小説家・佐藤泰志と映画「オーバー・フェンス」
評価:A
「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」に続く、佐藤泰志原作による函館三部作最終章。公式サイトはこちら。佐藤の小説と、今までの映画化の経緯については下記に詳しく書いた。
因みに原作小説が「三部作」になっているわけではない。佐藤は生まれ育った函館と東京を行き来する人生を送り、その作品の大半が東京または函館が舞台となっている(僕は彼が高校生の時に書いた「市街戦のジャズメン」から文庫本に収録されていない遺作「虹」まで全小説を読破した)。佐藤は一時期文学で身を立てるのを諦め、帰郷して職業訓練学校に入った。その経験が「オーバー・フェンス」に生かされている。しかし「きみの鳥はうたえる」が第86回芥川賞候補になったため、また上京する。「オーバー・フェンス」で5回目の芥川賞候補となり、落選した5年後に首吊り自殺した。
映画三部作で面白いのはプロデューサーと撮影監督は三作全て共通しているが、監督は全て別人が起用されていること。今回は「リンダ リンダ リンダ」「天然コケッコー」「マイ・バック・ページ」「苦役列車」「もらとりあむタマ子」の山下敦弘。山下監督はのほほんと、しかし「どっこい生きている」人間を描くのが得意なので、この素材はすごく合っていた。
とりわけ素晴らしかったのが高田亮(「そこのみにて光輝く」)の脚色である。中編「オーバー・フェンス」を読んだ時、僕は「こんなに薄い内容を、どうやって映画にするんだろう?」と訝しんだ(芥川賞選考委員による酷評はこちら)。高田が選択した方法はヒロイン・聡(さとし)のキャラクターを膨らませ、佐藤の書いた別の小説「黄金の服」の登場人物像を混ぜ合わせることであった。キッチン流し台の水道水で裸身をゴシゴシ擦るエピソードがそれに当たる。あと完全にオリジナルの設定で聡が「鳥になりたい」と鳥の求愛行動を模して踊るのが印象的だった。蒼井優はバレエをしていたのでこういうのが上手いんだよね(岩井俊二監督「花とアリス」クライマックスのバレエ・シーンを想い出した)。彼女の「ぶっ壊れている」感じが良かったし、オダギリジョーも好演。
曇天の空に鳥が飛んでいるオープニング・ショットがとっても素敵で(閉塞感!)、函館山の寂れた公園の場面は物悲しく、佐藤泰志の世界(=灰色)に相応しいと想った。
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