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時は来た(This Is the Moment)!今こそ語り尽くそう〜新海誠「秒速5センチメートル」超マニアック講座

誰も予想がつかなかった破竹の勢いで映画「君の名は。」がヒット街道を驀進中である。週末興行成績で公開初週(8月27、28日)の動員数が68万8000人、興行収入が9億3000万円だったのが、第2週(9月3日、4日)で動員数86万7000人、興収11億6000万円に膨れ上がった。つまり初週の124.8%を記録し、極めて異例な右肩上がりの成績となった。「シン・ゴジラ」より倍速のペースだという。最早誰も止められない。やはり口コミの力が大きいだろう。

東宝としては世間的な知名度の極めて低い新海誠監督の新作に大した期待をしていなかった筈だ。それは公開日が夏休みが終わろうとする8月26日に設定されていることからも明らかだろう。通常、スタジオ・ジブリや細田守監督のアニメーションは夏休みの始まる7月20日前後に公開されることが多い。今年の夏はその位置を「シン・ゴジラ」が占めたので「君の名は。」が後退せざるを得なかった。しかし怪我の功名というか、この仕打ちが本作にはむしろ有利に展開した。9月1日から2学期が始まり、中学生・高校生たちが学校の教室で「君の名は。観た?」「めっちゃ感動した!」「オレ、泣いたわ」と話題を拡散してくれた。だから今、映画館は高校生たちで溢れかえっている。マーケティングという大人の理屈・常識を超えて、作品の力が人々の心を動かしたのである。

僕は下記記事で新海誠監督「秒速5センチメートル」を第7位に挙げた。

そしてこんな記事も書いた。

ただ同時に、「ごく一部の熱心なファンしか知らないカルト映画について語っても仕方がない。だって誰も観ていないのだから」という想い、躊躇もあった。

しかし今は違う。「君の名は。」を映画館に観に行った観客の99%が過去の新海アニメを知らず、「新海誠、お前は誰だ?」状態で情報を求めている。

Dare

Amazonでも「新海誠Walker」というムック本が飛ぶように売れている。これから「秒速5センチメートル」や「言の葉の庭」を観ようとしている人達も多いだろう。

だからこそ、僕が死ぬほど好きな「秒速5センチメートル」について微に入り細を穿ち、改めて語りたいと想うのだ。今ならこの常軌を逸した戯言に耳を傾けてくれる人もいるだろうと信じて。時折「君の名は。」についても触れているので、最後まで諦めずに付いて来てください。

では早速、幾つかのキーワードをヒントに読み解いていこう。

5cm_2

1)距離感

今まで繰り返し述べてきたことなので簡素に。距離感は処女作「ほしのこえ」から「君の名は。」まで一貫して新海監督が追求してきたテーマである。それは空間・時間・年齢という全ての意味において当てはまる。

2)光と影の魔術

これは「君の名は。」で主人公の声を当てた神木隆之介くんがテレビの公開直前特番で挙げていたことで、「やられた!」と想った。七夕の短冊に「新海監督とカフェで開店から閉店まで語り合いたい」と書き、監督から「ちょっと重い」と言われた神木くんのひたむきなに脱帽である。負けました。「秒速」で僕が特に好きなショットは、第1話「桜花抄」ヒロインの明里が他に誰もいない明け方の駅のプラットホームで本を呼んでいる場面で、この世のものとは想えない太陽光の美しさ!そして種子島を舞台にした第2話「コスモナウト」のロケット打ち上げシーン。上昇する軌道上に出来たロケット雲に夕日が映えて、画面の半分に影が形成されるのだ。正に奇跡のような瞬間(とき)である。

3)神の目

これは「宇宙からの視線」と言い換えてもいい。新海作品には時折、上空から捉えたショットが登場する。僕はそこに神の目を見る。「ぼく」と「きみ」の関係が宇宙規模にまで広がってゆく。「ほしのこえ」がそうだし、「秒速」も勿論そう。第2話「コスモナウト」で打ち上げられた小惑星探査機ELISH(エリシュ)は太陽系外を目指す。二十億光年の孤独。「君の名は。」の彗星も象徴的だ。RADWIMPSの歌詞も時間と空間の広がりが半端ではない。「コスモナウト」は草原で主人公の貴樹と明里(とお思しき女性、顔は見えない)が日の出を見つめている場面から始まる。地平から登ってくる太陽の上には巨大な惑星が見える。どうも地球のようだ。ということは…彼と彼女がいるのは…月? この幻想性、スケールの大きさこそ新海誠の真骨頂と言える。

4)鉄道(電車)への執着/フェティシズム

一目瞭然、説明不要。

5)聖地巡礼

新海アニメを観るとその舞台となった場所に足を運びたくなるようである。それをファンは聖地巡礼と呼ぶ。「秒速」を観てわざわざ種子島にまで旅して写真を撮ってきた人たちのブログが複数存在する。「君の名は。」でも既に聖地巡礼は始まっている。例えばAKB48/HKT48を兼任する宮脇咲良。記事は→こちら。また飛騨市図書館には次のような張り紙が掲示されているという。

新海誠は東京都内の何でもない場所を、途轍もなく魅力的な空間に変えてしまう魔法を持っている。神は細部に宿る。彼の手掛けるアニメは「それでも世界は美しい」と感じさせてくれる。その画に魅了されて、若者たちが大挙して押し寄せるのである。神木隆之介くんはそこに行けば「言の葉の庭」のユキノ先生に会えるんじゃないかと信じて、新宿御苑まで足を運んだそう。でも当然いるはずもなく、遭遇した同じファンの男の子と言葉を交わしたのだとか。

僕は高校1年生の夏に日テレの初放送で大林宣彦監督の「転校生」に出会い、続いて映画館で原田知世主演「時をかける少女」を観て瞬く間に大林映画に恋をした。そして「さびしんぼう」公開後、何度も広島県尾道市に旅をしてロケ地マップを手にロケ地巡りをした。その頃のことを懐かしく想い出す。だから聖地巡礼している若い人たちよ、君は僕だ。

6)男と女

「秒速」のファンは圧倒的に男性が多い。そもそもこの物語の主人公・遠野貴樹は小学生の時の淡い初恋を立派な社会人(システムエンジニア)になった26歳まで引き摺っている男である。女性に彼の心情は到底理解不能であろう。一方の明里はすっかり彼の記憶を無意識層に押し込んで、別の婚約者がいる。久しぶりに彼のことを想い出すのは、結婚の準備で身辺整理していたら中学生の時に渡す筈だった手紙がたまたま出てきたからである。男と女の違い。ここらあたりの描写は実に残酷である。一般に新海誠はすれ違いのメロドラマを書く甘いロマンティスト(夢想家)のように思われているが、案外リアリストなのかも知れない。貴樹は中学生の時、別れ際に明里から言われた、「貴樹くんは、きっとこの先も大丈夫だと思う。ぜったい!」という言葉だけを心の拠り所にして、それから十数年生きてきた。何だかとっても切ないね。

7)NTTドコモ代々木ビル(ドコモタワー)

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「言の葉の庭」や「君の名は。」にも繰返し登場するドコモタワーは「秒速5センチメートル」第3話で山崎まさよしの歌「One more time, One more chance」が流れる約5分間の間に10カット以上描かれている。余っ程好きなんだね。何でも性的なものに結びつけたがるフロイトだったら差詰めこれを「勃起したペニスの暗喩」と評するのだろうが、コメントは差し控えたい。

ここで想い出すのがフランソワ・トリュフォー監督(「大人は判ってくれない」「突然炎のごとく」「恋のエチュード」)。トリュフォーは引っ越し魔だったが、常に彼の住処からはエッフェル塔が見えたという。自伝的な作品「大人は判ってくれない」冒頭のタイトルバックはキャメラがあらゆる方向からエッフェル塔を執拗に追い続ける。それは最早偏執狂的ですらある。

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因みに「秒速」第1話「桜花抄」も東京が舞台だが、ドコモタワーは全く見えない。その時代設定(1990年代前半)に塔は完成していなかったからだ(2000年9月竣工)。

8)フェードアウト/フェードイン

「秒速」の特徴としてフェードアウト/フェードインの多用が挙げられる。画面が段々薄くなって消えていくのがfade-out、真っ暗(あるいは真っ白)な状態から次第に画面が現れてくるのがfade-in。この繰り返しによって、ゆったりとした独特のリズムを生み出しているのだ。「君の名は。」の場合、疾走感を大切にしているのでフェードアウト/フェードインは少なめになっている。

9)影響を与えた映画・テレビドラマ

「秒速」に岩井俊二監督の映画の痕跡を見出すことは容易だろう。桜の情景は「四月物語」だし、図書館の貸出カードや、窓が開け放たれた教室に風で揺れるカーテンのイメージは「LOVE LETTER」だ(この【教室の揺れるカーテン】は山下敦弘「天然コケッコー」や本広克行「幕が上がる」、欅坂46「世界には愛しかない」MV等でも応用されている)。第1話「桜花抄」冒頭の踏切で明里が言う「貴樹くん!来年も一緒に桜、見れるといいねっ!」は「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」で奥菜恵が言う、「今度会えるの二学期だね。楽しみだね」に呼応する。つまりどちらも【その時】は永遠に来ないのだから。岩井俊二が初めてアニメーション映画に挑戦した「花とアリス殺人事件」のエンドロールにはSpecial Thanks に新海誠とクレジットされており、そのお返しとして「君の名は。」エンドロールのSpecial Thanksに岩井俊二の名前が入っている。

「君の名は。」には明らかに「転校生」と「時をかける少女」の引用があり、漸く新海誠が大林宣彦の映画を好きなのだと確信出来た。「秒速」で踏切のシーンは「転校生」が濃い影を落としており、種子島で貴樹が弓道部に入っているのは「時をかける少女」だ。また「桜花抄」の過剰(自己陶酔的)モノローグは「さびしんぼう」を連想させる。

「桜花抄」に於いて中学生のふたりが納屋で一夜を過ごすのは倉本聰脚本の「北の国から '87初恋」からインスパイアされていると監督自身が告白している。また「コスモナウト」の花苗が海から上がり、下着姿で毛布に包まっているのも「初恋」の影響だろう。純くんこと吉岡秀隆は新海監督「雲のむこう、約束の場所」で声の出演をしている。

10)影響を与えた小説

「秒速」の明里はいろいろな本を読んでいる。夏目漱石「こころ」、トルーマン・カポーティ「草の竪琴」、そして村上春樹「蛍・納屋を焼く・その他の短編」である。これらにはちゃんと意味があるので「秒速」を好きな方には一読をお勧めしたい。「草の竪琴」の舞台となる草原は「コスモナウト」に繋がっているし、NHK「トップランナー」に出演した時、新海は「大学時代は村上春樹の作品ばかりを読んでいました」と語っている。特に「ノルウェイの森」が好きで、「言の葉の庭」の台詞にも同作からの引用がある(「私たち、泳いで川を渡ってきたみたいね」)。因みに「蛍」という短編を発展させたのが「ノルウェイの森」ね。

「君の名は。」は村上春樹の短編「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」を下敷きにしたのではないかと言われている。また村上は「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューに答え、長編小説「1Q84」は4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」から派生した物語だと答えている。

未熟な詩人は真似をする。成熟した詩人は盗む。
Immature poets imitate,mature poets steal.
(T・S・エリオット)

11)うたの魅惑

「秒速」のクライマックスは言うまでもなく山崎まさよしの「One more time, One more chance」である。ここで感情が大爆発。歌がまるでミュージカル映画のように主役の座を奪い、雄弁に語り始める。新海は曲のフレーズ(楽句)に合わせて細かく編集しており、それは例えばロバート・ワイズの「ウエストサイド物語」「サウンド・オブ・ミュージック」や、大林宣彦「時をかける少女」伝説のカーテンコールを想い起こさせる。この手法は「言の葉の庭」で秦基博がカヴァーした「Rain」(作詞/作曲:大江千里)や「君の名は。」のRADWIMPS「夢灯籠」「前前前世」でも継承されている。

最後に。RADWIMPSの野田洋次郎くん。NHKから紅白歌合戦出場のオファーがあったら、絶対断らんといてよ!頼むで、しかし。

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