【SNSを征する者は世界を征す】21世紀はそういう時代に突入した。各映画会社の宣伝部は方法論の革新を迫られている。
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